虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「少女は自転車にのって」

toshi202013-12-25

原題:Wadjda
監督・脚本:ハイファ・アル=マンスール


 その少女はスニーカーを履いて学校に行っていた。皆が黒靴を履く中で、緑色のスニーカーを。


 10歳のワジダは、サウジアラビアの少女。
 首都リヤドに住み、そこそこ文化的な生活(ワイドテレビにプレステ3、サラウンドシステム完備でラジオも全局聞き放題)を手に入れてもいる少女だ。
 しかし、基本は母親との二人暮らし。父親は通いでやってくる。一夫多妻制の国でそれは当たり前の光景。男の子と一緒に外で遊ぶことも出来ないし、女の子がみだりに自転車に乗ることすら許されない。
 学校では厳しい校長の監視の下、笑ったり大声を出したり化粧をしたり、男性に姿を見せることはおろか、顔を見せることすら禁止される抑圧的生活が続いている。見つかれば校長室に呼び出され、全校集会によってさらしものにまでされる。
 一夫多妻制が存在し、宗教の戒律が女性には様々な文化的制約が横たわる中で、ワジダは譲れないものを確固として持っている。


 ワジダは自転車が欲しかった。


 普段、ちょっかいを出してくる近所の男の子が自転車を見せびらかして優位を誇示してくるため、自転車を買って彼を負かしてやりたいのである。そのために彼女は様々な知恵をしぼって、小遣いかせぎにせいを出すが、なかなか目標額には貯まらない。母親にねだってもみたが、「女の子が自転車に乗ること」に反対しているため、買って貰えず、とりあえず、自転車を置いている店に交換条件をつけて「予約」しているのだけれど、無い袖は振れない。
 彼女はそんな中、学校主催の「コーラン」暗唱大会に賞金が出ることを知り、宗教クラブに入るのである。


 宗教も抑圧も嫌い。だけれど、ただただ反抗するのではなく譲れない一線のために、あえて戒律や抑圧の中でサバイブし、したたかにささやかに戦いを挑む少女の躍動をこの映画はつぶさに描いてみせる。
 戒律によって女性が受ける様々な文化的制約や、女性の自由を奪うさまざまな慣習が横たわる社会の現実や、一夫多妻制という制度の中で、子を産めなくなり父親の気を引こうと必死な母親の哀しみを、ワジダの目線から描きつつ、しかし、そんな現状を唯々諾々と受け入れるのではなく、戒律や抑圧だらけの中でも、常に新しい風を吹かせようとする少女の戦いは、岩波ホールの映画とは思えぬ(笑)、爽快な後味を残す。


 サウジ初の女性監督・ハイファ・アル=マンスールが、女性の未来を、自転車を漕いで疾走する10歳の少女の中に目覚めたガッツとしたたかな知性に託した、暖かなユーモアあふれる映画である。大好き。(★★★★☆)