虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影」

toshi202013-01-17

監督:佐藤雄三
原作:POT(冨樫義博
脚本:米村正二


HUNTER X HUNTER32 (ジャンプコミックス)

HUNTER X HUNTER32 (ジャンプコミックス)


 ボクは冨樫義博先生の「HUNTER×HUNTER」が好きである。


 どのくらい好きかと言えば、この作品が休載している時は「週刊少年ジャンプ」を買わない*1くせに、掲載されてると知るや、某所にあるジャンプの早売り店に行ってジャンプをフライングゲットするくらい好きである。
 とはいえ、ボクが興味あるのはあくまでも原作の「物語」の方で、テレビアニメ版なんて飛び飛びでしか見てない。特になにかグッズを集めているわけでもないし、本作がただのオリジナルエピソードだとしたら特に興味もなくスルーしていたであろう。


 しかし、本作はちょっと原作ファンとして無視できない宣伝が為されていて。


 ご存じない方に説明すると、「HUNTER×HUNTER」は「ハンター」という職業が世界の花形となっている世界で、「ハンター」である父親を追って、「ハンター」を目指す少年・ゴンの物語。「ハンター」になるには「ライセンス」が必要で、その「ライセンス」を得るためには1年に1度行われる「試験」を通過しなければならない。
 ゴンはそのライセンスを得るための試験「ハンター試験」で3人の少年と出会う。世界的に有名な暗殺一家に生まれた殺しのエリート少年・キルア、親友の死をきっかけに医者になるためにハンターライセンスを手に入れようとする青年・レオリオ。そして、一族を幻影旅団という盗賊集団に皆殺しにされ、復讐を誓って彼らに近づく術を探して「ハンター試験」に挑むクルタ族の少年・クラピカである。


 「試験」を経て、ゴン・クラピカ・レオリオがハンターライセンスを得て以後、レオリオは医師になる勉強のために、クラピカは幻影旅団を探すためにゴンたちといったん袂を分かつのだが、実は「真のハンター」になるには「念能力」という特殊能力が必要であり、その念能力を開花させたゴンとキルアは、ゴンの父親の手がかりがあるという希少価値の高いゲーム「グリード・アイランド」を手に入れるために、同じく独自に念能力を得たクラピカは一族の仇の手がかりを求めて、巨大オークションが開かれるヨークシンシティへとやってくる。
 そこで、彼らはその過程で、ついにクラピカの一族を皆殺しにした幻影旅団と対峙することになる。


 この映画は本編の時系列で言うとヨークシンシティを舞台にしたクラピカの幻影旅団への復讐劇がメインとなる「ヨークシン編」と、ゴンの父親の手がかりとなるゲームを舞台にした「グリード・アイランド編」の狭間に位置し、その間に行われたエピソードという触れ込み。

 しかも主人公が「クラピカ」で、クルタ族虐殺に関わった幻影旅団の元・団員が物語に関わり、かつてクラピカの親友だったクルタ族の少年・パイロが深く物語に関わるらしい、というかなり本編の「クラピカ復讐譚」における重要な物語であるような雰囲気を醸し出している。そう聞くと当然、「原作」ファンとしては「く!見るしかないじゃないか・・・」となるじゃないですか。


 で、見ました。


 だ・・・・。




 だまされたーーーーー!



 はっきり言って番外編です。しかもクラピカが主人公だって聞いていたのに、ふたを開けたらゴンに対する「キルアの葛藤」がメインという。それ、いずれ原作で扱う話だし、はっきり言って要らない。もっと重くて暗い話を期待してたんだよ!もう!
 幻影旅団はおまけで関わる程度だし、オリジナルの「元・幻影旅団」の人は小物だしで、なんかこう・・・「うそーん!」って感じ。
 例えて言うなら、「ドラゴンボール」のテレビアニメで、アニメが連載に追いついてストックがなくなって無理矢理挿入したアニメオリジナルエピソード、くらいのそんなぬるい感じです。これはちょっとなあ。


 で。問題はね、映画にする以上、盛り上げるために「念能力バトル」を入れていかねばならないのですが、オリジナルで念能力バトルを描くのが如何に難しいか、ということをこの映画は露呈したことでね。しかも、クラピカの念能力って「如何に復讐相手を追い詰めるか」ということに特化した能力なので、結構使い方が難しいはずなのですが、その扱い方も雑です。
 原作で「念能力」は基本「なんでもあり」のように見えて、その能力を最大限に引き出すためには様々な「制約」や「誓約(ルール)」を噛ませる必要がある。そして本当に使うべき能力は安易に使わないのが鉄則なのですが、この映画ではわりと「秘中の秘」を丸出しで使うクラピカが見られて、ちょっとがっかり度が高いです。


 映画としては主人公・ゴンやその親友・キルアをメインに、一応原作のメインキャラ4人を過不足なく見せ場を作りつつ、人気キャラであるヒソカ、幻影旅団の面々をどのように物語に関わらせるか、というファン向け「お祭り映画」の要素もあるのですが、物語の底流にあるのが「クラピカの復讐」であるため食い合わせが悪すぎます。
 その結果、映画そのものの出来は(実は)そこまで悪くないにも関わらず、原作ファンとして見終わった後の「がっかり感」は非常に高い、という作品になってしまいました。これはいくら優秀な脚本家が関わっても、簡単に「天才・冨樫義博」のストーリー・テリングには近づけないという証左であり、「HUNTER×HUNTER」が如何に映画化が難しい題材かを思い知らされる作品でありました。(★★)


【関連リンク】
(ネタバレ注意)
2013-01-16
id:kingworldさんによる詳細なネタバレ感想。面白いです。

*1:後注:現在は「暗殺教室」の為に買ってます。