「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」
原題:Guardians of the Galaxy
監督:ジェームズ・ガン
脚本:ジェームズ・ガン/ニコール・パールマン
週刊少年ジャンプの友情・努力・勝利という方程式。それは80年代のジャンプの代名詞であるのだが、その代名詞が微妙に変わってきたのは90年代のことではないかと思う。その岐路がどこにあったのかとすれば、それは意外に、今年の日本映画で一番ヒットしている映画の原作「るろうに剣心」の登場がきっかけであったように思う。
「るろうに剣心」は90年代中盤に連載が始まった。当時のジャンプ作品としては非常に「異端」とも言える作品で、どこが異端かと言えば、主人公が「過去を背負った「元」最強の剣客」という、言わば「努力しなくてもすでに強い」という主人公だからである。この異端の作品が、編集部の思惑を越えてヒットしたことで、1990年代末から2000年代のジャンプ漫画というのは「努力」という要素に「努力・才能以外の底上げ」*1という要素が当たり前のようにつくようになった気がする。
それは「ONE PIECE」「NARUTO」もその例にもれない。無論「努力」という要素は多分につくが、主人公の素質もさることながら、そこに「悪魔の実」やら「九尾の狐」などの「未熟を補完する要素」が付くようになっている。彼らが底上げという補助輪を外していく、という過程を込みでドラマにする、というのが、2000年代以降のジャンプ漫画の「リアル」として捉えられていく。
努力だけでどうにかできる、という幻想を「底上げする要素」によって主人公が「一目置かれる」というのは「ヒカルの碁」などで当たり前になっていき、その要素は意外にもジャンプの「女性読者」の増加と決して不可分ではない気がするのである。
さて。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」である。
この映画の存在もまたアメコミの中でも異端児的存在ではないか、と思う。特殊能力があるわけではない主人公スター・ロード。「アベンジャーズ」ラスボスの養女の女暗殺者ガモーラ。性格の荒っぽい遺伝子改造アライグマ・ロケット。3単語しかしゃべれない植物型人間グルート。悪役に恨みを持つ復讐戦士・ドラックスなど、へんてこな面々が揃っている。
出自は変わっているが、スーパーヒーローからはほど遠い。そんな彼らが如何にして「銀河の守護者」になるか、という話。なんだけど。
ジャンプ漫画が異端児によって、その性質をも変えたように、本作もまた「アメコミ」映画の定義を変えていく存在になり得る気がする。
主人公は手に職つけている自由業だが、普通の人間だ。特に彼自身が特殊能力を身につけているわけでもない。けれど、彼はちょっと普通とは違う面々を仲間とし、やがて一個の惑星のための戦いに身を投じる。
自由業の人間が特殊な仲間を見つけて、「ヒーロー」となっていく、というのは何に似ているかというとSF時代劇風コメディ(時々シリアス)漫画「銀魂」である。
「銀魂」の主人公・坂田銀時は「かつて地球の存亡を賭けた戦いで名を馳せた最強だった男」という、いわば「るろうに剣心」の緋村剣心の直系とも言えるタイプの主人公であるが、現在の彼は「万事屋(よろずや)」という自由業を行っているちゃらんぽらんな無気力駄目人間である。だが、そんな主人公が「いざ」という時がきたら、そのかつて名を馳せた身体能力で敵を叩く、という漫画である。
ちゃらんぽらんな主人公が、うっかり銀河の存亡に関わるアイテムを手に入れたばっかりに、大戦争の渦中に、というのは「銀魂」でシリアスな長編シリーズにちょいちょいある展開であり、去年公開されたアニメ劇場版「完結編」などもその例にもれない。ドラマが終盤になるにつれ、笑いと登場人物にスキがありながら、やがてウェットな泣かせが入るあたりも非常に近い。
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「劇場版銀魂 完結篇」感想。
うたかたの「今」をとりもどせ - 虚馬ダイアリー
そしてもうひとつ。ジャンプの、いや、ギャグ漫画の系譜を塗り替える作品がジャンプにはある。それがこれである。
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うすた京介の「台詞」のセンスと独特の擬音、個性的だけどまるで駄目な「セクシーコマンドー部(略してヒゲ部)」の面々、くだらないことをしてスキをつくって敵の集中を奪う「セクシーコマンドー」というある種「努力」を必要としないリアルを極限まで追求したような戦闘術という発明は、いまだ、ジャンプの歴史に燦然と輝く存在と言っていい。
そんなギャグ漫画と「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」はどこが関係あるのか。ま、どことは言わないけれど。こんなシーンが重要な場面で出てくるのである。
(c)うすた京介
こんなシーンを経て(ほんとか?)、主人公は「底上げに次ぐ底上げ」と「友情」パワーによって勝利を掴む。90年代から2000年代のジャンプ漫画読者が見てもきっと面白い映画に違いないし、独特なウェットな泣かせはむしろ日本人好みではないかと思う。
というわけで、アメコミファンだけが見るだけではもったいない、ニホンの漫画で言えば近年の「少年ジャンプ」並の老若男女問わない底の広い受け入れやすさを持つ映画であるので、食わず嫌いしている方は、是非見ればいいと思う。大好き。(★★★★☆)
*1:後付けで底上げというインフレは無論以前の作品からあるのだが、そのヘンは割愛。