虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「相棒 劇場版II 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜」

toshi202010-12-24

監督:和泉聖治
脚本:輿水泰弘/戸田山雅司


 人気ドラマ「相棒」の劇場版正式ナンバリングの第2作。


 相棒、というタイトルが冠されるこのドラマは、警視庁特命係という、架空の部署にいる、杉下右京と、彼と組まざるを得なくなった(笑)人々を巡る物語、というのが基本構造であり、その杉下右京は警視庁において、かなり敵を作りやすい人物である。そんな彼が何故、特命係として警視庁に身を置けるのか。
 元々キャリア組エリートだった杉下右京の最初の「相棒」的存在であり、彼を「人材の墓場」と呼ばれる窓際部署に10年以上もの間留めおかれている理由を作った男がいる。本作は、その男との、ひとつの決着が描かれることになる。


 「相棒」というドラマは、「警視庁」という組織のブランドを持ちながら、同時に「探偵事務所」的に事件に対して小回りの利いたアプローチをする存在としての「特命係」という『発明』が、このドラマの面白さの根幹にあり、杉下右京が「探偵」、そのパートナー(相棒)が「助手」というカタチで成り立っている。
 しかし「特命係」の弱点は、警察という信頼(ブランド)と引き替えに、組織の中でしか存在し得ない、という点である。彼らが「毎週」のように警察の捜査に介入できるのは、鑑識課の米沢守や、組織犯罪対策5課の角田課長と言った、数少ない協力者のおかげであり、彼らの協力がなければ、杉下右京の優秀な頭脳も、小回りの利いた機動力も使いどころを半減以下にさせられることは必至である。


 本作が浮かび上がらせるのは、『特命係』という部署のウィークポイントそのものなのだと思う。
 杉下右京は組織の中にありながら、その自分の信条や正義を決して曲げることはなく、その為なら人と衝突することも辞さない男である。それが彼が組織人から疎まれる要因でもあるし、一時、窓際の特命係からすら追われたこともある。
 その男を少なからず理解し、特命係を影ながらサポートしてきた人物が「小野田公顕」という人物である。今回、10年間組織のエリートとして時に飄々と、時に鋭く立ち居振る舞い、組織の中で固い信頼を勝ち得てきた男が、自分の理想を掲げて動き出したことによって、特命係も「事件」を追ううちにその渦中に巻き込まれ、・・・ていうか、どちらかと言えば自らを投じていく。


 物語はシーズン8とシーズン9の間に挟まる今年の夏の話である。描かれるは、警視庁と警察庁という、ふたつの組織が政治的対立を激化させているさなかに起こる「警視総監人質籠城事件」と、やがて明るみになる「事件の背景」にあり、無論作り手たちの眼目は「後者」の方にある。
 この前者の「人質籠城事件」は、かなり映画的アプローチで、ぐいぐい進んでいくのだが、その事件が終結して以降の、描き方は、ドラマ「相棒」の延長線上の演出となるので、映画としてはいささか停滞する感じが続くのだけれど、面白いなと思うのは、組織の中に身を置く「杉下右京」と『神戸尊』が彼ら個人としてどう立ち居振る舞うか、という物語になっていることである。


 この映画が示す結末は、ドラマ「相棒」としては一つの転換点となる展開であることは間違いないし、そういう意味では、「相棒」ファンは刮目して見るべきである、とは思う。
 特命係は、これからどうすべきなのか、
 劇場版第1作を思い返してみれば、あの頃と比べて、杉下右京は少しずつ警察の内外の理解者を失っていってる気もする。そういう意味で、警視庁という組織の中における杉下右京、及び特命係の立場は、この映画を通してますます混沌としているように見える。この映画の結末という「布石」は「相棒」をどこへ導くのか。その答えは、今後のテレビシリーズに保留されたまま物語は終わるので、1本の映画としては、決して据わりのいい物語ではないのだけれど、ドラマ「相棒」シリーズの根底を揺るがす「イベント」として映画を仕上げてみせた点は、「なるほどな」と思った次第。(★★★)