虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ミラクル7号」

toshi202008-06-29

原題:長江七号
監督・製作:チャウ・シンチー
脚本:チャウ・シンチー/ビンセント・コク/ツァン・カンチョン/サンディ・ショウ・ライキン/フォン・チーチェン/ラム・フォン


 ★★★★★。


 吹き替え版で鑑賞。

 「え!」と思うくらい、素直に笑い、泣き、感動した。超がつくほど、大好き。


 香港を代表するイケメン喜劇スター監督、40代も半ばを過ぎての新作は、子供のための「すこしふしぎファンタジーコメディ」。貧乏親子が、謎の生物とでーあうの巻。
 チャウ・シンチーという人は、サービス精神旺盛だけど、元来我の強い人だと思うし、ナルシストでもあると思う。それが今回、自分を一歩引かせ、子供たちのための映画を作ったことに、正直驚きを隠せない。すごく、すごく優しい目線の映画だと思う。こういう映画も、撮れるようになったんだ、と思った。前作「カンフーハッスル」で本気のカンフー映画を撮り、やりきったことも大きい気がする。
 とはいえ、自分の好きな女性をわざと汚して出す、という性癖は相変わらずで、それが今回の主人公・ディッキーくんを演じるシュー・チャオちゃん(女子)。この娘を養子にしちゃうほどの星爺の入れ込みよう。多分初老の坂を下っての心境の変化も大きいのではないかと思う。
 しかし、ほんと巧いなー、この娘。さすが、子供嫌いと言われていた星爺を惚れ込ませるだけのことはある。そしてCGで作られた未知の生物「ナナちゃん」がこれまた、超かわいい。


 「ナナちゃん」はある「能力」以外は、可愛いくてちょっと耐久力があるだけの、役立たず生物なのだけれど、そこから派生する物語は非常にオーソドックスかつ下品にも関わらず、コテコテに作り込まれていて、きっちり笑える。
 子役のキャラクターには相変わらず濃ゆい味付けを施し、金持ちで意地悪なチビと、その取り巻き、頭は悪いけど体力バカの用心棒に、こころやさしい巨漢の女の子*1など、極端にも程がある面々ながら、それがだんだん違和感なくなってくるのがまず、ミラクル。
 主人公・ディッキーを含む子供の描き方も、意地悪で、ずるくがしこく、身勝手な子供の側面を嫌と言うほど描きつつ、だが、「ナナちゃん」の存在という「秘密」を共有することで、友情を育む、その展開の優しさもあり。


 吹き替え版には、星爺役が定番になりつつある山寺宏一に加え、矢島晶子藤原啓治こおろぎさとみといった「クレしん組」が出演していて、それぞれのポジションできっちり笑いを取ってくれるだけれど。

 そこから思わず思い出したのが去年の夏公開された「河童のクゥと夏休み」で。謎の生物と出会う家族の話、という点では非常に似通っていながら、その演出のベクトルは真逆と言ってもいいほど、違っている。だけど、俺が「河童のクゥ」に感じた「足りないもの」をこの映画は存分に見せてくれているのだよな。ベタベタのコッテコテ、リアルからはほど遠い「くっだらない」漫画的な笑い。そして、「ミラクル」がこの映画には横溢している、


 そしてもうひとつ。チャウ・シンチー作品として特異は、星爺自ら演じるキャラクターが「」を通過することである。


(以下、ネタバレのため隠します。終盤の内容に触れるため、未見の方注意。)



 この死が子供向け喜劇としては、ちょっと生々しい描かれ方をされていて、子供から見た「親の死」という描き方ながら、そこにあるのは「自らの死」を客観的に見据えるかのような感じで、ちょっとぞくっとした。そして、子供がどのように「死」を受け止めるか、という段の描き方も見事。そこに、「クレヨンしんちゃん」であまたの映画ファンの涙を搾り取ってきた矢島晶子が、渾身の演技を見せたとあっては、わかりやすい愁嘆場には思わず引いて見てしまう自分が、もうボロ泣きですよ。


 で、ありながら、ラストの驚くほどの多幸感と、最後に起こる「ミラクル」に思わず頬がゆるむ。「俺さま喜劇」から「次代へとつなぐ」喜劇へ。その作家的な広がりに、愛しさと切なさと、心強さを感じずにはいられない作品と相成った。ミラクル・大好き。(★★★★★)
 

*1:C.V.こおろぎさとみという見事な配役に悶絶