虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「人魚姫」

toshi202017-01-08

原題:美人魚
監督・脚本:チャウ・シンチー


 大晦日も仕事して、元旦の朝帰ってみれば、すぐに体調を崩し、三が日はひたすら布団から出られず、テレビを見て過ごすという、のっけから最悪のスタートを切った私。
 ようやく体調が戻って初めての休日。2017年最初に見る事に決めた映画。それは「少林サッカー」でおなじみ、今や香港喜劇界のヒットメーカーにしてトップランナーチャウ・シンチー監督の新作でありました。


 公開直後、上映が都内で1館のみというこの扱いもさることながら、スケジュールが日に2回しか上映しないという、人気監督にあるまじき扱いを受け、当然のことながら、私が早めに上映されるシネマート新宿に行ってみれば、すでに立ち見まで埋まり、満席という大盛況。ロビーには人がごった返し、明らかなキャパオーバー。私はネットで前日にチケット予約してたので座れたものの、当日だったら危なかった。改めてその根強い人気を裏付ける結果となったわけですが、さて、映画はというと。



 これが!これが!もう最高!さすが、香港喜劇王の面目躍如。


 それもそのはず。なにせ、全世界で興行収入600億円以上という「君の名は。」どころか、「千と千尋の神隠し」のほぼ倍を稼ぎ出した超メガヒット作である。
 それにも関わらずである。日本映画界はこの映画をこんな小規模公開してるとは一体、何を考えているのか。バッカじゃねえーの!としか言いようが無い。まさに「ありえねえーー!」でありますよ。


 若き実業家・リウ(ダン・チャオ)は香港の自然保護区域を買収し、そこに一大リゾートを計画する。貧乏な生まれから脱し、無学ながらも一代で財を為したリウに近づいてくるのは、彼の財力を目的にしてくるものだけだった。
 そんなリウにひとりの女性がある目的を持って近づいてくる。彼女の名はシャンシャン(リン・ユン)という。奇妙な歩き方をするこの娘。実は、リウを暗殺するために近づいてきた刺客。リウが買収した自然保護区域に住み、彼が財を為した海洋探査の為の「ソナー」に苦しめられてきた「人の上半身と魚の下半身」を持った一族。
 そう、シャンシャンは「人魚」なのであった。だが、二人はやがて惹かれ会い恋に落ちていく。そして、リウに惚れていたビジネスパートナーだったルオラン(キティー・チャン)は、嫉妬に狂い、人魚族殲滅のために動き出してしまう。



 「どんな美人も初登場はブサイクに描く」お約束から、好きな作品の引用を恥ずかしげも無くぶち込み、個性的というにはあまりにアクが強すぎるキャラクターたち(特にショウ・ルオ演じる蛸の下半身を持つ「タコ兄」は面白すぎる)、そして提供される笑いはあまりに濃ゆい。コッテコテなギャグ、ベッタベタな笑いのつるべ打ち。
 だが、世界設定は驚くほど酷薄。人間と人魚たちの闘いの描かれ方は、あまりにも壮絶かつ暴力的で、一瞬「ウッ」となるほど。前作「西遊記 はじまりのはじまり」で見せつけた暴力性はチャウ・シンチーの中で健在なのであるが、しかし、そこを王道の「許されざる恋」というラブストーリーという柱をドンと乗せることによって、環境問題を取り上げた社会派的作品とも違う、酷薄なる世界を「愛」が救う!という、堂々たる王道を往く。
 このベタな笑いを恐れず、人の中にある暴力性を描くことを恐れず、環境問題をストーリーに絡ませつつも社会派作品になることを軽やかに避けながら、「愛」の尊さを恥ずかしげもなく歌い上げる!まさに、娯楽と喜劇というジャンルのど真ん中を突き進む!チャウ・シンチーのブレない直球ど真ん中っぷりは、本作でいよいよ極まっていると言っていい。


 これほどのヒットメーカーになりながら、決して自分を見失わないチャウ・シンチーの威風堂々たる娯楽作家ぶりは、まさに見事という他はない。自らの作家性を極めつつ、更なる覇道を突き進む!
 新年一発目の映画に選んで大正解!悪かった体調が嘘のように回復しはじめたのは、この映画の本気っぷりに当てられたに相違ない。まさに、我らが「星爺」快心の大傑作であります。(★★★★★)

 

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