虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ベルリンファイル」

toshi202013-07-23

原題:Bereurlin
監督・脚本:リュ・スンワン


 歴史は夜作られる。陰謀は異国で動き出す。

 
 かつて冷戦時代に東西に分断され、数多くの諜報合戦が繰り広げられたドイツ・ベルリン。そこでは北朝鮮のスパイが暗躍し、他国と取引する都市として利用されていた。
 アラブ組織との武器取引の現場を韓国の国家情報局に察知された、北朝鮮諜報員のジョンソン(ハ・ジョンウ)。「南」の諜報員に追い詰められつつ、からくも脱出するが、どこから情報が漏れたのか、それがわからない。その原因を突き止めるために「故国」から保安監視員としてトン・ミョンス(リュ・スンボム)が送り込まれる。ジョンソンはトンから、ベルリン駐在の北朝鮮大使の通訳として働く妻・リョン・ジョンヒ(チョン・ジヒョン)が「南」とつながっているという疑惑を突きつけられる。
 一方、追い詰めた北朝鮮のスパイを取り逃がしたチョン・ジンス(ハン・ソッキュ)は窮地に立たされていた。そんな中、旧知のCIA職員から、北朝鮮大使館の誰かが亡命しようとしているという情報を得、名誉挽回へと動き出すのだが。


 「アラハン」でデビューし、その後「クライング・フィスト」や「相棒/シティ・オブ・バイオレンス」など骨太な作品を作ってきたリュ・スンワン監督が、「異国」ドイツ・ベルリンを舞台にしたスパイアクションに挑戦。
 「ジェイソン・ボーン」以後を強く意識したカット割りと異国のロケーションに負けないアクション、情緒過多な作家性を抑えて、多面的な登場人物たちが、時に絡み合い、時にそれぞれの思惑で動き回りながら、やがてそれらが一つの流れへ向かって収束していく脚本の構成力も見事で、緊張感が途切れない。
 ジョンソン演じるハ・ジョンウの力強くも憂いに満ちた存在感が、「愛する妻の裏切りにおびえる腕利きスパイ」という、一見矛盾したような複雑さを見事に体現し、ジョンソンの妻を演じるチョン・ジヒョンは「猟奇的な彼女」や「10人の泥棒たち」のような明るいキャラクターを封印して、哀しみを抑えながら生きる女を好演している。


 陰謀と裏切りに満ちた世界を背景にしながらも、やがて「守るべきもの」のために国や組織、政治信条を超えて共闘する男たちの、熱きクライマックスは圧巻。
 異国でありながら、いや、異国であらばこそ「故国」に囚われる「哀しき獣」たち。そして、その獣がその鎖から解き放たれるラスト。哀しみの中に、奇妙なカタルシスを残す、不思議な感情に満たされる。
 「ザ・韓流アクション」の旗手だったリュ・スンワン監督の、そして「韓国映画」の進化をまざまざと見せつける、洗練と熱さが同居する、怒濤のエンターテイメントである。(★★★★☆)