2017年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。

toshi202017-12-31



 みなさま、どうも。ご無沙汰をしております。気がつけば年末でございます。
 今年、ブログ更新量はいよいよ、近年稀に見る少なさでございましたが、大変申し訳なく思います。しかし、映画自体を見る量はむしろ上がっており、いい映画との出会いがたくさんありました。その中から10本を選ぶという、なかなかつらい作業でございました。
 というわけで、自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「勝手にふるえてろ

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公式サイト:映画『勝手にふるえてろ』公式サイト


 東京国際映画祭にて鑑賞。十代からの片思いを引きずり、20代になってもなお、その「一番好きな彼」を片思いし続けてきたヒロインが、彼女にリアルに好意を向けてくる「二番目の彼」が現れたことで起こる、ヒロインの大混乱を描くラブ・コメディ。
 一人の男を片思いを続けてきたが故にリアルな恋愛からは遠ざかり、コミュニケーション不全に陥ったOL・ヨシカの、大混乱を描いている点がとにかくイマ感がある。自分の絶対的な聖域を作り、そこに踏み込んでくる人間にはたとえ好意を伝えてくる男性であろうとも、心を許していたはずの親友でさえ攻撃的になる。そんなヒロインの心の「大激震」を描いている。
 「理想の恋愛」に心をこじらせてき女性が、リアルな恋愛と対峙する。その時に初めて気づく、自分の中にある「狂騒」。刺さる人間は限定されるかもわからないけど、刺さる人間には思い切り、刺さる。その刺さり方がまたエグい。心臓を貫かんばかりの深さだ。
 心の奥底に踏み込まれることで起こる、ヨシカの心の「ふるえ」は、みっともなく滑稽かもしれないけれど、だけど(人によっては)誰よりも愛おしく見える人もきっと多いんじゃないでしょうか。少なくとも私はその一人です。是非一度ご覧ください。
 

9位「サバイバルファミリー」

 もしも突然、社会から電気が喪われたら。そんな状況に突然放り込まれた日本社会を、一家族の視点から描いた作品。
 ここ数年、なんだかんだと新作が出るたびに僕は矢口史靖監督の新作をベストテンに入れてきましたが、本作もまた非常に優れた娯楽作でありながら、3.11後の日本を見据えた娯楽作になっているように感じます。
 電気を喪った人間がどういう行動を取るのか。その群集心理を描きながら、同時に、かつてない危機に立ち向かう、一家族のロードムービーとしての側面もあったりする。その中で、家族に少しずつ今までの自分にはなかった「自分」が目覚め始めていく。
 今まで矢口監督が培ってきた、「取材によって徹底的にリアリティを固め」ながら、それをきちんと「コメディー」として落とし込むという蓄積が、本作もまた非常にリアルで、そして滑稽でありながらも少しずつ人間として成長していく家族の物語として、非常に完成度の高い形で結実していると思います。
 何より本作は、非常に普遍性の高い設定であり、「ドメスティック」に陥らない、万国共通のテーマであり、きっと多くの人に届く傑作であると思います。

8位「アシュラ」

 架空の地方都市アンナム市を舞台に、絶対的権力を持って街を腐敗させていく市長の下で手先として働いていた刑事が、ある事件をきっかけにして、市長と検察の対立の渦中に叩き込まれ、やがて破滅していくまでを描く、韓国ノワール
 とにもかくにも、主人公にしてからが最初から街の腐敗にどっぷり使った悪徳刑事で、冒頭で人生が完全に破綻するような事件が起こる。刑事を辞めて市長の正式な部下になるはずが、そのプランは頓挫し、そこから人生の歯車が狂い始め、そこから様々な「悪人」と絡むことになるのだが、それでもこの映画が面白いのは、言ってみれば「破滅」が定められた男の右往左往の物語としての魅力と、出てくる「悪人」たちが、それぞれに圧倒的な個性を放っているからに他ならない。
 柔らかな物腰で主人公をえげつなく追い詰めてくるクァク・ジョヨン演じる、市長を告発しようと動いている検事・キム・チャインと、彼の右腕となって動き荒事も辞さない検事、チョン・マンシク演じるト・チャンハクが主人公をえげつなく追い詰めます。
 そしてファン・ジョンミン演じる主人公がつるんでいた、悪徳市長パク・ソンベは、その純粋な悪でありながらも抗いがたいカリスマ性を持っており、その魅力はまさに悪魔的。主人公の代わりに彼の手先となる、純朴な性格の弟分・ソンモもまた、市長のカリスマ性によって心を奪われ、やがて「悪人」として開眼していく。そして主人公と袂を分かっていきます。徹底的に追い詰められた主人公が、最後に取った決断とは。その決断が、さらなる地獄の釜を開くのです。
 悪に落ちる快感、後戻りできないと気づいた時の悲哀と絶望、破滅していく魅惑、容赦ないバイオレンスとハイテンションなアクション、そして悪と悪がぶつかり合う興奮。その全てをがここにある。一見の価値ある傑作と思います。

7位「LUCK-KEY ラッキー」

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 殺し屋がひょんなことから記憶をなくして売れない役者と人生が入れ替わる、内田けんじ監督のコメディ「鍵泥棒のメソッド」を原案に、いぶし銀の名脇役として活躍してきたユ・ヘジン主演でリメイクした作品なのだが、完全に本歌取りとも言うべき傑作として生まれ変わった。
 日本では「漫画的」な感じになりがちな「殺し屋」という職業も、ノワールが盛んな韓国ならば「映画的」になる。45歳の殺し屋が32歳の売れない俳優として、大真面目に役者道へと邁進する姿を演じるユ・ヘジンはただただ面白いだけでなく、32歳として人生をやり直し、あまつさえ新たな人生を手に入れる、この一見いかついおっさんが、実にかっこよく、そして時に可愛いの。この映画のヒットによって、ユ・ヘジンと言う脇役俳優をも「生まれ変わらせた」この映画。
 まだまだ人生やり直せるんだ!という「おっさんのファンタジー」としても大変優秀で、見ていて笑いながら、最後はうっすら涙を浮かべちゃうような、そんな映画である。一人のおっさんとしてこの映画大好き。本当に好き。

6位「昼顔」

 上戸彩主演で大ヒットしたドラマ、「昼顔」の映画版である。
 いや、実を言うとドラマの方は全く見たことがなく、いきなり劇場版を見に行ったのでした。理由は簡単。西谷弘監督の新作だからである。「ガリレオ」シリーズ、「任侠ヘルパー」など、ドラマの劇場版を傑作・秀作に導いてきた監督であり、本作においてもその期待を大きく超える仕上がりとなっている。
 ドラマシリーズで不倫愛を知られてしまい、職も居場所もなくして、映画冒頭で地方都市へと移り住んだヒロイン。けれどそこでかつての不倫相手と運命の再会を果たしたことから、二人は次第に燃え上がり、物語は歯止めの効かない方向へと転がりだしていく。初めはただ、好きなだけだった。たとえ不倫であろうとも、お互い純粋に好きあった二人で生きていこうと決めた。だが、二人が向かった場所は引き返せない、あまりにも深い因業が渦巻く選択であることを、ヒロインは思い知ることになる。

 実を言うと、この映画の前に「午前十時の映画祭」で「突然炎のごとく」を見ていたですが、この映画と「突然炎のごとく」がシンクロするシーンがあって大変興奮した。
 人の夫を奪い、自分のものにする。その道はあまりにも、あまりにも業が深い。その愛は、奪われた者の気持ちを踏みにじることで成立する愛である。純愛などと決して言えはしない。
 奪うもの。奪われるもの。この映画は、その業に真っ向から向き合い、そして物語は一つの終着へと疾走していく。憧れ的に消費されがちな不倫愛。それを巡る因業の果てを描いた傑作である。

5位「ドリーム」

 1961年。まだ黒人差別が当たり前だった時代、NASAの計算手として働いていた3人の女性たちの活躍を描いた映画である。
 時まさに冷戦時代。宇宙進出は人類の悲願であり、アメリカはソ連としのぎを削り、お互いの国の威信を賭けた宇宙計画を進行させていた。そんな中、圧倒的な計算力を誇るキャサリンはスペース・タスク・グループへと配属された。しかし、そこでも当たり前のように差別的な扱いを受けるキャサリンだったが、次第にその計算力が高く評価されていく。
 ひとかどの人物として仕事で自己実現する「夢」。人類を宇宙へ運ぶ「夢」。そして自分たちに向けられた差別をなくしていく「夢」。黒人女性がそれらを実現することが、「夢物語」だった時代において、一つ一つ困難をクリアしていくことによって、その「夢」が実現していく流れをNASAにもたらした3人の女性。見終わった時に思った。「彼女たちこそが『ワンダーウーマン」である」と。
 大きな目標に向かって、知性を結集していたNASAにおいて、「人種差別」と言うのは目標達成を阻む「エラー」でしかない。目標を持った知的な人間は、そのことにいち早く気づき、それを取り除く。3人の黒人女性のヒーローたちの物語というだけではなく、本当に知性のある人間と言うのは差別しないのだと描いてみせたこの物語は、まさに差別被差別者双方にとっても、学ぶことの多い傑作でありましょう。

4位「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」

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 南北戦争時代、黒人と白人の差別から無縁の「ジョーンズ自由州」を築いた一人の白人男性、ニュートン・ナイトの生涯を描いた歴史大作である。
 アメリカ本国でもあまり知られてないこの人物は、南北戦争のさなか、南軍から脱走し、逃げ出した奴隷たちや脱走兵たちとともに、銃を取り戦いながら北軍、南軍どちらにも属さない、黒人と白人がともに暮らす独立区を作ったのである。黒人女性と結婚した彼は、戦争が終わり、自由州がアメリカに戻った後も、色濃く残る差別と戦い続けた。
 そしてその戦いは、彼の子孫にまで及ぶ。アメリカ全土で黒人と白人が自由に結婚できる時代になるまでには、彼一世代では終わらなかったのだ。それは映画「ラビング」で描かれた、ラビング夫妻の法廷闘争を待たなければならない。
 差別が根強く続くアメリカで、世代を超えた戦い続けた描く脚本の構成がまた見事である。今、アメリカを覆い始めている空気は、まるでニュートン・ナイトが戦った時代へと戻ろうとするかのようだ。戦いはまだまだ終わらないのである。
 まさしく、今知られるべき人物であると思う。

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3位「バーフバリ/伝説誕生」「王の凱旋」

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公式サイト:映画『バーフバリ 王の凱旋』完全版公式サイト

 インドで歴代興行記録を塗り替えた、インドの古代都市・マヒシュマティを舞台にした、貴種流離譚である。
 滝の下で高貴な婦人の手によって救われた赤子シヴドゥは、実はある王国の英雄の息子マヘンドラ・バーフバリであり、数奇な出来事を経て再び王国に帰ってくる。彼はそこで、父である偉大なる英雄王アマレンドラ・バーフバリの活躍と悲しき運命を知ることになる。
 その圧倒的イマジネーションは凡人である我々の想像をはるかに超え、圧倒的な演出に打ちのめされる。第1作こそちょっと突飛な話に見えながら、第2作を見ることで物語が全て繋がり、偉大なる王の数奇な運命と悲劇、王国に起こった物語を主人公が背負い、王としてマヒシュマティ王国へと帰ってくる。その熱量はまさに「王の凱旋」と言うにふさわしい圧倒的力強さで観客を飲み込んでいく。
 この映画の声出し可能な発声可能上映、名付けて「絶叫上映」に何回か行かせてもらっているが、本当に最後は一人の群衆として、「王を称える」ことしかできない。大きな声で「バーフバリ!!」と。
 ツッコミどころももちろんあるのだけれど、それを映画大国・インドの粋を詰め込んだかのような、その有無を言わせぬ力強さでねじ伏せて、全てに圧倒される前後編。是非スクリーンで王の凱旋を称えて欲しいと思います。

2位「トンネル/闇に鎖された男」

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感想:俺を救え!「トンネル/闇に鎖された男」 - 虚馬ダイアリー

 韓国・ソウル。突然のトンネル崩落に巻き込まれた自動車セールスマン。彼に残されたのはケーキ1個と飲料水2本、そして電波のかすかに届くスマートフォン。彼の救出作業は難航し、彼には逆境に次ぐ逆境が待っていた。
 この映画の暴き出す経済優先社会の冷酷さ、大衆メディアは男に望むもの。主人公が受ける圧倒的な窮地は誰が生み出し、誰が彼を殺そうとし、誰が彼を救うのか。見終わってその流れにゾッとし、そして主人公が最後に叩きつける一言は魂の言葉として我々に突き刺さるのだ。
 この映画において問われるのは、この映画のどこに「自分」がいるのかと考える想像力である。僕らは主人公を見捨てるのだろうか。そして、自分が主人公であったならばどうしただろうか。現場で救う側の焦燥と、悲劇を「消費」するメディアと、綺麗事を言いながら時に生命を簡単に切り捨てる政府と、時に冷めやすい大衆と。
 優れた映画というのは様々な示唆をくれるものである。この映画を見た後、考えて欲しい。見ていた映画のどこかにきっとあなたが「いる」はずなのである。本当に孤独なサバイバルの中で、本当に信じられるものはなんなのか。それをつぶさに描き切った大傑作だと思います。必見です。

1位「新感染/ファイナル・エクスプレス」

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感想:ヨン・サンホ監督と揺らぐ我々。「新感染」「我は神なり」他 - 虚馬ダイアリー


 今年の一番大きい収穫は、ヨン・サンホ監督というでっかい才能を知ったことである。

 もちろん本作「新感染」も衝撃的だったのだけれど、彼の本来のフィールドであるアニメ映画も立て続けに公開されて、「新感染」の前日譚「ソウル・ステーション:パンデミック」や、信仰の意味を問う「我は神なり」などもまた、刺激的で面白くて、実に示唆に富む傑作であり、まさに私に強いインパクトを残した。


 監督がアニメ映画で培ってきた卓越した人間描写は、初の実写映画である「新感染」においても変わらない。普段なら穏やかな人も、追い詰められれば一番大事なのは「自分」になる。本当に追い詰められた時、僕らは「人間らしい」選択をできるのだろうか。「ゾンビ」という題材でありながら、一人の人間としてどうするのか。観客の喉元に突きつけてくる映画なのだ。
 この映画は一番恐ろしいのは、ゾンビではない。それによって右往左往する人間なのだ。それを言葉ではなく、映像で、音で、物語で観客にナイフを突きつけながら問うてくる。あなたならば、どうするのだ?と。

 娘とろくなコミュニケーションも取れず、父親としては落第点だった主人公は、利発な娘さんの存在によって、「たまたま」、「人間らしい選択」を選び取れた。偶然にも、奇跡的にも。だからこそ、「選び取れないかもしれない」僕らは彼の選択に涙を流す。それは「せめてそうありたい」と願う涙なのだろう。そう僕は思うのです。
 「新感染」、本当に恐るべき映画だと改めて思います。


ソウル・ステーション/パンデミック [DVD]

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