虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2025年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 皆様ご無沙汰しております。
 今年なんと50歳になってしまいました。それでも人生はさして変わらず、ブログ更新もせず、細々と旧Twitterでバズらぬ映画感想を書き続ける日々でございます。

 日本も相変わらず順調に衰退の道を辿り、そして人の心の荒むこと麻の如し、などと心のジコ坊がひとりごちます。
 少子化高齢化が進み、改善の見込みがない中、これからは外国人労働者を入れないと立ち行かない世の中になることはコロナ禍以前からすでにわかっていたはずなのですが、今や分断を煽ることによって人心を買う卑しい政治家ばかりの嫌な世の中になって参りました。
 世界中で起こっていた戦争もまるで収まる気配もない中、今年も暮れようとしております。

 映画界は、Netflixによるワーナー買収に象徴されるように配信プラットフォーマーの隆盛が極まり、映画館もアニメや邦画はそれなりに活況を呈する一方、円安の影響で洋画配給はいよいよ厳しさを増しています。これまでなら劇場公開されていた作品が配信に回ったり、リバイバル上映が増えたりと、課題も山積です。
 そんな中でも、せめて自分だけは変わらず元気に映画館に通い続けていけたらと思っています。


 というわけで、2025年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「みんな、おしゃべり!」


<選考理由>
 今年の東京国際映画祭で見て、その後劇場公開もされた作品。国籍・言葉・文化・社会。一般社会につながることにハードルがある人間たち同士の小さな諍いをきっかけにした、「他者と話す」「つながる」ことの壁をどう越えるかを模索する人々を描く喜劇。健常者/ろう者、日本人/クルド人、そのクルド人にも言語や事情にグラデーションがある。コーダや通訳担う若者の悩みも深い。そんな彼らはどこまで互いを理解できるだろうか。
 演技未経験の当事者もキャストに起用しつつ、彼らの「繋がるのが困難な状況」を可視化しながら、そこから生まれる微かな足がかりを戯画も交え、あくまで娯楽作として完成させた、河合健監督の丁寧かつ地道な演出に脱帽する快作であります。

9位「能登デモクラシー」


<選考理由>
 今年も様々なドキュメンタリー映画が公開され、様々な示唆を与えてくれた。その中で本作は長年手書き新聞を作ってきた男性に密着し、地道な取材を続けていたテレビドキュメンタリー監督が番組を完成させてのちに震災が起き、その後に生じた「ある変化」をフィルムに収めていく。
 五百旗頭幸夫監督の「はりぼて」は以前2020年の年間ベストにも選んだことがあり、本作でもその鋭さは健在だが、作品を重ねていくごとに感じるのは「善悪」を二元的に切り分けるのではなく、鋭く不正やその構造を明らかにする一方で、「社会」を良くするための人の『善性』を信じる事を決して手放さない。
 テレビも新聞も「オールド」などと揶揄されたり、自嘲したりして久しい。それでも矜持を忘れなければ、やれる事はまだある。まだあるさ。そんな希望を取り戻す展開に深く感銘を受けたのでした。



8位「劇場版TOKYO MER 南海ミッション」


<選考理由>
 今年までテレビシリーズも劇場版第1作も全くのスルーだったのだけど、公開された時に評判が良くて過去作全て予習して臨んだ劇場版第2作だが、想像を軽く超えた怒涛の畳みかけに心持ってかれてしまった。
 テレビシリーズは東京都知事肝入りの政治マターだった東京MER。「死者ゼロ」の理想を掲げた彼らの成果は、計画を全国規模に広げていく。その流れで喜多見が派遣され結成の運びとなった、南西諸島をカバーする南海MERが劇場版第2作の主役となる。
 ここで地方の医療の貧弱さ、そして起こりうる災害はむしろ大都市圏よりも大きいという問題点に着目しきちっとコミットしていく点が本作の凄さ。そして「死者ゼロ」の理想は手放さない。
 喜多見がシリーズを通して積み上げてきた信頼という名の貯金を全ベットし、場面場面の的確な判断力は言わずもがな、どんなに危機に陥ってもあらゆるツテやコネを総動員して最善の結果を求めていく。その救命総力戦ぶりに熱い涙を流す自分がいたのです。



7位「脱走」

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<選考理由>
 物語の骨子としては、「あらゆる手を使い脱北を目指す北朝鮮兵士」と「彼を執拗に追い続ける北朝鮮少佐」の追跡劇を描く活劇映画という、題材としても主題としてもやや手垢のついた話ではあるのだが、本作の特筆すべきはその「追跡側」であるヒョンサンのキャラクターの厚みにある。
 脱北を図る主人公とは幼馴染であり、主人公が脱走の罪に問われそうになった時、彼への情を施し、英雄として首都に呼び寄せ自分の近くに置こうとする。ロシア留学するほどのピアノの名手でありながら、その道を諦めて今の地位にいる。
 そんな彼が差し伸べた手を振り払うように脱北へと動き出す主人公を、彼は執拗に追跡し始めるのである。好人物であり異国で活躍する道を諦め現実に生きる男が、脱北を目指す幼馴染を追う任務の中で、自らの存在が引き裂かれていく。彼の中に生まれる身を切られるような葛藤こそが、この映画をより深く切ないものにしていると思うのである。

 

6位「教皇選挙」


<選考理由>
 もはや言うを待たない傑作というのは世評の通り。自分もそう思うが、選んだのはそれだけが理由ではない。実に学びが多い映画だという事である。
 長年旧TwitterというSNSで感想を書き続けている自分にとって一番の学びは、この映画の主題の一つである「確信」と「疑念」。である。
 この映画に集う「枢機卿」たちも我々と同じ神ならざる人の集積である。その中から1人、「教皇」というトップオブトップを決めねばならぬ。時に信念を持ち、それに従って突き進む。だがその決断はあっさりと誤りと判明したりする。常に「確信」と「疑念」はセットであらねば。
 「固着した確信」は「宥和」を拒絶する。SNSで起こる炎上から、失言から起こる外交的諍いから今も絶え間なく続く戦争まで。『引くに引けない疑念なき確信』は世界を蝕んでいるように思えてならない。
 「確信」と「疑念」の狭間で人類は悩みながらでも前進し、進化する生き物だとこの映画は示してる。我々に世界を「善く」あろうとする意思さえあれば。そんな学びと勇気をもこの映画はくれるのである。


5位「ドールハウス


<選考理由>
 別に贔屓の監督という意識はないのだが、長年映画ベストを選び続けていると「なぜか選んでいる監督」というのはいて。その1人が矢口史靖監督である。
 丁寧に練り上げた喜劇を提供してくれる監督の新作がまさかの「ホラー」(惹句ではドールミステリーだったが)。どうなる事かと思ったら、頭の先からしっぽの先まで見事に展開が練り上げられてて全編しっかり怖い、上質な「和製ホラー」を見せつけてくれた。
 この映画に関して名画座で監督が登壇するイベントに伺った際に聞いた話では、喜劇でもホラーでも綿密な物語の設計図のプロットを書いてから脚本に臨み、その脚本を「若手脚本家が書いた作品」としてプロデューサーに売り込んでたりする。
 丁寧な設計図たる脚本をもとに、映画を撮るのは喜劇もホラーも変わりがない。その姿勢が生み出した喜劇監督の新たな一歩に、脱帽であります。

4位「スーパーマン


<選考理由>
 「スーパーマン。マン?奴のどこが『人間』なんだ。」と悪役・レックスは吐き捨てる。
 本作では実の父と母の遺した「壊れたメッセージ」を頼りに地球人では成し得ない『弱きを助け強きを挫く』ヒーロー「スーパーマン」として活動を続けるクリプトン人の青年が、初めて活動の危機に直面しているところから物語は始まる。
 故あって故郷の星を喪い、地球で育てられた彼が地球人のために行なってきた「善行」は、分断を煽る情報が出てきた事で心も体も追い詰められていく。
 脚本も書いたジェームズ・ガン監督は彼を徹底的に悩みながら道を模索し続ける「移民の子」として描く。
彼の信念としての「正しさ」と奇しくも悪役に掘り起こされた正しさに対する「ある疑念」の狭間で揺れながら、それでも「正しき道」を見つけ、歩み始める。その悩みはこの、混沌な世界を生きる我々とも重なる。彼も我々も共に悩み考え続ける「人間」なのだと。


 

3位「君と私」

<選考理由>
 所謂韓国の「セウォル号事故」を題材にした映画なのであるが。この映画はそれを糾弾する映画という形を取らない。

 エントリの冒頭でも書いたけど、僕は今年50歳になった。この歳になってくると自分と同世代、もしくは自分よりも若い人の訃報に接する機会も出てくる。
 死は誰のもとにも不意に訪れる。だけどその前日まで当たり前に過ごしていた人生がありもする。この映画は「死の予感」を遠くに置きつつ、物語はそれとは無縁の青春時代の「とある1日」の映画として描いている。
 僕が映画をみて不意に思い出していたのは、僕よりも若く才能も将来もあった人の訃報であった。その彼は突然死ぬその日まで映画をみて、亡くなった。それが映画の物語とシンクロしてしまい、涙が止まらなくなってしまった。
 死は、覆らない。生は戻らない。だけど喪われた生にも重ねてきた人生も日常も「確かにあった」んだと。その普遍的な主題を具象化した物語に心持ってかれてしまった。

 

2位「トワイライト・ウォーリアーズ」


<選考理由>
 言わずと知れた、2025年における映画界、とりわけ香港映画というジャンルにおいて最もエポックな映画である。
 もちろん映画も最高なのだが、香港映画というジャンルそのものを一気に活況化させる起爆剤としてその波及効果は絶大で、その「現象」ぶりは長年陰日向にアジア映画も香港映画も地道に観てきた1人として痛快ですらあった。
 名画座でも過去の香港映画特集が組まれ、活況を呈する様を見ていると、人生何が起こるかわからないなと思う。この映画に続く傑作も登場し始め、本作を契機に動き出した流れが来年以降どうなっていくか。楽しみで仕方がない。この映画が切り開いた新たな未来に、乾杯。

 

1位「羅小黒戦記2」


<選考理由>


 圧巻、である。見終えた瞬間に1位にすると決めた。


 元はWEBアニメシリーズであり、映画シリーズはその前日譚である。そういう意味では成り立ちは「鬼滅の刃」に近い。だがその作りは大きく異なる。「羅小黒戦記」の映画版は、あくまで「映画」として作っている。「原作」なりの雛形に予算の時間を費やす形を取っていない。
 「羅小黒戦記」の映画版はあくまでも「映画」のために作られた物語を一から構築していて、しかもそこに現代性を加味していく。

 本作の脚本の洗練ぶりと硬軟自在、緩急も完璧。主題も「冒頭起きた事件により対象の恐怖を煽り分断を進める」思惑との対峙という、まさに「今の世界に響く物語」でありながら娯楽映画としての強度も凄まじい。物語だけでもない、演出だけでもない、ましてや予算や技術だけでもない。その編集や呼吸まで全て渾然一体となった「こういうのが見たかったんだよ!!」というものを見せてくれる。そこに一切の無駄がない。
 今や中国アニメはここまで洗練したものが作れてしまうのかと唸ってしまった。
 主人公たちメインの登場人物たちはもちろん、通りがかりの人々の動きから、見せ場の「見たこともない画」まで「細やかに行き届いた演出」が施されていて、幾度見ても発見がある。


 今年テレビ初放送されたwebアニメシリーズも好評、スピンオフ漫画「蘭渓鎮」も刊行し、映画版第1作公開の頃に比べて世界観も一気に広がった。

 間に合うならば、是非映画館で見てほしい大傑作である。

2024年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 皆様ご無沙汰しております。
 今年もしっかり旧Twitterシフトで映画感想を書き続け、こちらは放置している有様です。
 
 今年も正月から能登での地震に始まり、様々なことが起きました。解決しなければ課題を積み残したまま、今年も暮れようとしています。

 近年は配信が隆盛を迎える中、映画館で映画を見る事自体はゆっくりと「贅沢」であるかのよな空気が広がっています。クリント・イーストウッドという大ベテラン監督の新作映画が配信だけで公開され、映画館で上映されなくなる時代となりました。時代は静かに確実に、時に残酷に移っていきます。
 それでも映画館の火は消えない。映画館で新作映画を見る喜びをいつまでも味わっていけるように、私も微力ながら映画館で映画を見続けて、ネットの片隅で映画感想をつぶやきつづけたいと思っています。


 というわけで、2024年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「市民捜査官ドッキ」


<選考理由>
 昨年度映画ベスト10位「正直政治家チュ・サンスク」をはじめ、実は密かに推していた、韓国中年女性俳優の星ラ・ミラン主演映画初の日本正式ロードショー公開作品。普通のシングルマザーが詐欺被害に遭わせた組織を、逆に追い詰めていくという、実話ベース(!)作品。
 世の中、なにかと言えば「詐欺被害に遭うな」という圧に満ち、「被害者は迷惑」という「空気」を醸成していく中、この映画は「詐欺被害者」がヒーローになる映画となり、「詐欺被害者は一ミリも悪くない。騙す方が1000%悪い!」と高らかに歌い上げる。「騙す人間=頭いい。被害者=愚か」的な一部の謝った認識をもしっかり両断していく点が白眉であります。

9位「オッペンハイマー


<選考理由>
 世界中が2023年に公開している中、唯一の原爆被爆国の日本だけが、原爆製造の中心的役割を果たした科学者・ロバート・オッペンハイマーの伝記映画が2024年になってやっと公開された訳ですが。
 これはなるほど。日本人には大変きつい映画で、核兵器が作られ、そしてそれが日本があずかり知らぬ「ロジック」で国際政治に組み込まれていく中で、日本がいわば「格好の標的」として選ばれていく課程をしっかり描いている。
 日本での被爆描写をオミットしているからこそ、この映画は日本人にとってより衝撃が深く重いという、自分にとって「忘れがたい」映画でありました。
 



8位「パスト ライブス」

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<選考理由>
 今年最も刺さった「初恋」のリアルな寓話。幼き日に住む国を分かち、やがて12年ごとに再会する運命でつながれた「初恋同士」の2人。今も相手を憎からず思う、そこに立ちはだかるものとは。「初恋」が持つ、幻想の強さと、積み重ねた人生の相克という、ある種残酷でもあるそのリアルが深く心に染み入りました。


7位「ソウルの春」


<選考理由>
 この映画が韓国で公開されたのが昨年の11月で、日本公開が8月。この時点ではこの映画は「遠い昔に、韓国で起こった「悲劇的歴史の転換点」を抜群の演出力で描出した「実録フィクション映画」だった。いわば「韓国現代政治史における歴史的しくじり」を描いた映画である。遠い話である。
 ところが。本年12月。韓国大統領が戒厳令を発令する「暴挙」におよび、この映画で描かれた物語が切迫したリアルとして立ち上がってくる。そこで市民が、議員が民主主義を守るためにきちんと適切に行動し、悲劇に傾きそうな情勢を立て直す。その動きはこの映画のヒットによって「過去の歴史の汚点」に市民が向き合った結果だと思う。
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と世に言う。賢者ならざる我々は映画による「追体験」で学ぶ事ができる。それもまた「映画の力」なのだと思わされた映画なのでした。

 

6位「デッドプールウルヴァリン


<選考理由>
 「デッドプール」というヒーローは公式にも「無責任ヒーロー」と呼称されるように「下品な悪ふざけしているキャラクター」というイメージが流布しているわけだが、それはいわば「真面目である自分をごまかすため」のトリッキーな語り口に起因している。しかし、彼の根底にあるものは「生真面目すぎる」ほどの「まっすぐな情熱」を内包している。
 本作は従来の彼の「トリッキーな語り口」はそのままに、それが露悪になりすぎないかたちで彼本来の「まっすぐな情熱」が「ウルヴァリン」という「落ちぶれた20世紀フォックス系超ド正統ヒーロー」と並ぶ事によって、前面に出た快作となっている。ディズニーに20世紀フォックスが吸収され参入した外様の彼らが、本家マーベルの「マルチバース」路線を盛大に茶化し、その終焉を決定的にしたのも痛快である。大好きでーす!
 

5位「密輸 1970」


<選考理由>
 今年最も興奮した「活劇」である。1970年代の時代状況を背景にしつつ、だらこそ描ける犯罪映画として、密輸業者、海女、誰が他者を出し抜き「宝」を手にするか?という非常に優秀な「コン・ゲーム」要素も多分に含みつつ、一番の白眉はクライマックスに待っている圧倒的王道アクションシーンで、実に驚きに満ちている。一度見たら何度も見たくなる作品である。
 
 

4位「夜明けのすべて」


<選考理由>
 夜明けのすべて。「夜明け前が一番暗い」という言葉があるが、苦しい時期を「夜」と呼ぶならば、終わりに向かっている時が一番苦しい。月経前症候群PMS)やパニック障害。彼ら彼女らの苦しみは他者には容易には理解されない。だがともに障害を持つのならば、その溝を埋められるのかも知れぬ。
 この映画は決して「正解」を描いた映画ではない。だが、見た後に得た「何か」がずっと心を離れない。そんな非常に、言葉で容易に形容しがたい、まさに「映画」である。


 

3位「シビル・ウォー」


<選考理由>

 見る前はてっきり「B級アクション映画」のように軍人や兵士、政治家などの決断や行動によって「なんとか危機を乗り越える」物語なのかと思っていたら、世界はもう悪い方向へしか向かわない中、記者とカメラマンの4人がワシントンD.C.に向かう中で、地獄と化した米国を彷徨う。
 非常に刺激的なシーンがSNSミーム化してしまった作品だが、それはそれとして僕の中でこの映画が忘れがたい理由は別にある。
 いくつも戦場をファインダー越しに見て心が疲弊している女性カメラマンと、まだ何のキャリアもないカメラマン志望の娘。彼女が旅の課程で見る地獄の中で、二人の心はどう変わっていくのか。そして二人が選び取るもの。その皮肉な成り行きこそ、この映画が僕の心の中に刺さって抜けないものなのです。

 

2位「正義の行方」


<選考理由>
 今年「袴田事件」と呼ばれる事件で死刑判決を受けた袴田巖さんが、再審によって無罪となった。死刑確定者がえん罪かもしれぬ。その恐れはつねにある。
 この映画が扱っているのは「飯塚事件」という、1992年に登校中の女児2名が失踪、後日遺体となって発見された痛ましい事件である。この事件で逮捕された容疑者は死刑判決を受けた。そして、その刑は執行されている。
 この映画は事件を捜査する警察関係者、それを報道したメディア、死刑執行された容疑者はえん罪だったとして再審を進める弁護士、容疑者家族など、膨大なインタビューを敢行して描き出すのは、痛ましい事件の「謎」に真剣に向き合った人々の中にある「それぞれの正義」。そんなドキュメンタリーである。
 人は時に確信を持って「己の正義」に拠って行動する。ところが人は時にあっさりと間違う。ある者はその「確信」に固執し、ある者はあの時の「確信」は間違いではなかったかと迷い悩む。
 容疑者が死刑執行されてしまった今、本当の真相はわからないし、命は戻らない。この映画が問うのは、「人間が人間を裁くこと」の、その困難さである。そしてそれは「死刑」という制度の、間違った裁きを行った際の取り返しのつかなさにもつながっていくのである。
 この映画に「正答」はないが、選択を「誤った」のならそれが速やかに正される社会であってほしいと切に願わずにおれない。そんな映画である。



 

1位「ラストマイル」


 

<選考理由>
 元々、「アンナチュラル」も「MIU404」も大好きだったんだけど、世界観を共有しているお祭り映画として売り出されながら、結果、今年の映画で最も見て、最も見た後考えた映画でした。冒頭で「語らずに社会の構造と格差」を「画」で見せつけつつ、大手通販サイトの最新鋭「物流倉庫」を舞台に、未曾有の爆破事件を通して描く「それぞれの階層」のそれぞれの人が向き合わされる様々な「理不尽」。
 あくまで娯楽映画としての矜持を保ちながらも、この映画で描かれた社会の課題は映画の中ではすべて解決せず、観客は見た後も「それら」を持ち帰る事になる。

 テレビドラマから始まった「世界」が、新たな「映画」として見事に結実した、今年を代表する1本になったと思っています。

2023年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

 皆様ご無沙汰しております。

 「ブロガーとは何か」を突き詰めることから逃避し続け幾星霜。今年も「Twitter映画感想屋」の、年に一度のブログ更新の季節がやってきました。


 毎年言ってる気がしますが、今年は更に様々な悲しく、悲惨な事が世界で噴出し、日本でも旧来の膿みが一気に露わになった年でした。来年こそ、それらの課題に向き合い、解決へと年になる事を期待したいと思います。

 そうなる事で映画という娯楽もより豊かになると思うのです。

 

 というわけで、2023年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。


10位「正直政治家 チュ・サンスク」

<選考理由>

2023年新年最初に見た映画はシネマート新宿の特集上映で見た本作。コレが腹が捩れるほど爆笑。初心を忘れた保守系政治家が嘘をつけず国民への本音をダダ漏れさせていく展開に「社会映画としての批評性」まで獲得し、出てくる一言一言に笑いが止まらない。個人的に大変幸先のいい映画でありました。


9位「雄獅少年/ライオン少年」

<選考理由>

 伝統演舞である獅子舞を材に採った青春スポ根モノとして始まりながら、ジャンルを越えた変奏で物語を更なる高みへと飛翔する多段ロケットのような物語構成で、観客を見た事ない地平へと連れていく中国発傑作CGアニメーション

 

8位「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」

<選考理由>

 シリーズ第1作で多くの映画ファンを沸かせた傑作ぶりをみせた宇宙の独立愚連隊の旅は、その後MCUの荒波に揉まれ(製作も紆余曲折ありつつ).クルーたちは時に散り散りになりながらも三たび戻ってきた。彼らの旅をファンも大納得のそれぞれの終着へと導いた製作者たちに、最大限の賞賛と敬意を。


7位「ハント」

<選考理由>

 重厚な社会派テーマを扱いながら、俳優の初監督作品とは思えぬ手際のスピード感とテンションで娯楽作品として畳み掛け、政治スリラーとして複雑なプロットを取りこぼす事なく描き切る、今年の韓国映画の中でも頭ひとつ抜けた驚嘆の1本。

 

6位「映画 窓ぎわのトットちゃん」

<選考理由>

  おそらく今年1番のダークホース。予告編の内容からは想像だにしなかった傑作。大人たちの努力によってなんとか維持されていた「多様性の保たれた豊かな教育の場所」が戦争の激化によって次第に奪われていく様を、黒柳徹子が「幼少期の記憶」を掘り起こして描いたノンフィクション物語を原作に、見事に掬い取って描き出したアニメーションに、映画ファンの誰もが打ちのめされた。かく言う私も、である。脱帽。

 


www.youtube.com

5位「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」

<選考理由>

  日本でもようやく浸透し始めた性加害告発。ハリウッドの超大物プロデューサーの、「業界のアンタッチャブル」であった長年に渡る性加害を、慎重に事を進め、被害者の証言を粘り強く引き出し、世界に性加害告発の新たな潮流すら生んだ、2人の女性記者による激震スクープへと至る実録ドラマ。実際の音声を交え、そのあまりに高く分厚い壁、性被害告発の困難さをこれでもかと描き出した点が圧巻。一見を勧めます。


4位「ジョン・ウィック:コンセクエンス」


<選考理由>

  一匹の愛犬の死から始まった、引退した「伝説の男」の復讐劇は、やがて(裏社会の)多くの者の運命を巻き込み激変させながら突き進んできた。ついには。真田広之、そしてドニー・イェンを引っ張り出し、見せ場に次ぐ見せ場、惜しみないアクションを観客の眼前に流し込み、その奔流の果てにたどり着く潔い終着。4部作が終わる寂しさすら感じる暇を与えない怒涛の活劇の嵐に、大変満腹である。

 

3位「バービー」

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<選考理由>

 現実世界を反転させたような、「バービーランド」という「女子にとっての夢の世界」を舞台に、現実の「男性優位社会意識」が持ち込まれる事で起こる大混乱を描いた喜劇は、グレタ・ガーヴィグの見事な手綱によって男性観客が「そういう事だっのか!」と刺さる人続出の傑作となった。「女子の理想世界」は現実世界の合わせ鏡であり、バービー世界のクィアな存在はどういう扱いになったかまで読み込むと、この映画の深みに唸らされる事請け合いであり、死ぬほど笑って多くの学びを見る者に与えてくれる、深みを持ったエンターテイメントである。

 

2位「タタミ」

<選考理由>

 今年の東京国際映画祭で出会った映画。イランは、スポーツの代表選手にすら服従を強要する。政府に批判的な者は、国際的な評価を得た映画監督すら国内の作品上映を禁じられ、政府の指示に従わなかったスポーツ選手は亡命を余儀なくされる。そんな実例を基に、ジョージアアメリカ共同で製作されたこの映画が描く、柔道の代表選手とコーチという立場の違う2人の女性の苦悩と相剋に、自分は大変心揺さぶられた。

  この傑作が、1日も早く日本の映画館で配給される事を祈っている。

 

1位「ソフト/クワイエット」

 


<選考理由>

 今年最も深く深く自分の心に突き刺さり、未だに刺さったまま抜けない映画である。

 実を言えば。「愉快で楽しい映画」をあなたがお望みならばこの映画はお勧めしない。この映画で描かれる「ソレ」は、はっきり言って不愉快で醜く忌まわしい。

 

 この映画に出てくる、普通で、平凡で、穏やかに見えた女性たちが、次第に変貌していく恐怖。その真ん中にある「なにか」を描いている。

 しかし、忘れ難い「体験」として今も自分の中にある。

 

 だが。この映画が描いているソレは、とても大事なことでもある。

 この映画は。

 見ている側に「あなたががどんなに取り繕ってみても差別は差別である事、そして「最終的に差別により生まれた憎悪が行き着く先」を逃げずに描いているのである。

 時に正視に耐えない場面が続くこの映画は劇薬だが。しかし。人が時に目を逸らしてしまう大事な事を教えてくれる。

 

 この映画がくれた「体験」と、それに付随する「薫陶」を、これからも僕は忘れずに生きていこうと思っている。

2022年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。
 もうすっかり「Twitterで映画感想を書く人」になりつつありますが、今も映画を見続ける事が出来ています。ありがたい事です。

 毎年毎年、驚くべき出来事、悲しい出来事が続く時代にいて、それでも物語は、映画は時に時代の影響を受けて、時に時代を超越しながら生まれ続けている事が、暗い時代の道標であるような、そんな気もしているのです。

 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「ユンヒへ」


<選考理由>
長くずっと「自分」を押し込め殺して生きてきた韓国の主婦が、「初恋の女(ひと)」からの手紙をきっかけとした小樽への旅を通して自分を取り戻す。そのなんとも言えぬ社会の残酷さと、その過去を優しく新たな記憶で覆っていくように、未来へと歩く勇気を手に入れる。そんな物語にしみじみと涙してしまったのでした。

9位「NOPE」


<選考理由>
ジョーダン・ピール監督の新作は、ジャンルとしてはSFスリラーという事になるんだろうけど、映画の原初的衝動である「撮る」事が「敵と戦う事」と同期してくる展開、最高です。大好きな映画です。

8位「神々の山嶺


<選考理由>
夢枕獏の小説を谷口ジローが漫画化したコミックを下敷きにフランスでアニメ映画した作品で、日本描写に多少の瑕瑾はあるものの、とにかく丁寧にアニメーションとして落とし込み、登山家という「山に囚われた人々」の魂に、多少なりとも触れることが出来る追体験映画。映画館で見れて良かったです。


7位「こちらあみ子」


<選考理由>
ずっと長いトゲのように心に刺さり続けてる映画。多分僕らが子供の頃、多かれ少なかれ持っていた無邪気であるが故の残酷さをヒロイン「あみ子」が体現しているからで、だからこそ彼女を演じた大沢一菜さんの演技がこの映画の結末の、その全てを引き受けるほどの大きな器でもある映画だと思うのです。

6位「キングメーカー


<選考理由>
国民の声を反映させる為の選挙という「システム」の中で、その「穴」を巧みに利用する頭脳戦の面白さ、そこまでして「勝たせたい」と思わせる魅力的な政治家を体現するソル・ギョングの演技、目的が手段を正当化させた結果の皮肉な顛末など、政治サスペンスとしての面白さだけではない深度を持った傑作です。

5位「メタモルフォーゼの縁側」


<選考理由>
75歳と17歳。偶然出会ってしまった2人の女性が互いに踏み出すはじめの一歩。その尊さを描いた映画です。この映画の批評で「女子高生がメンターに導かれる物語」というものがあったけれど、それは違うんですね。2人は「共に歩む」存在なんです。だからこそ、この2人の関係性はこんなにもキラキラと輝いているのだと思います。チョー好き!

4位「RRR」


<選考理由>
大英帝国支配下にあるインドを舞台に、熱き友情!すれ違い!裏切り!ダンス!アクション!駆け引き!サスペンス!ロマンス!やがて訪れる、絶体絶命の危機また危機!かーらーの、反骨の大逆転劇!と娯楽映画に欲しいものは全てある!まさに、極上の満漢全席映画です。

3位「ペルシャン・レッスン」


<選考理由>
生き延びる為の「嘘」、それを維持する為の「手段」、幾重にも色を変える主人公と大尉の「関係性」。自らが生き延びながらも周囲の人々が次々と死地へと送られる理不尽な場所で主人公が導かれる結末に、ただ震えました。

2位「トップガン マーヴェリック」


<選考理由>
今年もっとも繰り返し映画館で見た映画です。36年の時を経て公開された「トップガン」の続編が、これほどの深みを感じさせてくる大傑作になるとは思いもしなかった。初見で衝撃を受け、何度も何度も映画館に通い、IMAX、4DXと味わい尽くしてなお、また見たくなる。そんな映画でした。

1位「THE FIRST SLAM DUNK

<選考理由>
僕が映画を見にいく理由。それは「見た事ない景色」を見にいく事だったりします。本作は原作者の井上雄彦自らがオリジナルエピソードを交え監督したアニメーション作品ですが、自らの作品世界を「アニメーション」の世界へ落とし込むどころか、アニメーションを使って表現の可能性を「拡張」さえしてみせた。

その結果、アニメーションとしても「未知の領域」へと踏み出したこの映画、見終えてその天才のストイックな凄みと作品が導かれたその高み、ただただシビれました。脱帽です。

映画はまだ進化できる。

2021年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。
 なんとか生きております。

 去年に引き続き色々大変な年にでしたが、映画方面では上映延期になってた映画が続々と公開され、面白い映画が目白押しの嬉しい悲鳴をあげる事態でした。
 そんな中から10本を選ぶ。いそいそと映画館に通い続けてきたツケを払う季節がやってきました。


 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「マリグナント 凶暴な悪夢」


<選考理由>実は悩みました。傑作かと言われるとそういうタイプの映画ではないし、簡単には「好き」とは言わせない禍々しさがあります。ただ。この唯一無二の「体験」は忘れがたく、そして見た誰かと共有したくなる。今年を代表する「事件」。是非一度見て欲しい。

9位「ファーザー」


<選考理由>今年のアカデミー賞授賞式を見ていた日本の映画ファンをざわつかせたアンソニー・ホプキンスの主演男優賞受賞。しかし、見た誰もがその演技に最敬礼を惜しまない。まさに圧巻の演技。そして下手なホラーよりも怖いアルツハイマーの父親から見た「世界」を描き切る演出脚本。二つの意味で「恐ろしすぎる」映画でした。

8位「アメリカン・ユートピア


<選考理由>虚飾を削ぎ落としたシンプルな舞台を、人と音楽と光で観客に新たな世界を見せる恐るべきコンサートフィルム。デイヴィッド・バーンの魔法に心躍る、至福の107分。映画の、音楽の、そして人間の可能性は無限だと思わせる希望に満ちた作品。映画館で見れて良かった。


7位「パーム・スプリングス」


<選考理由>タイムループものは幾つもある。だがここまで「何もかもをやり切った」作品はそうそうない。ヤレる事はすべてヤる!その先に主人公とヒロインが見つけたもの。まさにやり切る事の尊さを余す事なく描いた傑作です。

6位「すばらしき世界」


<選考理由>社会から盛大にドロップアウトした元殺人犯の男の人生の再生を、丁寧な取材をもとに、時に大胆に、ユーモアと悲哀も交えて描き出す西川美和監督の傑作。役所広司の硬軟自在の演技が、男の人生に陰影や深みをもたらしていく凄さに、ただ脱帽。

5位「いとみち」


<選考理由>青森の片田舎に住む、津軽弁ネイティブヒロインは、この映画で、何か大きなことを成し遂げる訳ではない。ただ。彼女が、外へ、自分の殻の外側へ一歩を踏み出す。その過程を丁寧に描き出したこの映画は、今年一番「愛おしさ」が止まらない作品でありました。

4位「悪なき殺人」

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<選考理由>東京国際映画祭で初めて見て、椅子から転げ落ちるような衝撃を受けてから2年。観客賞も受賞したこの傑作が邦題を「悪なき殺人」と変えて満を持して日本劇場公開されて久々に見たけれど、やっぱり新鮮に面白すぎた。人間ってこんなに滑稽で哀しく、面白くて愛おしい。是非見て欲しい。

3位「レイジング・ファイア」


<選考理由>年末も押し迫った時期に日本にやってきた、香港から放たれた今年最後の核弾頭。みんな大好きカンフー兄貴ドニーさんことドニー・イェンと、今最もセクシーな闇堕ち俳優ニコラス・ツェーが、むぎ出しの思いの丈をアクションでぶつけ合うラスト15分の衝撃を劇場で味わえ!これは義務だ!

2位「少年の君」

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<選考理由>
漆黒よりも昏い闇の中、出会う十代のふたり。光を求め合うように惹かれ合う二人が、残酷な運命の中で行う「ある決断」に心持ってかれて、見終えた後も涙が止まらなかった。どこまでも終わりなき人生のトンネルの中で、それでも光を求めてもがいていくふたりの、その姿に心打ち抜かれてしまった。

1位「フリー・ガイ」


<選考理由>
 自分には1年に1度、見終えた瞬間「今年1番はこれだ!」と確信する瞬間が訪れる事がある。今年、この映画を鑑賞後すぐ、ベスト1にすると決めた。
 すべての要素がことごとくツボにはまった上に、結末へと至る「タネ」は実は目の前にどんと置かれたまま、クライマックスにきちんと落とすその「クロースアップマジック」のような鮮やかなシナリオ運びがとにかく好きで好きでたまらない。惚れました。