「アナと雪の女王」
原題:Frozen
監督:クリス・バック/ジェニファー・リー
脚本:ジェニファー・リー/シェーン・モリス
原案:ハンス・クリスチャン・アンデルセン『雪の女王』
偽らねばならぬ。偽らねばならぬ。なぜなら私は。普通ではない。
昨年の12月、札幌で行われた英語スピーチコンテストで日本人の高校生がゲイであることをカムアウトした。日本のマスコミには大きく取り上げられなかったこの話題は、海外では話題となり、逆輸入される形でネットやTwitterで話題になった。
彼は、ソチオリンピックを開催する(した)プーチン大統領がゲイの人たちの権利を制限するという法律を発布したことに触れつつ、ずっと、ゲイであることを自覚しながらも、ずっと心に秘めて生活をしてきたし、「そういう人間ではない」ように振る舞ってきたことを告白する。それでも、同級生はそれに気づき、その一部が心ない態度を取ったり、同級生の女子が心ない一言を彼に言い放ったことなどが、語られていました。
この映画を見終えた後、ふと、思い出したのはその事でした。
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この映画の最も特異だった部分は、「魔法」を「憧れ」ではなく「恐れ」「穢れ」として描いたことにある。アンデルセンの「雪の女王」はその魔法を使いながらヒロイン・ゲルダに酷いことをする、「怪物」そのものとして描いてみせる話であったが、「アナと雪の女王」はその設定を借りながらも、かなり「雪の女王」側に心情をシフトした形で大胆に翻案しなおした物語である。
この映画のヒロインは二人いて、ひとりは、さる王国の王家に生まれ、雪を操る「魔法」を持ちながら、幼少期に愛する妹を命の危険にさらしたトラウマから、「魔法」があることをひた隠しにしながら妹とも距離を置いたまま生きてきた姉・エルサ。
もう1人は、一時期まで仲良かったのに、ある日を境になぜか姉と疎遠になったことで、愛情を受けたいと思いながらも叶わず、生来の陽性を失わないものの、「愛」に過剰なあこがれがある少女に成長した妹・アナ。
王様夫妻は、エルサの魔法を国外にも国民にも秘匿し、エルサを長く多くの人の目に触れないようにした。そして、魔法に詳しいトロールの忠告を元に、エルサにその魔法を押さえ込むように「教育」してきた。だが、年々強まるその力に、エルサは心を堅く閉ざしてしまう。
やがて。王様夫妻が不慮の事故で亡くなったことで、王家を継承せねばならなくなったエルサ。成人すると同時に、女王となるべく戴冠式に臨んだ彼女は、その堅く閉ざした心を広げようとする。しかし。本当は愛しくてたまらない妹が、出会ったその日に、他国の王子と婚約すると聞いた時の動揺から、思わず発動してしまったその力を即位記念のパーティーで公にしてしまった瞬間、彼女は悟る。
私は「怪物」。だと。私は「ノーマル」な人間では、ない。
この映画は、妹のアナが夢見がちな、愛情に飢えた箱入り娘であることをつぶさに描きながら、彼女は、出会ったその日に見知らぬ王子と婚約するような「ほれっぽすぎる」きらいはあるものの、それ以外は至って「普通」の女の子であり、彼女が基本的な「狂言回し」も兼ねている。
一方エルサは、男どころか家族も、愛する妹さえも拒絶し、長く自分を偽ってきた女性である。
だから。だからこそ、彼女が魔法を心から解放する喜びを唄った「Let It Go」は実に感動的だ
ひとりになろう。ひとりになろう。そうすれば、恐れを抱かれることもなく、私はすべての枷から解き放たれ、本当の自分になれると!
しかし、その力の解放は、更なる災厄を王国にもたらしてしまう。アナは、姉を連れ戻し、魔法を止めるように頼みに、行方知れずとなった姉を探す旅に出るわけである。アナはその過程で、友達はトナカイしかいない奇特な氷売りの青年、クリストフや、かつてエルサと一緒に作った雪だるまによく似た「生きた」雪だるま・オラフと出会うことになる。
そして「本来の自分」になったエルサと、アナはついに対面する。だが、自分の解放した力が更なる災厄をもたらしたことに動揺したエルサは、うっかり魔法で妹の心臓に魔法のかけらを打ち込んでしまう。心臓に打ち込まれたら、しばらくしてアナの身体は魔法で完全に凍り付いてしまう。彼女に必要なのは「真実の愛」を分かち合った者のキスのみ、という展開になる。
ディズニーアニメのプリンセスものとして王道的展開を見せながら、しかして、この映画はそんな予定調和から大きく逸脱する展開を見せる。それは、「ハッピー・エバー・アフター」な物語の意味が、昔と大きく意味を違ってきているからに他ならない。
「ノーマル」でない「マイノリティ」もまた幸せにならなければならない。差別され、迫害され、恐れられ。だけど、それでも、共に生きる。
この映画が最後に描く「真実の愛」。その帰結こそが、この映画の真のテーマなのである。
ゲイであることをカムアウトした高校生・ケントくんは、キング牧師の名言を引用しながらスピーチをこう締めくくる。北丸雄二さんによるスピーチの翻訳を引用します。
拒絶は怒りの言葉や暴力の脅威ではありません。孤立による拒絶。日本でゲイでいるのは、ものすごく孤独な生き方です。 きっとぼくにとって、他の人と同じように生きるのは難しいことでしょう。でもこれはぼくの人生です。誰が何と言おうともぼくはぼくの人生を生きてゆく。
マーティン・ルーサー・キングはこう言いました。「信じるところに従って最初の一歩を上がりなさい。階段全部をわかっている必要はない。とにかく一歩踏み上がるのだ」。挫けそうになったとき、ぼくはよくこの言葉を思います。今日のこのスピーチはぼくのその一歩でした。
みんなのまえで自分がゲイだと言えるなんて、ぼくはこれまで思ってもいませんでした。
ぼくにも夢があります。いつか北海道の広い野原で、ゲイの人たちとストレートの人たちが談笑しながら太陽の下でジンギスカンを食べる夢です。ぼくには夢があります。自分たちの理解できないものをやみくもに差別する、そんな偏見も、憎悪も、無関心もない世界の夢です。
この映画は、新世紀を生きる我々へディズニーが贈る、新たなる「夢」の具現化である。そう思うのである。大好き。(★★★★☆)
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