原題:Gravity
監督 アルフォンソ・キュアロン
脚本 アルフォンソ・キュアロン/ホナス・キュアロン
『独りで生きて 死んで なんで満足できるんですか。バカみたいよ。 宇宙は独りじゃ広すぎるのに。』(幸村誠「プラネテス」より)
このブログは映画感想を基本にしているのだけれど、僕が半年間掛けて、1本のテレビアニメの感想を週に1回、1話分を1エントリ、全26話分をまるまる使って書いていたことがある。2004年のことなので約10年前になるのだが。
正確には、2003年のNHK-BS本放送を見た後に行われた、2004年から2005年にかけての、地上波での再放送を追いかけている。週に1度、必ず1話分の感想を書く。こういうアニメとの向かい合い方をしたのは後にも先にもアニメ版「プラネテス」だけである。
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プラネテス感想-虚馬ダイアリー
プラネテスは26話あって、前半は巨大企業・テクノーラ社の一部署であり、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)を拾い、宇宙航行を安全かつ円滑にするための部署「デブリ課」の面々が日常業務をするなかで出会う、様々な人間関係や事件、騒動が序盤のエピソードの大半を占める。原作よりもさらに「サラリーマンアニメ」化した感じでもある。
このアニメが大きく舵を切る転換点は、主人公であるハチマキこと星野八郎太(以下「ハチマキ」)が宇宙に放り出されたエピソード「イグニッション」である。そこで、彼は宇宙への恐怖と向き合い、宇宙への憧れによって克服することによって、宇宙飛行士としての資質が「覚醒」することになる。
そして、星野八郎太は宇宙飛行士として、木星往還船の船員テストを受けるために、宇宙飛行士としての資質を試される試練にさらされることになる。
【関連】
今週のプラネテス-ΠΛΑΝΗΤΕΣ- PHASE.16「イグニッション」-虚馬ダイアリー
(この辺から映画の内容に触れます。未見の方は注意願います。)
この映画の予告編を見たときから、実はその事がずっと頭にあった。真の孤独があるとするならば、宇宙を永遠に漂い続けることだ。宇宙は酷薄である。宇宙が人類にとって最後のフロンティアなのは、宇宙が人間を拒絶する場所だからだ。宇宙は人間を愛さない。宇宙空間は我々・人間とは違う理で動いている世界である。
だから、「ゼロ・グラビティ」という映画に関して言えば、僕にとってみると、それはどこか「追体験」のような気持ちがある。いつか見た風景を見ているような感じだ。そしてその孤独はひどく懐かしかったのも多分、アニメ「プラネテス」に半年間向かい続けたからだ。
映画では、ロシアによるスパイ衛星破壊。それによりスペース・デブリが生まれ、やがてケスラーシンドロームによって爆発的にデブリが増大、「ゼロ・グラビティ」の主人公、ライアン・ストーン博士たちが船外活動中のところに、大量のスペースデブリが飛来する。その結果、ライアンは宇宙服ひとつで宇宙空間に放り出されることになる。
これは完全にヒューストン側の「ケスラーシンドローム」に対する認識の甘さが引き起こした事態であり、ロシアのスペースデブリに対する理解のなさが引き起こした事故である。
かつてハチマキが体験した、宇宙空間という真空の「海」に放り出される事態を、この映画では数分間にわたり体験することになる。
人間はどこまで言っても人間だ。それはどこへ行っても変わらないのだ。たとえ宇宙空間にいたとしても。それは僕が「プラネテス」から学んだことである。人はどこまで行っても人なのだ。
宇宙は非情な場所だ。それゆえにそこにハマってしまったら最後、囚われてしまう人も少なくない。大事なのは、宇宙に魂を絡め取られることなく、地球へ帰ることである。
「プラネテス」で印象的な台詞がある。
『俺は宇宙に来たかったから来た。飽きたら去る。それだけだ。わがままになるのが怖い奴に宇宙なんか拓けねえのさ。』(アニメ版17話「それゆえの彼」より)
「いい宇宙船員の条件ってなんなんスカ?」
「必ず 生きて帰ってくることよ」(原作第2巻 phase.11「СПАСИБО」より)
宇宙に魂を引き寄せられないように。こころを囚われないように。帰る道はある。かすかな道が。しかし、その道の存在を消してしまうのは「人の心」が「壁」を作るからだ。断絶は心の中にある。魂が涅槃に引き寄せられる時、ライアンに救いの手をさしのべる「守護天使」が現れる。
サンドラ・ブロックだからこそ演じられる、女性の中にある弱さとその奥底に眠る真の強さを持つライアン博士は、ついに「恐怖」を克服し、「人生」を取り戻す戦いへと赴く。僕らは彼女が感じる物理的な孤独、それゆえに魂まで宇宙に絡め取られそうになる姿、そこから立ち直り、やがて地球を目指すまでを、「見えざる伴走者」として見守ることになる。
その体験の「新鮮さ」こそが、この映画が観客たちのこころを掴んで離さない理由なのではないか、と思ってもいる。
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今週のプラネテス-ΠΛΑΝΗΤΕΣ- PHASE.12「ささやかなる願いを」-虚馬ダイアリー
かつてハチマキが、見た「孤独」。そしてクライマックスには、ハチマキの同僚・フィー・カーマイケルが宇宙防衛戦線に対して行った「やつあたり」*1とその顛末を思い出したりもして。僕にとってひどく既視感のある心の中で幾度となく再生した光景が、この映画にはあって、僕にとってそれは「新鮮」ではなく、ひどく「懐かしい」ものを見ている感覚に陥ったのでした。(★★★★☆)
(C)幸村誠
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*1:原作1巻