虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「殺人の告白」

toshi202013-06-11

原題:Confession of Murder
監督・脚本:チョン・ビョンギル


 マスコミ関係者を集めた記者会見の席上。まるで韓流スターのような笑顔で、男は言う。「私は殺人犯です。」


 1995年に起こった連続殺人事件。その事件を追っていた刑事・チェ・ヒョング(チョン・ジェヨン)はあと一歩のところまで真犯人を追い詰めたものの、反撃に遭い、顔に手ひどい傷を負った。それは今も彼の顔に刻まれている。真犯人は言った。「お前は俺の犯した殺人事件の広告塔だ。」と。殺された女性の息子が自殺する現場まで目撃し、ヒョング刑事は心にも深い傷を負っていた。
 2005年に時効が成立。だが、ヒョング刑事は別の未解決事件に注目していた。


 2年後。連続殺人の真犯人を自称する男が、突如華々しく記者会見を開き、自叙伝「私が殺人犯だ」を発表する。その男の名はイ・ドゥソク(パク・シフ)といった。その自叙伝には「犯人」や「捜査関係者」しか知り得ないような、事件の詳細が描かれていたことから、国内でベストセラーになっていく。
 甘いマスクと巧妙なメディア戦略で一躍マスコミの寵児となった彼は、ヒョングの前に現れては、おだやかに彼のトラウマを刺激して挑発。ヒョングは当然、過剰に反応する。
 心穏やかでないのは、ヒョングだけではなかった。連続殺人の被害者遺族たちもまた、テレビに追い回されるドゥソクを憎悪を込めて見つめていた。被害者遺族は、結託してドゥソクを拉致。警察の追っ手を振り切って、誘拐に成功する。
 だが、ヒョングは、自叙伝の中で「真犯人」が最後に犯した「未解決事件」について書かれていない事に着目し、ドゥソクを被害者遺族の元から救い出す。そして、ヒョングは会見を開き、「ドゥソクは殺人犯であると欺く詐欺師だ」と煽り、「国民討論」という番組で対決することを宣言する。そんな中、一本の電話が番組にかかってくる。その電話の主は「J」と名乗った。「J」は主張する。「本当の殺人犯は自分だ。」と。


殺人の追憶 [DVD]

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 ポン・ジュノ監督の大傑作「殺人の追憶」と同じ華城連続殺人事件から着想を得た物語であるが、本作は「殺人の追憶」よりも圧倒的に「エンターテインメント」である。
 冒頭の非道なる殺人犯を追うリアルな追跡シーンで観客の心を引き込みつつ、その殺人犯がまるで作られた人形のように整った顔のイケメンで、その男が自叙伝を発表するという展開で度肝を抜く。そして、彼によって生まれる狂騒をコメディのように戯画化しつつ、被害者遺族が拉致する展開になるや否や、荒唐無稽な車上での激しいアクションシーンに手に汗握る。

 緩急を使い分けた脚本、変わり玉のように次々とめまぐるしく変わる演出。それでも緊迫感の途切れないストーリーテリング。そして終盤に明らかになる、その驚くべき真相。


 シリアスな題材でありながら、コメディの要素もある。唐突に笑いで「抜く」タイミングが絶妙で、思わず「ふっ」と笑ってしまうのだが、題材が題材だけに、「これ笑っていいんだろうか」と躊躇する向きもあるかもしれない。


 いいんです。笑えばいいんです。


 ボウガン持ってドゥソクを襲う被害者遺族の少女が登場すると「あれ?」と思い、留置場でドゥソクに一目惚れして追っかけした挙げ句、親衛隊まで組織しちゃう少女が、ドゥソクに「殺人犯ではない」疑惑が出ると「ドゥソク様が真犯人だとみんなで信じましょう!」とテレビ局前で騒ぎ出す場面は、笑いをこらえきれない。ここまで来ると、「あ、これ、娯楽映画なんじゃん」と腹をくくることができる。
 ツイストを効かせた脚本も上々で、ここまでくると、クライマックスのお約束カーチェイス(二度目)に大興奮、虐げられし人間たちの情念が爆発する結末に震えます。


 社会派のような題材でありながら、決してそこにはとどまらず、あらゆる娯楽映画の要素をぶち込み、それでもなお一本の娯楽映画として、ソリッドに磨き上げた完成度たるや!こんな映画をまだ30代の監督が撮ってしまうとは、韓国映画の「地力」を見た思いである。「殺人の追憶」とはまた違った系譜で、「傑作」と呼ばれるべき一本である。必見。大好き。(★★★★★)