虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2016年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

toshi202017-01-02



 どうも。あけましておめでとうございます。
 ぐずぐずしていたら、年が明けてしまいました。更新量としては相変わらず微妙ですが、ぼちぼち生きてます。


 毎年言っていることですが、年末にベストを選ぶ段になるとつくづくイイ映画が多いと思う訳ですが、今年は日本映画が席巻した印象の多い年ですね。楽しい映画がいっぱいありましたが、2016年に「出会えた」映画の中から「たった」10本だけ、「あー・・・これはどうしても選びたい」と思ったものを選んで見たいと思います。
 あの映画がない!この映画がない!という方もおりましょうが、ご容赦いただいて、しばしお付き合いください。では参ります。。

10位「殿、利息でござる!

殿、利息でござる! [Blu-ray]

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感想:勝ったのは百姓!「殿、利息でござる!」 - 虚馬ダイアリー

 仙台藩の吉岡宿で、「伝馬役」という重い課役を少しでも軽減するために、窮乏する藩にお金を貸して、そこから利息を取って賄った実話を元にした、中村義洋監督初時代劇映画。
 士農工商の厳しい身分制度を定めた江戸時代。メインの登場人物は武士階級はおらず、ほとんどが農民階級。武士階級はほんの一握りだった時代にもかかわらず、農民階級の物語は描かれづらい江戸時代において、一揆も起こさず、暴力も使わず、知恵と信念で理不尽な支配階級である武士に一泡吹かせようという、そんな「農民」たちの映画である。登場人物も決して一枚岩ではなく、それぞれに望みやコンプレックス、私欲がありながらも、やがて、ひとりの男が貫いた志に集う。
 ひとりの男が貫いた信念が、様々な人々に伝播し、やがて、支配階級の搾取に対し、一泡吹かせる大計画を成就させていく。さびれゆく宿場を舞台に、刀も持たずに知恵と信念と・・・血の滲むような思いで絞り出した「多くのお金」で立ち向かう。そんなこの映画が私は大好きです。

9位「ビューティーインサイド

ビューティー・インサイド [DVD]

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 一晩寝ると老若男女問わず姿形が変わってしまう青年が、ひとりの女性に恋をする。そんな奇想天外な設定の、韓国発の恋愛映画。老いも若きも男も女も問わぬ、123人の俳優がひとりの「男」を演じている。
 ふたりは恋に落ちる。好きになったのは「彼」自身だと彼女は言う。けれど「彼」が毎日会うごとに見た目が変わる、なにより彼女自身が「彼」を容姿がまったくの別人になるがゆえに見つける事が出来ない。
 「容姿」が変わっても「彼」の「中身」は変わらない。そのはずである。けれども、中身は同じでも毎日違う「人間」が彼女に会いに来る。彼女の中ではその認知のゆらぎが、そのまま心のゆらぎへとつながっていく。恋愛ってなんだろう。恋するってどういう事?そんな「恋愛」の本質を見る者に問うてくる。実験的でありながらあまりにストレートな、映画でしか出来ない恋愛物語を描ききった作品です。一見の価値ありです。

8位「ズートピア

感想:誰がために世界は成る。「ズートピア」 - 虚馬ダイアリー
 ディズニー映画最新作であり、動物だらけのアニメでありながら、決して「可愛さ」だけの映画でも愉快なだけの映画では無い。
 見た目(種族)に囚われないウサギの新人警官・ジュディと見た目に屈して流されてきた詐欺師の狐・ニックが出会い、動物たちが種族を越えた自由と繁栄と偏見と差別が重なり合う大都会で起こる難事件を追う。田舎でもあった単純な差別が、都会ではより複雑に重なり合って偏在してるという視点が見事。
 アニメーション映画としてのクオリティ、個性的で魅力的なキャラクターたち、娯楽映画としての楽しさもさることながら、差別とは人の心に必ず起こりうる。それを自覚していく事こそが、差別をなくしていくための一歩である。そんな真実を物語を通して伝えきる。なんとも見事な傑作である。
 

7位「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」

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感想:深く高らかに潜航せよ「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」 - 虚馬ダイアリー
 第2次世界大戦後のハリウッド。赤狩り吹き荒れるハリウッドで、職を失い、仕事を失ったひとりの脚本家・ダルトン・トランボの実話の映画化である。
 脚本家としての職を失った後も決してペンを折らず、偽名を使って「脚本家」として生き抜いてきた彼は、ついに映画史に残る傑作を世に放つ。時代は思想弾圧の真っ只中にあり、時にはかけがえのない友を失いながら、自らの才能を恃みに生き抜いた男が、この映画で最後に起こす逆転劇は、すこぶる爽快である。
 こんな男が実際にいたのだ!そんな驚きに満ちた、「すごい男」の話である。彼が何者で、どのような映画に関わっていたのか、知らない方がより驚けると思いますよ。

6位「映画 聲の形


感想:ディスコミュニケーション・ベイビーズ「映画 聲の形」 - 虚馬ダイアリー
週刊少年マガジン」に連載された作品を、京都アニメーションが映画化。年末に駆け込みで見て目を泣き腫らして帰ってきた。
 小学生時代に起こしたいじめ事件を引きずりながら、自分は人に関わる資格も、ましてや生きる資格すらもないと絶望を抱えていた主人公が、イジメ事件のきっかけとなった聾唖の少女と再会したことをきっかけに、少しずつ人として再生していくまでを描く。人を傷つけられる痛みを知ったことで、過去に自分が起こした相手の痛みに気づき、そしてそんな自分を「殺す」ことで生きてきた少年が、それでも自分は生きていいのだ、というその端緒をみつけるまでの物語、というところが、自分の琴線に触れた。
 「伝わらない」「伝えられない」ゆえの孤独に痛み、または相手を傷つけるかもしれぬという可能性におびえる少年少女たちが、それでも生きるために支え合おうという落としどころが、とてもいい。恋愛成就して解決、という方向に逃げなかったのも自分の中でかなりぐっときてしまったところです。

5位「ヒメアノ〜ル

ヒメアノ~ル 通常版 [Blu-ray]

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感想:キミとボク、何が違った?「ヒメアノ〜ル」 - 虚馬ダイアリー
 金も趣味も生きがいもなく茫漠たる日常を生きる青年・岡田は、バイトの先輩に連れられて、先輩が好きな女性を見に行った時に、かつて高校の同級生だった森田くんと再会する。一時期とても仲が良かった二人だが、森田がいじめに遭うようになってから疎遠になっていた。だが、バイトの先輩の思い人である女性とうまく行き、日常に彩りが出てきたその日から、岡田は森田くんから命を狙われる事になる。森田くんは、その女性をつけ回していたストーカーであり、人の命を奪うことを何とも思わぬ「殺人者」になっていたのである。
 この映画は、暴力描写も一切容赦がないにも関わらず、簡単なジャンル分けを許さない映画である。岡田という青年の「日常」と、森田くんの生きる「非日常」がシームレスに世界がつながっているという、吉田恵輔監督の演出力がとにかく圧巻。「日常」と「非日常」が違和感なく移行する映画の「タイトルバック」が出た瞬間は、今も忘れがたい鮮烈さに満ちている。非日常の暴力もあなたのすぐとなりにある、というその視点が徹頭徹尾貫かれている為、森田がなぜ暴力と殺人の螺旋に囚われるようになったのか、岡田が森田くんに向き合い始めた時に知る真実は、そのままストンと観客の心に落ちる。
 岡田と森田くん。彼らふたりは、一体何が違ったろうか。日常を生きる平凡な青年と、非日常な暴力を行う青年。そこにどんな差があったろうか。そう問いかけるかのようなラストは、戦慄しつつも、涙が止まらなかった。

4位「オデッセイ」

 突如起きた砂嵐がきっかけで火星にひとり取り残された宇宙飛行士が、みずからの知恵を駆使してサバイブする様を描いたリドリー・スコット監督作品。
 あらゆる困難を宇宙飛行士としての知恵と、植物学者としての経験、さらに前向きな性格と音楽の力でひとつひとつ乗り越えていくという物語が単純に面白いし、彼の生還のために登場人物全員が各々の立場で考え、行動することで道を開いていくという物語が、底抜けに気持ちがいい。こんなせちがらい世の中だからこそ、時に人の「強さ」、人の「善なるところ」を信じてみたくなる作品というエンターテイメントに出会うというのも、またいいものです。
 この作品は、その点において言えば、物語の壮大さ、作品の規模、脚本と演出、すべてが総合的に優れている。まさに何度でも見たい作品であり、80歳も間近になった監督の作品とは思えぬパワフルさに満ちた大傑作だと思います。

3位「日本で一番悪い奴ら」

感想:勤勉なるものは毒をも食らう。「日本で一番悪い奴ら」 - 虚馬ダイアリー
 柔道で名を馳せ、柔道がきっかけで北海道県警に引き抜かれた、真面目な体育会系青年だった警官が、幅を利かせる先輩に薫陶を受けたのをきっかけに、悪徳刑事としての道をひた走っていくピカレスク・コメディである。
 かつて柔道で大学を日本一に導きながら、馬鹿正直にマジメすぎて刑事としてはぱっとしなかった警官が、一つの「悪いやり方」を教わり、その成功体験を得た時から、その「やり方」こそが正しく、ひいては警察と国民のためになる、という思い込みとともに、「愚直に勤勉にマジメに」悪徳刑事の道を突き進んでいくという物語。彼の「成功体験」の痛快さ、悪徳刑事の手口がひとつひとつ露わになっていく「知的」な面白さ、彼とつながる裏社会の「S」たちとの友情と絆、やがて、それらがすべて「破滅」へと「裏返っていく」物語の哀しさが同居する、奇妙な味わいの「笑って泣けるエンターテイメント」となっていく。
 かつて「機動警察パトレイバー」で後藤隊長は言った。「おれたちの仕事は、本質的にいつも手おくれなんだ。」と。そこを越えて犯罪に関わっていくのは、警察としての仕事の領域ではないと。警察の正義とは「正しい警官」であればこそ掲げられるものである。そんな「正しい警官」としての領域をことごとく踏み外し、しかしそれが「正義であり、ひいては国民のためになっている」と思ってしまうことの「怖さ」。そして、その心を利用している「奴ら」の存在とは。それらを存分に描ききった、「面白うてやがて哀しき」傑作であります。

2位「この世界の片隅に


感想:世界を遠くに見つめながら「この世界の片隅に」 - 虚馬ダイアリー
 太平洋戦争まっただなかの戦時中に、広島から呉にお嫁に行ったすずさんとその周辺の人々の日々を描いた、片渕須直監督の7年ぶりの新作である。
 公開前から前評判が聞こえてきて、自分も公開されてすぐ見に行って、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けて帰ってきた。作り込まれた背景描写と、細やかな日常ドラマ。そしてそして突如すずさんに牙を剥く戦争の暴力。すずさんたちの日常を軽やかに描きながら、背景として緻密に再現された「街」が、「風景」が、その先につながる「世界」、ひいては「我々の時代」までも連なっているような、そんな無限に近い広がりを持った強烈な映画体験を観客に与える事が、この作品の妙味であるとボクは思います。
 見た後しばらく、感想が出てこないという、映画で無ければ出来ない体験をさせてもらいました。泣けるとか泣けないとかね、そんなことは正直どうでもいいですね。こういう簡単には言葉に出来ない作品に出会った時に、どう作品と向き合い、自分の言葉にするかというのが、自分のブログを続ける最大のテーマでありますので、久々に充実した気持ちで感想を書かせて頂きました。作品に出会えた事に感謝です。


1位「ハドソン川の奇跡

感想:私は「仕事」をしただけさ。「ハドソン川の奇跡」 - 虚馬ダイアリー

 2009年に実際に起こった「ハドソン川不時着水事故」について描いた、クリント・イーストウッド監督最新作。
 この映画の主人公であるベテラン機長、チェスリー・"サリー"・サレンバーガー (以下サリー)はこの不時着水事故でハドソン川へと向かい、死者をひとりも出さなかった事から「英雄」として報じられます。しかし、彼の「不時着水」という、ある種ハイリスクな選択は、「国家安全運輸委員会」に問題視され、シミュレーションした結果、さらにリスクの少ない方法があったのではないか、と糺されます。
 この映画は何故ベテランパイロットのサリーが、リスクの少ない方法を採らず、リスクの高いハドソン川の不時着水へと至るのかについて、自問自答しながら向き合っていく映画であります。その中で、イーストウッド監督は、なぜ「奇跡」は起こったのかをひとつひとつ、明らかにしていくのです。


 ひとつの事を愚直に続ける事。そして「当たり前」のことを行うために真摯に向き合い続けること。この映画が導き出す「奇跡」の「種」は、そんなシンプルで当たり前のことである。奇跡というのは捨て身の努力で為すものではなく、その事態に出会った時に「仕事をするべき人」がそこいて「そして適切に仕事をする」ときに初めて起こるものであると。


 この映画を見る前、実は結構映画感想をブログに書くことの意義について考えていたんです。自分はこの映画感想を書き続けて17年になります。結構な長きに渡り書いてきました。しかし、Twitterの台頭で、だれでも簡単に手軽にさっと映画感想を書けるようになりました。自分もTwitterでさっと書くことが苦にならなくなっていましたし、見た後にすぐ書けるというのは大きな利点です。ブログというのは手間がかかるわりには、反応が鈍いメディアですが、Twitterなんかはすぐに反応が返ってきます。長く続けていた事に意味はあったのか。ふと考えてしまっていたのです。
 この映画を見た後、非常に目を見開かれた思いがしました。愚直に一つのことを続けていくことも決して悪いことではないのだと。そして、自分にもまだやれることがあるかも知れぬ。そういう気持ちになりました。奇跡に近道などないと。そんな薫陶をくれたこの映画に、ボクは大変感謝しておるのです。この映画を通して、イーストウッドに力強く背中を押された気持ちがしたのです。
 非常に個人的な理由で申し訳ありませんが、それがこの映画を今年一番の映画に挙げる理由であります。