虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ジャズ大名」(1986年製作)★★★★★

toshi202005-06-10



 「近頃なぜかチャールストン」以来5年ぶりの作品。(喜八監督の作品はここから約5年間隔で製作されていく)


 ところはアメリカ。南北戦争が終わって奴隷から解放されたジョーは、道中で出会った3人とともに、黒人の心の故郷、アフリカへ帰ろうということになった。その時、彼らはジャズに必要な楽器を持っていた。彼らは練習に練習を重ね、ジャズらしい音楽が出来るようになると、陽気に楽器を鳴らしながら、メキシコ街道を下っていく。しかし、あやしげな商人にだまされて、4ヶ月後、彼らは香港行きの船にいた。クラリネットを持っていたじいさんが死んでしまい、彼ら3人は脱出を決意。ボートに乗って海へ出た。流れ流れて漂流し、着いたところは幕末の日本…の外れ。駿河の小藩・庵原藩。
 藩は貧乏火の車、しかも、今は朝廷と幕府の板挟み。金がないからとりあえず中立を保たねばならないが、さりとて両者から突き上げられる。しかも、ちょうど江戸と京都の往来に便利だってんで、佐幕派倒幕派がひっきりなしに城にやってくる。しかも往来相手に茶などを藩が出さねばならない。鉢合わせして斬り合いにならないように気を揉んでいる。殿様はすっかり世事に振り回されっぱなしで、そんな状況に心底飽き飽きだってんで、暇を見つけては篳篥(ひちりき:東儀秀樹が吹いてるやつ)なんぞを吹き鳴らす。周りのものはうるさいってんで逃げ出す始末。そんなところに黒んぼ3人がやってきた。殿様は会いたくて仕方がないが、しかし、そこは腐っても大名。殿様が軽々に会うわけにも参らぬ。
 だがついに、殿様は黒んぼと会う機会を得た。そこで、ジャズと運命的な出逢いを果たすのであった。


 まあ、前振りはこんな感じ。長いけど。


 話としては他愛もない。ジャズに出会った殿様が嵌りまくったあげく、ジャズに嵌りすぎて、時世とは関係なく城内全員でセッションを延々繰り広げる、とまあ、こんな話で。そんな他愛もなく、あり得ない話なのに、喜八監督の手に掛かれば、実に楽しい映画に早変わり。黒人たちがメインのところでややもたつくものの、舞台が庵原藩の城となるや、喜八タッチが鮮やかに蘇る。殿様の内憂外患悲喜こもごも、なれどおおらかで好奇心旺盛なその愛すべき人柄を、手練手管を駆使しながら、鮮やかな手際で描いていく。
 時世はだんだんと混沌としてくる。きなくさくなる時代の流れ。そんなもんはおれの知ったことか。おれはジャズがやれりゃいい。
 時世が乱れれば乱れるほど、熱狂を帯びるジャムセッション。その対比は、まるで右傾化していく当時の日本、なにより喜八監督にすら製作の機会を与えない日本映画界への「絶望」、逆にその裏返しとして八方破れなこの「明るさ」「軽快さ」を生み出しているのかもしれぬ。


 というわけで、当時御歳62歳とは思えぬ、若々しい作品であり、これぞ喜八話芸!その神髄を心ゆくまで堪能できる傑作であります。タモリミッキー・カーチス登場シーンは大爆笑してしまった。なんでもありだ。最高。