虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「アイアンマン3」

toshi202013-04-29

原題:Iron Man 3
監督:シェーン・ブラック
脚本:ドリュー・ピアース/シェーン・ブラック



 ロバート・ダウニーJr.が麻薬で逮捕・収監されたのは1996年の事である。それでもあまりある才能で仮出所後に「アリー・myラブ」シーズン4で鮮やかに復帰し、その芸達者ぶりを発揮してゴールデングローブ賞を獲得したにも関わらず、2001年にコカイン所持で再逮捕され、ドラマからも降板することになる。
 そんな彼が、である。「アイアンマン」という大作でトニー・スタークという当たり役を手にし、続編、さらにマーヴェルヒーローが一同に会した「アベンジャーズ」では中心的存在として活躍。俳優として今やオファーが引きも切らない状況である。彼の演技の才能と、波瀾万丈とも言える人生がトニー・スタークという男に、大きな魅力と深い陰影を与えているのは言うまでもないわけであるが。


 ほんで。「アイアンマン」及び「アイアンマン2」を監督してきたジョン・ファブローが別のプロジェクトのために3作目の監督を降板し、代わりに監督に抜擢されたのが、「キスキス、バンバン」でロバート・ダウニーJr.と組み、プライベートでも旧知の間柄だというシェーン・ブラック監督である。
 元々俳優だったシェーン・ブラックが、映画製作に関わるキャリアを積み始めたのは、監督ではなく脚本家としてである。「リーサル・ウェポン」「ラスト・ボーイスカウト」「ロングキス・グッドナイト」などアクション映画の脚本を手がけてきた実績があり、本作でも脚本を担当している。


 さて。その「アイアンマン3」である。
 僕はIMAX3Dで鑑賞して大変楽しかったんですけど、見終わった後、今回何故、こういう話になったのか。というのをぼんやりと考えていたんです。


 本作でトニー・スタークは「アベンジャーズ」で宇宙からの脅威を撃退するために活躍したが、その代償として彼は激戦の末にPTSDを患ってしまう。そしてさらに、彼の中で不安神経症とも言える症状を発症する。
 宇宙からの脅威という存在の出現は、彼の「理解」を超えている。テロの脅威などというものは「アイアンマンスーツ」1着で片が付く。しかし、それだけではもはや対応できない敵が現れる。そもそもである。「アイアンマン」という英雄稼業を始めたのは、天才の彼にしてみれば半分「道楽」でもある。ひとりで、軍隊1個を軽く全滅できるという、「米軍ひとり」みたいな存在であり、誰も彼には手を出さない。だからこそ、彼は英雄であることに迷うことはなかった。
 しかし、「アベンジャーズ」でトニー・スタークは思い知る。アイアンマン単体では、自分、ひいては自分の大切な人を守り切れない存在がいることを。


 こうして彼が日々を費やすのが「アイアンマンスーツ」を作り続けること。どんなにすごいスーツを作り上げても満足できない。彼が劇中で製作しているスーツがバージョン42。「アベンジャーズ」の事件からこっち、計35体を作ったらしいのね。しかも全部自分用。「アイアンマン」から「アベンジャーズ」までが7回のバージョンアップだったことを考えると短期間でかなりのハイペース。考えてみると、かなりおかしい。
 彼は不眠不休で製作に没頭。映画は最初、トニーが嬉々としてスーツを制作しているかのように見せているが、実は寝ていないから無駄にハイになっているということが明らかになる。トニーは次第に壊れ始め、つきあいの長い、彼の公私ともにパートナーであるペッパー・ポッツも手に負えないほどに奇行が目立ち始める。
 そんな中、世界を騒がしているテロリスト・マンダリンによるテロ行為によってトニーの(数少ない)親友ハロルド・"ハッピー"・ホーガンが瀕死の重傷を負う。トニーはマスコミの前でマンダリンに宣戦布告。その時に彼はなんと、いままで秘密にしていたと思われる自宅の住所を堂々と言ってしまう。もはや感情にまかせて、正常な判断力すらも失っている。で、テロリストの正体を探っている最中に、戦闘ヘリによって自宅を急襲され、研究施設ごと破壊される。トニーはアイアンマンスーツとともに、てがかりとなるテネシー州の街へと脱出するのであった。


 今回の映画のテーマの一つは「トニー・スターク」が精神的にも追い詰められ、トニー自身の「人としての不全」と向き合うことである。


 で、シェーン・ブラック監督はどうしたのか、というと。「アイアンマン3」の中に忍ばせたのは「ロバート・ダウニーJr.の人生」そのものなのではないか。才能を持ちながらも、「依存」に蝕まれた前半生。その頃の彼の話を。
 トニーが強大な「仮想敵」を相手に延々とアイアンマンスーツを作っていく姿は、冷戦時代のアメリカが核兵器を作り続けていた姿に重なる。あの時代のアメリカは、まさに「核開発しなければ」という「不安神経症」に悩まされた国家だった。もはや「核」がなければ安心できぬ。冷静構造の解体は、その「不安神経症」を「治療」としててきめんな効果を発揮したわけであるが。
 「アイアンマンスーツを作りつづけ」なければ「仮想敵」への「不安」を打ち消せないトニーは、まさに「それ」に「依存」しているわけである。


 彼は突如、その明らかに「自分」自身に悪意を向けた明確な「敵」の存在によって「アイアンマンスーツ」生活から引きはがされる。
 そして、生身の「トニー・スターク」として単身アメリカをさまよい、いろんな人々の協力を得ながら、敵の存在を探り始めるわけである。その中で、トニーは少しずつ「依存」から脱却していく。彼は「正常」な、武器商人としての人生を恥じ、アイアンマンスーツを一から作り始めたころの、彼に戻っていく。


 一方、今回の「悪役」マンダリンである。彼が仲間に使う「力」の源は「身体」の不全を治療する方法「エクストリミス」である。しかし、それが体に超人的な力を与えもするが、「オーバードーズ」すると体は「爆発」して死に至る。それはまさに「麻薬」の暗喩。
 そして、ベン・キングスレー演じるマンダリンという男の正体。それはまさに、かつての「ロバート・ダウニーJr.」なのではないか。彼はまさに「国家」をも欺く「才能」を持ちながら、「ある薬の依存」によってその身を利用されてしまう。役者として類い希なる才能を持ちながら、「依存」によって、彼はその人生をもてあそばれている。


 「依存」から生まれ、軍隊一個中隊にも匹敵する「アイアンマン」スーツという「心の繭」。彼はそれを全登場させることで、強大な敵から愛する人を救おうとする。その最終対決は実に圧巻。そして彼自身が、すべてに決着を終えたとき、彼はそのスーツをどうしたのか。それは劇場で見て頂きたい。


 ロバート・ダウニーJr.は子供時代からの薬物依存に苦しめられ、逮捕後も長く薬物を手放せずにいた。だが、2003年に彼はすべての薬物を「海に投げ捨て」その後薬物には一切手を染めていないという。ラストにトニー・スタークが起こす行動は、その「依存」からの、そして「自らの弱さ」との決別である。
 本作でトニー・スタークがたどった旅路は、まさに、ロバート・ダウニーJr.自身が経験した旅そのものなのではないか。ふとそんなことを思ったのである。(★★★★)