虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「白ゆき姫殺人事件」

toshi202014-04-06

監督 中村義洋
脚本 林民夫
原作 湊かなえ


 うむ。面白い試みの映画ではあると思う。


 1人の男がいる。その男・赤星(綾野剛)は、とあるテレビ局のニュース番組を取り扱う制作会社の契約社員だが、メインの仕事からは外れていて、ひとりくすぶって、仕事中にTwitterなんぞにつぶやいている。そんな男にある日、大学時代の同級生の元カノ?から電話がかかってくる。話を聞いていくとどうやら彼女の同僚OLが殺されたらしい。
 男は本心をTwitterで吐露しながら、取材を進めていくうちに、ひとりの容疑者が浮かび上がってくる。その女は城野美姫(井上真央)。殺された被害者と同期の、地味なOLである。男はその女が真犯人と目星をつけ、取材を始め、Twitterにも情報を上げていったことから、TVもTwitterも、OL殺人事件の容疑者がクロという前提で、彼女の人間像が作り上げられていくことになる。


 真実を追うジャーナリストがSNSに抵抗がない軽薄な男で、彼がネットとTVというふたつのメディアを駆使して、複数人を精力的に取材しながら、浮き彫りになる「真犯人」としての「城野美姫」像を作り上げていく過程はなるほど面白い。
 その関係者の証言を切り貼りしてテレビというメディアでより強く、「城野美姫」という女性の中に「悪」のイメージをまき散らしていき、それはネットによって、更なる悪意を喚起する。そのイメージに乗っかって城野美姫を追いかけるメディア、印象論でぶったたくTwitterの「匿名」の住人達というのは、ある種、マスコミやネットメディアの側面を描き出してもいて、それらをめくらましにしながら、真実の「城野美姫」の実像を描くミステリとしてはきちんと完成されているし、やりたいことはすごくわかる。


 ただ。


 ひとつ、大きな不満があるのは、結局のところ、Twitterの描かれ方が「電車男」の頃から一歩も動いてないことの方だ。言ってみれば、作者のTwitterへの認識が「コテハンだらけの2ちゃんねる(匿名掲示板)」という印象で描いていることである。
 狂言回しとして事件を追う男のTwitterの使い方はどちらかというと、暇を持てあました2ちゃんの常連みたいな感じなのがとにかく違和感がある。


 Twitterは今、実名のジャーナリストが、その信頼を担保に、そのメディアの機動力を駆使して情報を発信するところまで来ているわけで、その中でデマも拡散することもあるけれど、火消しも別のジャーナリストたちの手で速やかに行われる形が、震災などの様々な教訓を経て出来てきているわけで、それこそ、この映画のTwitter描写は、「時代遅れ」の感も甚だしい感じがする。
 この事件を追う狂言回しである、マスコミくずれの青年がもし本当にテレビジャーナリズムの世界で成り上がりたいのならば、むしろ、実名をさらして「信頼を勝ち取る」方向で動く方が常道ではないかと思う。


 この映画自体が、実はものすごくTwitterというメディアを恣意的に描写することで「ネット怖い」という印象をばらまいてもいて、その無自覚な悪意を込みで見ないと危険だと思う。それこそ、自演つぶやきを恣意的に集積・編集してTwitterまとめサイト(togetterなど)にアップしちゃったような、そんな危うい構造で作られた物語でもあるのである。(★★★)