虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「フライト・ゲーム」

toshi202014-09-22

原題:Non-Stop
監督:ジャウム・コレット=セラ
脚本:ジョン・W・リチャードソン/クリス・ローチ/ライアン・イングル


 主演がリーアム・ニーソンである。この「ド安定」の男の中の男がゆらぎを持つ時、男はより陰影を深くする。



 限定された舞台で起こる殺人犯と探偵役の「知恵比べ」となるミステリーのフォーマットで、飛行機という密室で無差別殺人という不特定多数を狙うという殺人ゲームが始まる発想はまさに9.11以降のエンターテイメント、さらにそこを犯人を捜すの探偵役が、腕はいいけど酔いどれで元警官である航空保安官であるというこの物語は、ミステリーにありがちな探偵に付随する「安心感」を絶妙に外す仕掛けで観客を惑わす。

 9.11事件の時に実際起こった出来事を描いた「ユナイテッド93」は乗客対テロリストという構図が明確だったが、今回の話は犯人が乗客の中に紛れている上に、探偵役のビルは酒や「17歳の娘」からもらった「おまじない」に頼らないと飛行機に乗れないていたらくである。構図は常に流動的で変化し続ける。
 そんな主人公に対して、専用携帯にメールで「指定口座に金を送らなければ20分おきに機内の誰かを殺す」との脅迫してくる犯人。犯人はビルの行動をすべて把握していることをメールの中で示唆する。その殺人を防ぐべく、犯人を捜し始めたビル。だが、その努力もむなしく、最初の殺人が起こる。それはビル自身が行ってしまったものである。そして、犯人が指定した口座の名義は「ビル」のものだった!保安局はその事実によって、ビルを保安官の任から外してしまう。


 容疑者は乗客であり、そして実は「ビル」自身も怪しまれる要素がある可能性を示唆した上で、物語は乗客の中から犯人を絞り込む物語へと移行するわけだが、彼がたまたま隣の席になった女性・ジェン(ジュリアン・ムーア)を助手役にしながら、犯人を追い詰めようとすればするほど、乗客のビルへの不信が高まっていくという形へと移行し、その間も殺人は行われているのだが、ビルがパニックを避けるためにその事実を乗客に伝えていないこと、さらにはビル自身に不利な情報がマスコミによって一気に乗客全員に露見し、そして、ビルは思わぬ窮地に立たされる。「乗客を救うために動いているのに、乗客への信頼を失っていく」というビルに襲いかかる理不尽は、どこか彼がたどってきた人生も多分そんな感じなのであろうと思わされる。
 誰を信じていいのかわからなくなり、やがて助手を引き受けてくれる女性すら信じられなくなるビル。そして、一部の乗客がついにビルに反旗を翻すことで、事態は思わぬ方向へ動き出す。

 誰もが生きて帰れるかもわからない舞台で起こるサスペンスの真相はやや肩すかしな部分もあるのだが、リーアム・ニーソンが主役であるにも関わらず、見ている人を不安にさせるアイデアが満載で大変に面白い航空サスペンス活劇。クライマックスの主人公が銃を取る場面のアイデアは無駄にかっこよく、「これがやりたくてこういう話にしたんだな!さすがアメリカだな!」という感じで苦笑するのであるが、散々主人公を「テロリスト」呼ばわりして悪し様に報道したテレビマスコミが、事件が終わると一転「真犯人(テロリスト)を射殺したからヒーロー」という美談形式で報道するという、アメリカの美談と醜聞の白黒の付け方への皮肉を描いている映画ととららえると、この映画はより味わい深いのであります。大好き。(★★★★)

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