虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「DIVE!!/ダイブ」

toshi202008-06-14

監督:熊澤尚人
脚本:戸田山雅司/林民夫
原作・脚本協力:森絵都



 小学生の頃。自転車を漕いでいて目に飛び込んだ、町中にそびえ立つ飛び込み台。それはまるで夕日を背にした「ドラゴン」に見えた。



 あの日、目にした飛び込み台が、ボクと富士谷要一の、そして飛び込みとの出会いを生んだ。


 この飛び込み台との邂逅のシーン、そして飛び込みそのものとの出会い。その日から数年後。
 コーチの息子でエリート選手の富士谷要一に憧れて飛び込みを続けるボク・坂井知季は、いまだ「並の選手のひとり」だった。そんなある日、彼らのダイビングスクールに麻木夏陽子という女性コーチがやってくる。彼女は飛び込みクラブの再建のために経営陣に大きな目標をブチ上げた。それは、この弱小飛び込みクラブから、「オリンピック出場選手を出す」ということだった。彼女との出会いが、ボクの運命を大きく変えることになる・・・。



 非常に良くできた映画である。まず感心したのは、脚本の構成。


 まず、オープニングがすでに主人公の才能開花への伏線になっていること。
 主人公であり、ごく普通の少年・坂井知季(林遣都)、青森から来たワイルドな飛び込みを行う招聘選手・沖津飛沫(溝端淳平)、弱小クラブのサラブレッド・富士谷要一(池松壮亮)。彼らのそれぞれのドラマを軸に彼らが、目標へと向かう紆余曲折のドラマを巧く絡めた脚本がまず見事。飛び込みを知らない観客への入り口に知季のドラマを入れて、能力を開花させる快感と、のし上がるごとに失っていくものを描きつつ、物語の概要と絡めて話を進行し、やがて沖津飛沫のドラマに移行。怪我のためにオリンピック候補から漏れ、飛び込みを続けるか悩む飛沫が、如何にして復活するかのドラマを配置。そして、孤高の姿勢を貫き、父親とクラブの存続のために頑張ってきた要一のドラマへ。ある事件をきっかけに自分の中にある「壁」の存在に気づき、それを突破しようと「ある行動」に出る。
 三人の若者が互いに刺激しあいながら、「選ばれし者の恍惚と不安」、または「選ばれなかったものの苦悩」を描きながら、それでもなお「自分の囲う壁」をぶち壊すために進み出した三人が、クライマックスで、「己のドラマ」を賭けた対決が繰り広げる。4回転半!スワンダイブ!・・といった彼らの「必殺演技」の描き方も面白い。


 また、脇役たちの「三人がのし上がる」中で自分たちが選ばれなかったことで出てくる様々なリアクションを細やかに描いている点も、非常に感心した。こういう描写が為されると、「エリートについての映画」ではなく、「少年たちのドラマ」なのだと、こちらが認識できる。


 そして、飛び込みシーンの切り取り方が非常に美しい。様々な角度から、どのようにしたら演技が映えるのかを研究し尽くしたに違いない、カットの数々は、非常に目に麗しい。


 クライマックスでやや間延びする点が、「減点対象」なんだけれども、ここまで丁寧にきちんと作られた日本の青春映画はまれだと思う。題材も非常にまっすぐで、始まりは「オリンピック出場」が目標でありながら、ラストには「オリンピックだけがすべてじゃない」というところに落とし込む、体育会系スポ根でありながら非常にさわやかで気持ちのいいドラマを展開させており、まさに王道を目指した青春映画の秀作。あまりヒットしてないみたいだけれども、とりあえず一見の価値のある映画だと思います。この手の題材が好きな方、オトコノコの裸体を大スクリーンで見たい方(笑)は、是非劇場へ。(★★★★)