虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「血と砂」(1965年製作)★★★★




 1945年、北支戦線。そこに少年軍楽隊がやってくる。陽気に音楽鳴らし、リズムに乗りながら。彼らは慰問にこの大陸にやってきたが、前線に送られることになった少年たちだった。彼らはある日、一人の軍人と出会う。それが小杉大尉(三船敏郎)だった。彼は戦場で多くの勲功を立てながら、そこここでトラブルを犯し、ついに最前線へと送られる羽目になったのだった。
 陽家宅の独歩大隊の基地に到着した彼らは一人の若者の死を見る。彼は小原一等兵で、通称ヤキバ砦の守備隊を指揮していた八路軍の猛攻にあい、彼を除いた全員が戦死したと連絡に戻った。彼は、敵前逃亡の罪で銃殺されたのだった。怒った小杉は若き大隊長に詰め寄って殴打したため、営倉入りを命じられる。
 ヤキバ砦は重要な拠点で、軍の兵力は底をついていた。なんとしても敵の砦を奪い返さなければならない。大隊長は小杉の戦歴を買って、彼に命じる。少年軍楽隊の少年たちとヤキバ砦を落とせと。

 軍楽隊の少年たちは、戦闘経験のない自分たちが最前線へと送られるという惨い現実を前に、音楽をかき鳴らすことで、彼ら自身の勇気を奮い立たせようとする。音楽をよすがに生きる彼らが、否応なく兵士としての戦いを余儀なくされる。小杉はそんな彼らに厳しさと愛情のふたつを持って接し、彼らは犠牲を出しながらも砦を落とすが、攻めるより守るが厳しい攻城戦。やがて、敵の反撃が彼らを襲う。



 えー。泣きました。すげえ。これは「終戦のスウィング・ボーイズ」。



 話自体は悲壮なのだけれど、全体的なノリは笑いと音楽に満ちた軽やかなものだ。だからこそ、この悲痛な現実がその表裏となって、観客の心を突き刺す。彼らの明るさは厳しい現実に立ち向かわざるを得ない心情の裏返し。明るくいかなきゃ正気を保てないの道理だ。物語はミステリの要素もあり、その謎が解かれたとき、もうひとつの悲しい真実が明らかになる。


 下ネタも多く、小杉を追っかけて前線までやってきた慰安婦のお春(支那人慰安婦。演じるは団令子)はセックスに絡んだネタを大量投下。戦場におけるセックスという命題を明るく提示していて面白い。
 その他、佐藤允が「独立愚連隊」シリーズのノリで参戦してるほか、伊藤雄之介演じる葬儀屋担当の老一等兵や、天本英世演じる、戦争嫌いで営倉に3年も入っていた一等兵など一癖も二癖もある連中が一線を画した存在感を披露する。そんな彼らのユーモア溢れるやりとりも、やがて激烈な戦いの波に飲み込まれていく・・・。


 独立愚連隊で見せた明るいノリで戦場の哀しみを提出し続けてきた監督が、一歩も二歩も踏み込んだ形で観客にそれを叩きつけてみせる。なんとも物悲しいラストは、後の「肉弾」にも通ずる、終戦という残酷をも匂わせ圧巻。必見。