虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ミスターGO!」

toshi202014-05-28

原題 Mr. Go
監督・脚本:キム・ヨンファ
原作:ホ・ヨンマン



 中国の名門サーカス団の名物ゴリラ・リンリンは野球の球をバットで打つ芸で話題のゴリラであった。
 生まれた時からリンリンと一緒に過ごした少女・ウェイウェイ(シュー・チャオ)は、ある時から彼に中国語を教え、彼女もゴリラの鳴き真似でコミュニケーションするようになる。団長は「球を投げられるゴリラ」として新たなゴリラ・レイティンを仕入れるも、彼はウェイウェイにも手なずけることができずに、ずっと鎖につながれている状態である。
 彼女の祖父である団長は野球賭博と新たなゴリラの購入資金などで借金を重ねた後、中国を襲った震災で亡くなり、小屋をなくしたサーカス団には借金だけが残った。ウェイウェイはサーカス団を守るため団長となり、サーカスメンバーである子供たちの面倒を見つつ、借金を返すために奮闘する。


 そんな時、リンリンの才能に目をつけたのが、悪名高い韓国野球界のスポーツエージェント・ソン・チュンソ(ソン・ドンイル)であった。彼はその剛腕で、リンリンを韓国野球界にデビューさせる段取りをつけ、ウェイウェイはリンリンとともに、借金を完済し再びサーカスを再開するために韓国に行く決意をする。


 こうして、体重280KG、握力は人間の20倍の最強バッター「ミスターGO」として斗山ベアーズに入団。初試合でリンリンはバックスクリーンにたたき込むホームランを見せつけ、一躍国民的スターとなっていくのだが。


野球狂の詩 (2) (講談社漫画文庫)

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 「野球狂の詩」で「たそがれちゃってゴリ」という短編があるが、そのアイデアをそのまんま長編映画にしちゃったかのような野球コメディ。とにかく、きちんとした画づくり、漫画的なアイデアと野球ビジネスのシビアさを戯画化したリアリズムとの兼ね合いも見事で、リンリンが入団する斗山ベアーズを始め、実在の野球チームの試合にゴリラを放り込む手際が見事で違和感がない。
 韓国映画ではあるが、コメディとしてのノリはどちかというと香港映画に近いので、個人的には大好きなタイプの映画である。ウェイウェイ役に、「ミラクル7号」でデビューしたチャウ・シンチー周星馳)の秘蔵っ子・シュー・チャオ(徐嬌)ちゃんが起用されてるのも、監督の香港映画愛が感じられる。


 まー、とにかく人間の野球にゴリラ(さすがにCGだけど毛並みとか超リアル)をバッターとして大活躍、という絵面の面白さだけでも相当なものだが、脚本もかなり練られていて、侮れない。


 ゴリラを野球界に引き込んだ張本人であるエージェント・ソン・チュンソの目的がただ「ミスターGO」としてリンリンを野球選手にすることではなく、如何にして彼を利用して「カネ」を手に入れるか、というところを中心に描いてもいて、「ミスターGO」により価値をつけて売るために様々な策を弄したり、日本野球界の「読売ジャイアンツ」と「中日ドラゴンズ」のオーナーたち(中日の伊藤オーナー役にオダギリジョー)と虚々実々の駆け引きを繰り広げる描写は、なかなかのえげつなさで面白い。
 あまりに気に入ってしまって買ってしまった香港盤BDで原語(韓国語)版を見ると、ソンと巨人軍や中日との駆け引きのシーンに日本語と韓国語が入り乱れてるおもしろさも加味されているので、字幕版が上映されてないことはつくづく惜しまれるところである。



 冷徹なビジネスに徹していたソンが、やがて少しずつリンリンに情を移していくところや、ウェイウェイたちのサーカス団に毎度押しかけている借金取りの男が、実は意外にいいやつで、彼が漂わすアイロニーや、彼がウェイウェイからも嫌われていた「レイティン」を手なづけ、ライバルゴリラとして売り出そうとすることで起こる新たな騒動など、日中韓三つどもえで魅力的なキャラクターが次々参入してきて楽しい。
 物語のメインは、リンリンが韓国野球界を席巻する痛快さと、その裏にあるウェイウェイとリンリンの絆の物語なのだけれど、ウェイウェイが決してただの「ゴリラ好きのいい子」なだけの少女ではないことが浮き彫りになるところなど、その描き方も決してウェット過ぎないバランスで描かれているのもいいのである。


 ボクの好きなシーンは、リンリンが野球場で暴れ回る騒動があった後、ソンがミスターGOの信頼を回復するためにウェイウェイとリンリンをテレビバラエティに出演させるシーン。そこでウェイウェイが唄うのが、テレサ・テンの「月亮代表我的心」である。


(日本語訳)
君は僕にどれくらい深く好きか、どれくらい好きかと聞く。
僕の気持ちは本物だよ、僕の愛は本物だよ、月が、僕の心を表しているよ。
僕の気持ちは映らないよ、僕らの愛は変わらないよ。
軽いキス一つでも、僕の心を揺り動かす。
昔から、ずっと君への気持ちは深い。 いまでも思い続けているよ。

 この歌に、ウェイウェイのためにホームランを打ちまくるリンリンの姿が重なる。
 この歌を劇中ではシュー・チャオちゃんが唄っているのだが、この歌が実はリンリンの心情を唄った歌として「反転」していくのである。リンリンが何故、時に傷つき、時に人間にヘリで追われ、時にホームシックにかかりながらも、バッターボックスに立ち続けるのか。それを語らずも示す、クライマックスで彼がウェイウェイに見せる「背中」に心の底からぐっとくるのである。大好き。(★★★★★)


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