虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ネクスト・ゴール!/世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦」

toshi202014-05-20

原題:Next Goal Wins
監督 マイク・ブレット&スティーブ・ジェイミソン

青い青い空だよ 雲のない空だよ
サモアの島 常夏(とこなつ)だよ
高い高いやしの木 大きな大きなやしの実
サモアの島 楽しい島よ
青い青い海だよ 海また海だよ
サモアの島 常夏だよ
白い白いきれいな 浜辺の広場だ
サモアの島 たのしい島よ


 日本ではこのポリネシア民謡で有名であるサモア。でも・・・サモアってどこ?本当にそんな島あんのか。


 ある。

 西側はサモア独立国。東側は米領サモアに分かれ、島国の例にもれず、欧米の脅威にさらされた歴史を持つ。
 米領サモアは、5つの島を国土に持つ国で、首都はパゴパゴ島のトゥイラトゥイラ。国家元首アメリカ合衆国大統領だがアメリカ合衆国の「州」としては編入されておらず、政治の執行官は準州知事が行うというスタイルを取る。アメリカ領なのだが、独自に議会、裁判所、そして政府がある。住民はアメリカ国籍だが、正式な市民権はない。
 主要産業は農業、漁業、観光。若者の多くがアメリカへの出稼ぎに行き、それによって経済的にはトントン。死刑制度はない。熱帯海洋性で多温多湿であり、降水量も多い。
 米領サモアは正式な自治法がないため、国連からは「非自治領域」と指定されいる。


 ・・・とここまで書いてはみたものの。
 日本でこの島国を正確に知っている人などどれくらいいるだろうか。オレは知らなかった。この映画で知って、WIKIPEDIA情報をかき集めてはみたものの、正確なところは「よくわかってない」。そんな国でもFIFAには加盟出来る。そして、当たり前だが、独自の風習、文化の中で生活している人々がいる。


 米領サモアの代表チームは、長くFIFAに認められた国の中で最も弱いサッカー代表の烙印を押されていた。国際大会でも長く勝ち星がない。チームはアマチュア選手の寄せ集め。彼らは仕事の後に、「代表チーム」として練習をする。プロはいない。
 そして、2001年、FIFAワールドカップ予選にて0対31でオーストラリア代表に国際Aマッチ史上最多の得点差で大敗。彼らには不名誉な記録がついた。この大敗でキーパーを務めていたニッキー・サラプは深いトラウマを植え付けられる。


 そんな、一度も勝ったことがない「世界最弱」のチームの元へ、アメリカからオランダ人監督・トーマス・ロンゲンが派遣されてくる。
 2014年6月からブラジルで本大会が始まるワールドカップ。その第1次予選で、「万年最下位」「世界最弱」の代表チームが初勝利を目指す姿を追ったドキュメンタリー。


 FIFA加盟の208カ国で「一番ワールドカップから遠い」国。だけど、彼らは誰よりも愛している。
 サモア独自の文化を持ち、その風習からなかなか練習が行き届かず、技術が愛に伴わない状況が続いていた。そんな状況をトーマス監督は、45分の試合に耐えうる持久力アップと、基礎の基礎からみっちり仕込むスタイルで彼らをイチから鍛え直していく。


 映画は、事故を娘を亡くした過去を持つ経験豊富なベテラン監督トーマスを筆頭に、記録的大敗を喫したトラウマを抱えながらもサッカーを続けるキーパー・ニッキーサラプ、「第三の性(ファファフィネ)」を持つディフェンダーとして世界初の代表選手となった「本作のヒロイン」ジャイヤ・サエルア、家族を養うために米軍に入り、韓国に駐屯していたが、代表チームのために「年次有休」全部使ってサモアに帰ってきた国内最優秀選手ラミン・オットなど、個性的な面々が、自分の人生を賭けてぶつかりあう。


 「万年最下位」「トラウマになるほどの屈辱的大敗」「そんなチームの前に現れる経験豊富な熱血指導者」「だが、対立する選手と監督」「だが彼らは、ぶつかり合う中で徐々にお互いを認め合い、やがて一つになって勝利を目指す!」


 世界最弱チームの話と侮るなかれ。この映画はドキュメンタリーにも関わらず、日本人好みの熱血スポ根の要素がすべて詰まっている。サッカーに魅せられ、サッカーを愛してきた人々が、困難を越えて、一つの目標に向かって動き出すその美しさは、まるで劇映画のようである。
 さらに、2009年のサモア地震が起こり、津波が国土を押し流していく事態が絡み、彼らの戦いはサモアの「復興」のための「祈り」も含まれてくるとなると、もはや日本人としては決して他人事とは思えない。


 しかし、製作者が賢明なのは、そうした部分をあえてさらっと触れながら、スポーツの楽しさ、美しさに構成を絞り、一つの目標に動き出す人々の「うねり」を追いかけている点がとにかく好もしい。そして、彼らは悲願の初勝利のために、ワールドカップ第一次予選に挑む!


 208のチームの中から1番を決める大会には最低でも「207」の「敗北」がある。しかし、この映画に描かれるチームたちよりも、本当に「悔いのない」負けを、208の国の中でどれだけの代表チームが味わえるのだろうか。
 この映画はそんな事を考えさせてくれる映画である。この映画を見た後、ワールドカップ本大会を見ると、より深くのめりこめるのではないかと思います。劇場が遠い方は「オンデマンド配信」もすでにされているようなので、そちらで是非。(★★★★)