虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「マイティー・ハート/愛と絆」

toshi202007-11-24


原題:A Mighty Heart
監督:マイケル・ウィンターボトム
脚本:ジョン・オーロフ
原作:マリアンヌ・パール


 2002年。パキスタン最大の都市カラチで取材中だったウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者ダニエル・パールが何者かに誘拐された。帰らぬ夫を心配したマリアンヌは、地元の警察と情報を共有し、彼の無事を祈りながら、「なぜ彼が誘拐されたのか」の真相に迫っていくが・・・。


 そうかそうか。


 ・・・な原作者(ヒロイン)の宗教的背景はともかくとして。



 この映画に通底する「祈り」は決してかの宗教を選ぶものではなく、そして決して他人事ではない普遍的なものではないのか、と思う。この題材は実話としてはまだ生々しさを残していて、その物語が決してハッピーエンドにならないことはわかっていて、それでもなお、画面を釘付けにするサスペンスフルな演出が巧みで、思わず見入ってしまう。さりげない日常描写のリアリティも含めて、かなり周到に作られた映画だと思う。そういう意味では「ユナイテッド93」から通ずる、「実録系アンハッピーエンド映画」を志向した映画と言えるかも。アンジェリーナ・ジョリーも抑制の利いた演技で、気丈なヒロインを魅力的に演じてみせる。


 ただ、この映画はどちらかというと、「ひたすら待ち祈る妻(妊娠中)」と「捜査する側」の焦燥にスポットを当てざるを得ないわけだけれども、それであの結末では、やはり物語のカタルシスは希薄で、映画としての演出レベルの高さとは裏腹に、どうしてもマリアンヌの「気丈な姿」に感心こそすれ、共感からは遠くなってしまうのは仕方のないところか。サスペンスとしてこの題材を扱ったゆえの弊害をどう乗り越えるのか、というのがこの映画の課題のはずだけど、彼女がこの顛末とどう向き合い乗り越えたのか、の描写まで踏み込みきれなかったことで、どうしても最後の最後、この映画が観客とヒロインの心が離れてしまったように感じてしまったのだ。
 映画としての出来映えにも関わらず、劇場を出るときに、妙に釈然としないものを感じてしまったのは、「弱い一個の人間」が理不尽な災難をあたえた者どもへの「赦し」、平穏な気持ちを得るまでを描ききれてないからだと思う。そこまで描き切れたなら、この映画は傑作になったろう。そう思った・・・のだけれど、それを描くには彼女の「宗教」に深く言及せざるを得なくなる。それはウィンターボトム監督の本意ではないのかもしれぬ。難しい話である。(★★★)