虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「川の光」

toshi202009-06-20

監督:平川哲生
原作:松浦寿輝
美術監督:山本二三
演出協力:原恵一



 ニンゲンによって失われた川からの引っ越しを余儀なくされた、クマネズミ親子の小さな大冒険を描くTV向け長編アニメーション。NHKの環境番組「SAVE THE FUTURE」の一環として制作された。


 原作は未読。


 以前、拙ブログにて「河童のクゥと夏休み」について書いたとき、そこにコメントを寄せてくださった、アニメーターでブログ「ぼくらは少年演出家」も運営されている平川哲生氏(弱冠29歳!)の長編監督デビュー作となる本作。「河童〜」の監督、原恵一氏も演出協力としてクレジットされている。
 ネズミの視点からニンゲンが作り上げた「街」を生きる「水大好きなオンナノコ」の犬や、「集団からドロップアウトした」ドブネズミや、「魚しか食べない」猫や、スズメとの交流を通して描くのは、動物の酷薄すぎる現実ではなくて、人間社会が失いかけている「相互協力」という「人間性」である、というファンタジーを、「ぼくら」の見慣れた「風景」の中で行うというのが、この作品の眼目と思える。
 不思議とこの作品に出てくる「登場"人"物」たちは集団から孤高を守って生き抜いてるキャラが多い気がするのが面白い。特に、集団に置ける軋轢を忌避し、図書館に住み、詩をたしなむドブネズミ・グレンが印象深く、この映画の主題のひとつである「川の光を求めて」という言葉は、彼のセリフから生まれている。


 美術を山本二三氏が行っているだけあって、非常に美しい風景がオープニングから広がっていく。平川氏のコンテは、この物語のファンタジー性に寄り添うために「リアリティ」を志向しているのだが、そこにはは人間側から動物たちを優しく見守る目線の暖かさがある。だから、「河童のクゥ」で感じた、精神をえぐるほどのリアリティはないのだが、その「優しさ」こそ平川監督の「演出生理」であろうし、そこは、作家の個性として尊重されるべきと思う。
 ただ、それゆえの限界もあって、平川監督が志向するリアリティというのは「人間」から見たリアリティであって、「ネズミ」側からのリアリティからするともっと突き詰められたのではないか、と思えるところもある。ネズミにはネズミにしか見えない「風景」や「目線」というモノがあるはずで、そこにさらにイマジネーションを働かせられれば、「見慣れたはずの風景」を「見たこともない風景」に変える魔法をかけることが出来たのに、と思える箇所もある。その辺は、さらなる「伸びしろ」となるところではないか、と思う。
 人間の「顔」をあえて映さないという演出は、、逆説的に「人間」側からネズミ世界をリアルに見るということで、ネズミ側から「ニンゲン社会」を見るのならば、逆にネズミから見た「ニンゲン」は描くべきじゃないか、とも思ったのだけど、「ネズミ目線から人間性を知る」という眼目からすればズレてしまうかもしれないし、作画的にみれば非常にめんどくさいところではないか、とも思う。この辺の判断はムズカシイところであるなあ、と思った。


 とはいえ、非常に丁寧な作画と演出が印象的で、取材に取材を重ねて、手間暇かけて作り上げたことをうかがわせる良質なアニメーションとなっていて、ファンタジーでありながら、ニンゲン社会と動物の関わりについてもきちんと考察がなされた世界観を提示する作品に仕上げてきたのは非常に感心したし、平川監督の資質の片鱗を見た気がする。大きなはじめの一歩を踏み出した、平川氏のさらなる飛躍をこころから期待しています。