虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「藁の楯」

toshi202013-05-10

監督 三池崇史
脚本 林民夫
原作 木内一裕


 うむ。もったいない映画だったなあ。


 出だしはなかなか快調である。1人の幼女の暴行によるショック死による遺体が発見され、捜査線上に過去に同じような犯罪を犯した男・清丸(藤原竜也)の名前が浮上する。被害者は蜷川(山崎努)という経済界の大物の孫娘で、蜷川は男に「その男を殺したら10億円差し上げる」と新聞広告やネットメディアを駆使して宣伝。清丸は福岡の潜伏先で仲間に殺されそうになったところを出頭してくる。
 送検するには48時間以内に東京まで送致しなければならない。警視庁は4人の警察官を、その凶悪犯の「護衛」しながら「護送」する任務を与え、福岡に派遣する。その中に、警護課のスペシャリスト銘苅(大沢たかお)、シングルマザーでありながら警視庁トップクラスの実力を有する白岩(松嶋菜々子)もいた。そして、賞金10億円目当ての群衆が清丸を「殺そう」とする中を、福岡から東京まで、福岡県警のベテラン刑事を含めた5人は清丸の護送を開始する。


 まず「この男を殺してください。御礼に10億円差し上げます。」というキャッチーな宣伝煽りが印象的だったのだが、ふたを開けてみると「※ただし、裁判を受けて有罪となり服役したもの。あと国家が自ら手を下すのはオッケー」という但し書き付いていて、「うーむ」となってしまった。もっと気軽に10億手に入れてうっはうは、というようなことにはならないのね。
 これ、結構なリスクで、つまり「人生」を棒に振る覚悟がないと10億円もらえないのね。その割に続々と殺しに来るニンゲンが現れるけど、大体「刑務所入ればハクがつくヤクザ」か「人生詰みかけている大衆」というのがこの物語を殺伐としたものにしている。


 僕はこう、もっと「凶悪犯を殺害しようと付け狙う群衆」と「容疑者を護送するSPたち」による欺し合い、という色が強いエンターテイメント映画という期待があったのだけれど、結局内通者の存在によって情報は筒抜けで、「身内にスパイがいるかいないか」「だれが裏切るのか」というストーリーラインに終始し、「俺たち命がけだけど、この容疑者に守る価値はあるのか。」という、「警官によるSP警護のジレンマ」という内省的な自問自答を、熱く語り合う方に物語が傾いていく。


 言ってみればこれ、SP版「走れメロス」だな。どこまで策を弄しても、内通者がいてあっという間に居場所を特定され、サイトに流され、行く先々で襲われる。やがて、「東京に着かなくたっていいじゃないか。こいつは殺されて当然だ。お前だって過去に苦い経験をしてるんだろ。殺しちまっても大丈夫。命を賭す必要なんてないない。10億もらっちまおうぜ。」というささやきを、仲間までが口に出してきて、しかも、清丸は変態で人を殺すことを屁とも思わない、正真正銘のクズ。過去にとある事故で妻を喪ったトラウマを抱えた大沢たかおは揺れ動く。
 それでも大沢たかおたちは無事、清丸を生きて送り届け、任務を遂行できるか、という話である。


 藤原竜也のクズ演技がまるで演技じゃないかのようにあまりに堂に入っていてそれが映画の求心力として機能してるのではあるが、映画の展開が観客を高揚させるような方向には向かわない。48時間というタイムリミットがあるにも関わらず、蜷川側が財力と政治力をフルに使って、警察組織にいる多くの内通者を駆使してる為、行き当たりばったりの出たとこ勝負で話が展開するなど、サスペンスを盛り上げる方向に映画が向かわなかったのは残念。
 なにより、クライマックスの桜田門前での蜷川と銘刈が対峙し語り合う場面は、個人的には完全に蛇足。


 結局「目の前にいる、誰が見てもクズで救いようがない容疑者を、私刑で処刑するのはいいのか悪いのか」みたいなところで堂々巡りしながら葛藤するドラマが眼目になっている映画なのであるが、それは警察官の話としてはどうなのよ。俺はもっと葛藤を抱えながらも、矜持を貫くプロフェッショナルたちによる駆け引きを描いた娯楽映画が見たかったな。(★★★)