虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ベテラン」

toshi202015-12-15

原題:Veteran
監督・脚本:リュ・スンワン


 元俳優で、アクション映画からキャリアをスタートさせながら、国際的諜報サスペンスから、韓国社会の底辺で地を這う男たちの話まで、ジャンルを問わない作品を撮り上げてきた韓国が誇る活劇系監督リュ・スンワン監督の新作は、「らしからぬ」?刑事を主人公にした明快な勧善懲悪活劇。敵は、「ナッツリターン」問題でも話題になった、財閥系特権階級のゴーマン御曹司の腐敗行為である。


 一人の男が、ある財閥企業のビルの階段で身を投げて、意識不明の重体になる事件が発生した。
 その男は財閥三世チョ・テオ(ユ・アイン)の会社のトラック運転手で、不当解雇を訴えていたらしい。広域捜査課のベテラン刑事ソ・チョドル(ファン・ジョンミン)は以前このトラック運転手に捜査に協力してもらった事があり、なおかつ刑事ドラマの監修を勤めた時の打ち上げの時にチョ・テオにも会ったことがある。「不当解雇を嘆いての自殺」として片付けられそうなこの事件の裏に何かがある。そう直感したソ・チョドル刑事は、事件の真相解明に向けて動き出す。だが、相手は財閥企業。あらゆる妨害工作がベテラン刑事を待ち受けていた。
 

 一言で、感想を書くなら「いや−、とにかく面白い」でおしまいである。そのくらい面白い。


 「新しき世界」で日本でも女子達を「沼」に引きずり込み、「国際市場で逢いましょう」で「韓国国民の父」とまで呼ばれるようになった、今や韓国映画の看板役者ファン・ジョンミンが主演。彼が演じる、荒事大好きで妙に顔が広い、喧嘩っ早いが情には篤く、ちょっと身体が衰えてきたがまだまだ若い者には負けない正義感を持つ主人公をはじめ、彼が配属されている広域捜査課の面々も、実に個性的で面白い。

 「国際市場で逢いましょう」でもファン・ジョンミンの親友を演じてたオ・ダルス演じるちゃらんぽらんに見えるけど、情には篤く慕われるチーム長、ふっくらした愛らしい顔で悪い奴にはドロップキックをかます「広域捜査課の紅一点」ミス・ボン、ベビーフェースにも関わらず傷は男の勲章とうそぶく男気をうちに秘めて荒事にも積極参加するユン刑事、ミス・ボンに惚れてるけど相手にされない哀しきマッチョ系ワン刑事など、キャラの押し出しの強さは、シリーズ化もありなくらい。


 そしてなにより悪役である。
 経済的にも権力的にも恵まれているにも関わらず、財閥で幅を利かせる姉へのコンプレックスから常にルサンチマンを抱え、その怒りを自分よりも下の立場の人間に向けて、気にくわない人間に対して冷酷な行いをするチョ・テオを演じるユ・アイン。

 こいつが!こいつが!本当にうまいんだこれが!本当に憎たらしい。イケメン!でも上司や友達には絶対したくない!てか、人として絶対関わりたくない!という、甘いマスクの裏に隠した邪気を発散させる演技が本当にすさまじい。本当に見事すぎて心の底から憎しみと嫌悪感がこみ上げてくるのすごい。
 財閥への負い目からそんな男の尻ぬぐいを一手に引き受ける悪ガキボンボンの右腕、チェ常務(ユ・ヘジン)のあの手この手のやり手ぶりと、やがて追い詰められ財閥からトカゲの尻尾として切られていく、その憎々しさと悲哀のバランスを感じさせる描きぶりも見事である。


 正義のために出世を諦めてでも悪を許さないベテラン刑事と、情に篤い同僚たちがいよいよ巨悪を追い詰めるクライマックスは、問答無用の熱さ。若く、格闘技も強く、そしてどこまでも憎々しい財閥が生んだ怪物に対して、中年で生活に追われ妻には頭が上がらず、出世も出来そうに無いおっさん刑事が立ち向かう!見つめるは繁華街の観客達の目と、向けられるスマホカメラ。
 財閥三世と一介の中年刑事。生まれも育ちもまるで真逆のふたりが、1対1でガチバトルを繰り広げるに至っては、ユ・アイン演じる財閥ボンボンがあまりに見事な悪役ぶりなので、「やれーー!おっさん、やっちまえーーーー!」と拳を振り上げたくなる熱さへと至る。完成度の高いプロレスの試合の興奮に近いのである。


 韓国国民の溜飲をこれでもかと下げる、勧善懲悪痛快無比の刑事アクション映画は、韓国国内歴代3位の興行収入をたたき出したらしい。そらそうだ。ここまで面白けりゃ何度でも見るよ!大ヒットも納得の韓国が放つ刑事アクションの快作である。大好き。
 金持ちのボンボンどもよ、悪いことはするな。おっさんが来るぞ!(★★★★☆)



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