虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「るろうに剣心」

toshi202012-08-31

監督:大友啓史
脚本:藤井清美/大友啓史
アクション監督 :谷垣健治
原作:和月伸宏




 幕末という激動の時代に翻弄されて人斬りをしていたが、決して人を斬らないという戒め「不殺(ころさず)の誓い」とともに、本身の反り側に峰がある刀「逆刃刀」を携えて、「流浪人(るろうに)」というてめえが勝手につくった造語を名乗りながら明治時代をひっそりと生きてきた剣客・緋村剣心の活躍を描いた、大ヒットコミックスの実写映画化。

 で、あるのだが。


 この映画がやや特殊なのは、漫画映画化でありながら、監督した大友啓史が演出を担当していた、幕末を舞台にした大河ドラマ龍馬伝」が演出のベースになっているところで。


 緋村剣心を演じる佐藤健は「龍馬伝」で岡田以蔵を演じていて、彼の演技もそこから大きく逸れていないし、映画の黒幕として暗躍する武田観柳を演じる香川照之の演技は「龍馬伝」で演じた「岩崎弥太郎」を彷彿させる。暗い過去を持ちながら剣心に対しては時に小悪魔的に明るく振る舞う高荷恵を演じる蒼井優のキャラベースは彼女が演じた長崎芸妓のお元だ。神谷薫(武井咲)も原作のキャラモデルとなった千葉佐那*1の造形を少なからずベースにしている。
 大友監督が生み出す世界観は、「龍馬伝」の延長線上にあり、それゆえに、この作品がコスプレ劇になる事態を見事に回避している。


 緋村剣心の通り名「人斬り抜刀斎」は肥後藩出身の人斬り「河上彦斎」(人斬り彦斎)が元らしいが、かつて長州藩に飼われた人斬りという来歴はどこか、司馬遼太郎「十一番目の志士」の天堂晋助(司馬遼太郎創作の架空の人斬り)のようだ。
 佐藤健が「龍馬伝」で演じた岡田以蔵はやがて、過酷な拷問の末に斬首されるという末路をたどる。以蔵に限らず、歴史上「人斬り」と呼ばれた人間たちの多くは、それぞれ天寿を全うしてはいない*2。そんな彼らの影として剣心がスクリーンに立っているようにみえるところが、この映画の面白いところだ。この映画は「龍馬伝」で積み上げてきた幕末の歴史が、もしかしたらたどった「かもしれぬ」、パラレルワールドな「明治11年」を描く「時代劇」として、「るろうに剣心」という漫画を消化している。
 彩度を落とし、江戸時代の名残を多分に残す、明治初期の世界観の中で、フィクショナルな陰謀が展開する。そこにふらっと穏やかな顔をして現れる、元人斬り。佐藤健が演じると、それだけでもしかしたら以蔵がなり得た、もうひとつの未来なのかもしれぬ、という思いを強くする。


 基本的にこの映画のアクションは、当時原作者が大ハマリだった格闘ゲームサムライスピリッツ」の延長線上である、キャラクターの「奥義」(超必殺技的な何か)を見せて決着する形を採っていた原作のバトルシーンをベースにはせず、常人よりも多少早さやタフさを持つ人間たちのアクションを泥臭く描く、という方向へとむけている。
 脚本自体にあまり深みはないのだけれど交通整理はそれなりにされていて、いわゆる勧善懲悪な時代劇として見ると、佐藤健くんの早さを重視した体技に、泥臭い殺陣とアイデアを練り込んだアクションを映画の骨格として、アクションシーンがつるべ打ちになる構成は、嫌いじゃない。
 ただ、もったいないな、と思うのは見せ方かな。早さを重視したり、リアルさを重視するのはいいのだが、ここぞという時にスローを入れて、逆に戦う人間が研ぎ澄まされていくことを観客に示すだけでも、メリハリがつく。アクションが長いわりに、映像が同じテンポなのでやや単調になっているのでそこは再考していただきたい。


 剣心の人斬り抜刀斎時代の運命の人、雪代巴の存在を脚本の中に多分ににおわせていて、第2作以降への前振りもばっちりなので、彼が背負った「過去」とどう決着をつけていくのか。その旅路をシリーズを通して描くのもいいでしょう。佐藤健による緋村剣心の顔見せ興業としては、まずは重畳の出来映えと思います。(★★★☆)

*1:龍馬伝」で演じたのは貫地谷しほり

*2:桐野利秋のような例外もあるけれど。