虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「真夏の方程式」

toshi202013-06-29

監督:西谷弘
脚本:福田靖
原作:東野圭吾


 「慎重に進めなければ、ある人物の人生が大きくねじ曲がる危険性がある。」と湯川学は言った。



 東野圭吾の「探偵ガリレオ」シリーズを、連続ドラマと連動して作られる、劇場版第2弾である。第1作「容疑者Xの献身」は、フジテレビのドラマ映画化の中でもっとも完成度が高いと思っていることは以前書いた。そして、西谷弘という監督は信頼できるとも思っている。
 西谷弘監督に関して言えば、この5年で「アマルフィ」「アンダルシア」「任侠ヘルパー」と作品を重ねるごとに映画監督として腕を上げてきており、「容疑者X」の頃から比べても、映像としてのルックは大変申し分ない完成度である、と思う。ドラマシリーズとの差別化を念頭に置き、コンテンツ感溢れる連続ドラマシリーズとは一線を画すリアリズムを獲得していて、以前見た「新●者」劇場版なんぞに比べれば遙かに「映画」としての画の強さを持っていると思うのである。


 だが、今回その演出に脚本と原作が追いつかない、という哀しい事態が発生していたように思う。
 今回の物語は玻璃ヶ浦という美しい海が広がる、ひなびた田舎町に湯川学(福山雅治)がレアメタル開発の説明会のためにアドバイザーとして呼ばれたことで、泊まった旅館で起きた男性変死事件のなぞに迫ることになるわけであるが。


 はじめは湯川学は事件から一線を引いている。被害者が元警視庁関係者であったことで、テレビシリーズでおなじみ、岸谷刑事(吉高由里子)が出張ってくるのだが、事件捜査の依頼に対してはっきり言って興味なし。


 で、湯川先生がこの映画でご執心なのが、なんと「子供とのふれあい」である。「あの」湯川学が、である。
 本来非論理的なことを平気で言う、という理由で一緒にいるだけでじんましんが出るほどの子供アレルギーの湯川センセ。同じ電車に乗り合わせ、たまたま旅館を経営する家族の親戚である、小学生の柄崎恭平になぜか懐かれ、この子とは何故か一緒にいても大丈夫なことから、次第に懇意になっていく。説明会での開発推進派と反対派と不毛な議論に嫌気がさしてエスケープして、理科が嫌いだという恭平のために「理科に興味を持たせたる!」とわざわざ実験道具を自前で製作するところまで、熱がこもっていくに至ってはちょっと笑ってしまう。
 この「ガリレオ」シリーズでは今まで「ありえない」ことであった、心から子供のために実験に戯れる湯川先生というハートフルな展開があったりして、この辺は大変ほっこりするのだが。


 問題は。この事件の背景が次第に明らかになる後半である。
 湯川は恭平のある一言がきっかけで、事件に積極的に関わることになる。


 旅館を経営している川畑家の一人娘で玻璃ヶ浦開発反対派の筆頭である成美(杏)、その父・重治(前田吟)と母・節子(風吹ジュン)。彼らはそれぞれがそれぞれに、秘密を抱えていて、15年前に起きた殺人事件と、今回の変死事件が大きな関わりを持っていることが、湯川によって明らかにされるわけだが。


 「HOW?」が基本のミステリであるシリーズにおいて、「WHY?」の部分か大きくクローズアップされるという意味では、今回の話は「容疑者X〜」の変奏とも言えなくも無い。その秘密の中心にいるのは成美と、そして15年前の殺人の容疑者である仙波英俊(白竜)であり、そしてその秘密が切なげに語られるのである。


 だが。俺には今回の話、「泣ける」どころか「ひでえ話」としか思えなかった。出来が悪いわけではない。問題は真犯人が行った殺人の手口である。
 今回の湯川先生は真相をすでにつかみながら、それを語る口は「容疑者X」以上に歯切れが悪い。
 その理由を知った瞬間、「うわー」と思った。いくら湯川先生でもそうなるわ、という。この犯人、さすがにあかん。最悪である。どんな事情があってもそれやったら全て意味が無い。そのくらいの禁忌を犯してしまっているのである。ある意味殺人以上の罪深さであると言ってもいい。
 これで、俺の中でこの映画の評価ががくんと下がってしまった。


 本当に許せない。許されないと思いましたよ。事情を察した湯川が必死にフォローするために奔走するんだけど、事ここに至ってしまうと、すべてが手遅れ。しかも真犯人は自分のしたことに対して迷いがまったくないところが救われないというか、歪んでいるとしか思えない。
 しかもびっくりすることに、この脚本ではその犯人の心情がかなり肯定的に何度も描かれた挙げ句、愁嘆場まで用意してるんだけど、はっきり言って、行ったことがゲスすぎてむしろ邪魔である。


 結局関わった人間、だれも幸せになんかなってやしない。全否定されるべき犯罪をなんか「泣ける」ミステリとして終わらせようとする、原作に完全準拠であろう脚本に心底うんざりしたので★2つ。(★★)


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