虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「容疑者X 天才数学者のアリバイ」

toshi202013-04-22

原題:容疑者X
監督:パク・ウジン
原作:東野圭吾


 前から何回か書いているけれども、フジテレビのドラマ映画化の企画の中で、最も完成された企画は「容疑者Xの献身」だと思っている。東野圭吾の人気シリーズとなった、天才物理学者・湯川学を主人公にしたガリレオシリーズは、短編をまとめた「探偵ガリレオ」「予知夢」を連続ドラマで、そしてシリーズ初の長編「容疑者Xの献身」を映画で公開する流れは、まさに非常に真っ当で美しい流れだった。
 で、それが好評だったことを受けて、5年ぶりの連続ドラマの第2シリーズが現在放映中で、新作映画「真夏の方程式」公開が6月に控える中、韓国映画版「容疑者Xの献身」である本作が、六本木でひっそりと公開されていたので、俺こと福山雅治が見てきましたよ、オマエラ!(福山のラジオ風)


で、韓国映画版ですが。なんと、俺・福山が演じる(←いい加減にしろ)天才物理学者がいません! つまり。本作は「容疑者Xの献身」をガリレオ先生抜きで描いてしまおうという試みです。


 「実に興味深い。」


 そも、「容疑者Xの献身」の主人公的存在はどちらかといえば湯川学ではなく、隣人の母娘の殺人事件を聞いてしまった、湯川も認める天才数学者・石神哲哉(韓国版:ソッコ、以下「石神」)である。彼は、母娘の母親に思慕を抱いており、親子のために、彼は犯行隠蔽の工作を図ることになる。
 韓国版・石神を演じるのは、リュ・スンボム。割と粗野で明るいキャラを演じることが多いが、本作では抑えた演技で、なかなかの好演である。


 本作でも、基本的な話の流れは、原作を踏襲している。違うのは大学の同窓だった湯川センセの代わりに、殺人事件を追う刑事が、石神と元・同級生だったという設定に変更されていることである。旧知の刑事が翻弄されながらも、かつての数学好きの友達の犯した「計画」の真相に迫る、という流れになっていく。


 この改変に関しては悪くはないのだが、ミステリーとしての説得力に関しては日本版がやや優る。石神の「計画」を見る湯川の視点というのは、実は「容疑者Xの献身」では結構重要なファクターでもあって、連続ドラマシリーズで積み上げた、天才で尊大で「HOW(どうやって?)」にしか興味がない湯川だからこそ、彼が語る「石神は天才だ。」「石神は殺人を犯さない。なぜなら意味のないことはやらない男だ。」という、物語の前提となる石神の人となりに説得力を持たせていたわけで、一介の刑事が言ったところで、やや説得力に欠ける。
 そしてその前提あらばこそ、「WHY(なぜ?)」石神はその「計画」を実行したか、というミステリがより浮かび上がるわけだが、その前提が弱くなってしまった感はある。


 天才VS天才、という対決の要素をすっぱり切ったことによる、物語上の弱さはどうしても散見されるのは致し方のないところか。


 ただ、韓国版は「石神哲哉」の物語としての色が前面に出たことで、日本版よりも非常にエモーショナルな物語になっている。ミステリとしての弱さを補うかのように、好きな女のために殉ずる悲恋物語の顔が色濃くなった。そうなると、その辺は韓国映画お家芸なので、なかなか見せる。劇場も結構すすり泣きが出たし、僕もちょっとうるっとなったりした。結末もそれに引っ張られるように、より「石神哲哉」の思惑側にかなり振れているものになっている。


 ともかく、原作を改変しつつも、そのエッセンスは損なわずに非常に丁寧に作られているので、東野圭吾作品のファンは一度見てみるのも一興ではないかしら、と思います。(★★★)


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