虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ブルージャスミン」

toshi202014-05-18

原題:Blue Jasmine
監督 ウディ・アレン
脚本 ウディ・アレン


 「アナと雪の女王」の人気がすごい。


 公開当初から評価が高かったもの、まさかここまで人気を博し、歌が一人歩きするとは思わなかった。特に人気が高いのが、主題歌、劇中歌となる「Let it go」で、その歌の人気への話題が先行しすぎて、逆に、あの歌が痛みと哀しみを伴った歌であることが忘れ去られる結果となっている気がするのは、あの作品を少なからず好きな人間にはちょっと複雑な気持ちではある。


 過去は過去。私は私である。1人でも大丈夫。少しも寒くない。


 しかし、この歌を歌うには若さがいる。


 本作の主人公・ジャスミンケイト・ブランシェット)はニューヨークの元・セレブリティの妻で、今は破産して、サンフランシスコの「妹(血縁関係なし)」でシングルマザーのジンジャー(サリー・ホーキンス)の家に身を寄せよるために、無一文の彼女はブランド物に身を固め、「ファーストクラス」に揺られながら空路を行く。
 彼女の中では「過去」は時に「現実」だ。
 彼女はふいにセレブ時代の「過去」の世界にふっと頭が飛んでいく。彼女は心のどこかで自分が没落したのだという現実を受け入れられずにいる。元・里子で、里親に甘やかされ、在学中に見初められ結婚した彼女は、とんと社会生活というものを経験せずに生きてきた。
 セレブ生活を満喫してきながら、夫・ハル(アレック・ボールドウィン)の仕事のいかがわしい側面も知らず、不倫されてることにも気づかない。夫の逮捕を皮切りに、屈辱的な破滅を経験し、それでもプライドだけは捨てない。「私は完璧主義」という根拠のないプライドだけが肥大化し、現実を受け入れられないのである。そんな彼女は精神を病んできており、精神安定剤ウォッカが欠かせない。


 妹・ジンジャーは、ジャスミンが奨めた彼女の元夫の不動産投資の失敗により経済的損失を被ったことで夫婦仲が険悪となり、家庭が崩壊したことがシングルマザーになった原因で、今は新しい恋人といずれ結婚しようと思っている。だが、ジャスミンはカレのことをばっさり斬りまくる。「あなたにはもっとマシな相手がいるでしょう?」と。
 里子時代から、ジャスミンに対して過大なコンプレックスがあるジンジャーは、自分の価値を低く見積もる傾向はあるし、ジャスミンはある意味彼女のあこがれの姿でもあった。没落し、今の家に居候するも経済観念が完全におかしくなっているジャスミンではあるが、ジンジャーは彼女を見捨てられないし、彼女の言うことをどこかで心の片隅に留めていたりもする。
 なにより男の趣味がかぶらないので、友情は壊れなかったりもする。


 元セレブにして無一文なジャスミンは、インテリアデザイナーになるためにまず、パソコンを覚えることから始め、その資金を得るために、歯医者の受付として働き始めるも、歯医者にモーションをかけられてうんざりした彼女は、そこを辞め、一発逆転、セレブリティーへの復帰のために、サンフランシスコで新たな「出会い」を求めて、パソコン講座の知り合いのパーティーに出席。
 そこで、政界進出を狙う野心的な外交官・ドワイト(ピーター・サースガード)に見初められた彼女は、セレブリティーの妻として復帰するために動き出す。

 一方、そのパーティに一緒に付き添いで出席したジンジャーにも、「新たな出会い」が待っていた。


 この映画のウディ・アレン監督は、久々に冷徹な女性観を全開にしている。ジャスミンをセレブ時代の「過去」が忘れられない虚栄に溺れた馬鹿な女として徹底的に描き、妹のジンジャーもまたダメな男を次から次へと引き寄せる磁石でもあるのか、というようないわゆる「だめんず」ぶりを描き出す。
 里子出身「姉妹」のたどった人生と生き方はキレイに色分けされ、それぞれに男に翻弄された人生の中の呉越同舟であることが描かれている。
 しかし、いつまでもその船にいるつもりは、お互いにない。


 ジャスミンはドワイトとの未来「政界進出の夫を支える妻」としての自分に人生のすべてを賭ける。


 過去は過去。私は私。私は新しい私になるの!


 だが、しかし。過去は容易には彼女の足下に絡みついて、「解き放って」はくれないのである。歳を重ねれば重ねるほど、「過去は過去」ではなくなる。まさに「Let it go」しようとしたその時、彼女は「過去」に追いつかれてしまうのである。


 美貌とプライドに中身が追いつかない「女王」な姉・ジャスミンと、ダメな男達やコンプレックス対象である姉に人生を翻弄され続ける「ほれっぽい」妹・ジンジャーという、里子姉妹の悲喜劇を、あくまでも辛辣な中にもユーモアを交えて描き出す。
 そのジャスミン像にケイト・ブランシェットはぴたりと見事になりきって、時にチャーミングに、時に愚かしく演じきってみせる。まさにハマリ役の一言である。(★★★★)

レット・イット・ゴー

レット・イット・ゴー