虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「JUNO/ジュノ」

toshi202008-06-21

原題:Juno
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ディアブロ・コーディ


 油断していた。


 ためしに男友達とセックスしたら妊娠してしまった16歳の少女ジュノが、やがて来る出産に立ち向かう話。


 という大筋はほぼ間違いがない。よってはっきり言って、今の俺自身の人生の現状からはもっとも共感から遠い話だ。妊娠したこともない、させたことも(多分)ない、よって俺には現状、そういう心配をするような子供もいない。
 そういう人間にとってみれば、ある種、同じ現実世界にいる、というだけで、話自体はまったくの他人事であり、ファンタジーとして付き合うことでようやく折り合いがつく、という題材である。だから、こちらとしても映画としての見方としては「恋空」くらい遠い話として相対しながら見ていたのであるが。


 これがまったくもって、違った。見終わったあと、ざっくりと俺の中にナイフが突き刺さっていた。しかもしばらくナイフに刺さったことに気づいてなかった。そのくらい、鮮やかな切っ先だった。

 ジュノが中絶を拒否し、妊娠を受け入れる条件が「自分では育てない」というものだった。彼女が引き受けるのは赤ちゃんを出産するところまで。彼女は新聞投稿欄から一組の理想的な夫婦に里親を出す契約を結ぶ。彼女はその契約の際、その夫婦の旦那とすっかり意気投合し、徐々にその友情を深めていくのだが・・・。
 脚本・演出のリアリティ、ニヒルな中にナイーヴな感性をのぞかせるジュノのキャラクターにも魅せられていたのだが、それはあくまでもとっかかりで、俄然ジュノと旦那のふれあいの描写があまりにも楽しくはすっかり映画に引き込まれ、どうなってゆくんだろうと思いながら見ていた。だが、夫婦とジュノの間に、ある問題が浮上する・・・。


以下ネタバレ気味なので隠します


 旦那が示したそのあまりにも残酷で無邪気な真実に、愕然としたのは確かだが、同時にその切っ先は鮮やかに俺の心を切り裂いた。だって・・・。その旦那の心情に、とても共感している自分に気づいたからだ。そうかそうか。この脚本のあざやかな切っ先は、大人の側に向いている。レントゲン技師の心ない一言に対するジュノの継母の、その爽快な啖呵も含めて。俺は気づけば高速道路で車を停めて嗚咽するジュノに涙を流していた俺は、決して「他人事」として映画を見ていなかった。
 この映画は「俺」についての映画でもあったのだから。


 大人になることとは、年齢を重ねることだけではないのだ。その当たり前の真実を、この映画は改めてはっきりと大人たちに突きつける。「あなたは大人になってる?」と。ジュノをはっきりと傷つけるのは、あまりに無邪気な旦那の物言いであり、生き方だった。その姿は、明らかに彼女が理想とする大人の姿とはかけ離れていた。そして、その感情の発露は、明らかに少女がその妊娠を通して大人へと成長していることでもあった。


 ニヒルに妊娠という事実を引き受けたジュノが、やがて、こころから「Anyone Else But You」を歌うラストは、まさに彼女の成長と、経験を通して得たものを表す名シーンと言えると思う。(★★★★)