虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「REDLINE」

toshi202010-12-29


監督・絵コンテ・:小池健
原作・脚本:石井克人
脚本:榎戸洋司/櫻井圭記


 
 「アニマトリックス」の中の1編「ワールド・レコード」でデビューした小池健監督の長編デビュー作であります。


 私がどうしても見ておきたかったのに結局東京で見られなかった映画がこの映画で、これを見るために栃木県小山市に二度遠征してしまった(一度目は車のナビが駅前の映画館じゃなくて、郊外のシネコンに案内してくれて、泣く泣くなにも見ずに帰った。)


 さて。
 思えば「ワールド・レコード」は小池監督の師匠筋に当たる川尻善昭監督の脚本で、肉体の覚醒がデジタルな擬似世界であるマトリックスを凌駕する、そのストーリーラインと力強い演出が見事にかみ合い、緩急を織り交ぜ一気に見せる傑作短編でありました。
 そんな小池健氏を強烈に意識するきっかけになったのが、石井克人監督が第2作として撮った「PARTY 7」のオープニングが、僕の小池健監督作品とのファーストコンタクトである。

 これがすごかった。とにかく、このせいで映画本編がかすんで見えてしまうほどのまさに神オープニングであり、私のこの映画の感想は一言で言えば「オープニングのアニメ、すごかった」であり、そしてわたしはこう思ったわけです。


「全編、オープニングアニメの人のアニメーションで作ればよかったのに」


 そして、そんな「PARTY 7」が公開されてちょうど10年経った今年!ついに「全編小池健」の長編映画が出てきたわけです。しかも、脚本・石井克人×監督・小池健のタッグで、ですよ!それは・・・見るでしょう!
 で、見ました。


 楽しかったー!大スクリーンで見られてほんとよかった。


 「F−ZERO」(任天堂のゲームね)や「デス・レース」のあいのこみたいな世界観で、見た目時代遅れのリーゼント野郎だけど、初恋の娘を追ってレースの世界に飛び込んだのはいいけれど、八百長レースの片棒を担ぐ日々にくすぶっていた純情男が、ロボワールドという悪の帝国の敷地で宇宙的エアカーレースの最高峰「RED LINE」に出場して、勝利を目指す、という話で、出てくるキャラクターもかなり突飛なキャラクターが頻出するわけなんですけど。
 メインストーリーが、借金がかさんだおかげでヤクザと八百長を公然とやる羽目になってしまったメカニックの親友や、親友の師匠筋にあたる昔かたぎのジャンク屋の爺との、友情のエピソードとか、シンプルな話で固めつつ、そこに「RED LINE」にエントリーされたドライバーたちのサブエピソードが挟まる形で物語が進行していく。
 まー、なんですか。SFとしての考証だとかリアリティだとか、この映画に限っていえば言うのも野暮で、石井克人の持ち味である変人だらけの群像劇を、小池健監督が、自身の演出力を惜しみなく使い切る、というただそれだけで、見ていて眼福眼福。

 主人公・JPを演じる木村拓哉の声も結構キャラと合致していて面白かったんだけど、特筆すべきはヒロイン・ソノシー・マクラーレンを演じる蒼井優ですよ!明らかに自身のキャラクターとは違うであろう、ソノシーのキャラクターにあわせて見事に演技そのものを変えていて、びっくり。完璧。完璧な演技で、蒼井優が演じていることを意識することなく見た。


 物語としては、悪の帝国がからんだエピソードが、本来のレースを妨害するだけの意味しか持ってなくて、大仕掛けな割に映画として物語が停滞する箇所が何度かあって、やや中だるみを感じることもあったのですが、それでも、レーサー8人がそれぞれの「物語」を抱えて、ニトロによるブーストエンジンのみでゴール目指して突っ走っていくクライマックスは、無理やり感があるものの、その無理を承知で突破しようとする小池健監督の心意気が伝わるような、渾身のアニメーションで、それが伝わってきた時点で、ボク、考えるのはやめました!

 小池健監督のほんの数分のオープニング映像に出会ってからちょうど10年目の今年。このような、頭の悪い(ほめてます)映画となって、私の望みが結実するとは、世の中まだまだ捨てたもんじゃない!と思える。アニメ界の新たなる俊英、その長編デビュー作としては、大変申し分ない快作でありました!拍手!(★★★★)