虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「愛さえあれば」

toshi202013-06-10

原題:Den skaldede frisør
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トマス・イェンセン



 私の人生はこれからだ。



 そう思った矢先であった。
 デンマークで美容師をしているイーダ(トリーネ・ディアホルム)は乳がんを患い、長年の闘病生活を強いられた。ながく苦しいトンネルを抜け、ようやく退院し、私の人生はこれから。娘はイタリアで挙式を挙げるし。息子は立派に成長して軍人になった。式が終わったら、子供たちの心配はしなくていい。とりあえず夫と旅行でも行こうかしら・・・。
 そんなことを考えながら、病院の検査を終えて家に帰ったら。


 夫が若い娘と浮気してた。


 で、「君が病気で寂しかったからだ」などと言い訳して、家を出て行き、娘・アストリッド(モリー・ブリキスト・エゲリンド)が式を挙げるイタリアに1人で向かってしまった。
 ぼーぜん。
 結局1人でイタリアへ向かわなければならない。空港に着いて慣れない駐車場の車庫入れに手間取っているうちに、どこかの高級車と接触してしまう。相手の男は激高してなじってくる。
 私の人生はこれからのはずだったのに。なんでこうなるの?頭がパニックになってしどろもどろ。
 パニックに陥りながらも、結婚式のためにイタリアへ向かうことを相手に伝えると、男はけげんな顔をした。「・・・僕も結婚式のためにイタリアへ行くんだが」。男は、娘の結婚相手の父親・フィリップ(ピアース・ブロスナン)だった。


 こうして、イーダはフィリップとともに、互いの子供の結婚式へと向かうことになる。2人の相性は最悪。道中は嫌みの応酬。そんなことをしているうちに、挙式が行われる南イタリアのソレントへと到着。イーダは娘と再会する。


 結婚式に集うのは、乳がん克服して早々、夫を寝取られた花嫁の母・イーダに、横柄で偏屈な経営者である花婿の父・フィリップ、とある秘密を抱えた娘の結婚相手パトリック、フィリップに片思いして猛アタックするパトリックの叔母ベネディクテ、そして若い浮気相手とともに現れたイーダの夫・ライフ(キム・ボドニア)。
 明るい雰囲気のイタリアで、人生の苦みを味わい、それでも明るく振る舞う人々。しかし、不穏の火種はすでにくすぶっている。
 イーダは抗がん剤治療のために髪の毛が抜け落ちてウィッグをつけている。彼女は夫から、娘の結婚式を前に屈辱を受け、全てを吹っ切るために、服もウィッグを脱ぎ捨てて、イタリアの海へと潜っていく。その姿を見たフィリップはイーダをおもんばかって、海へと走り出す。


 「すべて」を脱ぎ捨ててこそ、始まる、ロマンスの種。


 物語はロマコメの王道をたどりながらも、そこへと至る紆余曲折は痛くて、苦い。そして娘の結婚式には、波乱の展開が待っている。それぞれがそれぞれに懸命に生きている。その結果、傷つけ合うこともあるのが人間である。「アフター・ウェディング」のスサンネ・ピア監督は、ロマコメであろうとも、そこからは逃げずに描いてみせる。
 でもその「人間ドラマ」の苦みが甘いラストへの隠し味となっている。


 イーダの人生はこれからだ。


 例えその先が夕闇だとしても、「愛さえあれば」。いったんはロマンスへと向かいたい気持ちを断ち切った彼女は、これから先の人生を見据えて「ロマンス」を意を決して掴む。
 長く苦い人生だからこそ、「ロマンス」を最後の最後で全力で肯定する。そんな前向きな、正々堂々苦くて甘い「ロマンチック・コメディ」である。(★★★★)


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