虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ボーン・レガシー」

toshi202012-09-29

原題:The Bourne Legacy
監督:トニー・ギルロイ

 

 ♪この世はわからないことが たくさんある
 ♪どんな風が吹いても 負けない人になろう


 なんていうアニメソングがありましてな。てなわけで、お待たせしましたスゴい奴。みんな大好きジェイソン・ボーンのシリーズ最新作。かと思ったら、同じ時間軸だけど、まったくちがう主人公のまったく違うお話。


 物語は「ボーン・アルティメイタム」に登場した記者・サイモン・ロスがCIAの<ブラックブライアー計画>に関する極秘情報を手に入れ、トレッドストーン計画>の最高傑作にして問題児・ジェイソン・ボーン接触してきた辺りの時間軸からスタート。
 NRAGというCIAの機密作戦とがっつり関わる組織の司令塔・リック・バイヤー(エドワード・ノートン)は、サイモン・ロスの動向とジェイソン・ボーンの存在に懸念を抱き、進行中だった「お薬と体調管理が必須なトレッドストーン計画」こと<アウトカム計画>の抹消を計り、さらにパメラ・ランディによってCIAの極秘作戦の存在がマスコミにリークされるや否や、残った6人の作戦参加者や、作戦に関わった科学者たちをあの手この手で次々と始末していく。だが、そのリック・バイヤーの「抹消」から逃れた者がふたりいた。
 一人は作戦参加者の体調管理を担当していたマルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)。そして、作戦に参加した「NO.5」と呼ばれる暗殺者・アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)。

 アーロンは薬を紛失していたため、お薬をもらおうとほかの参加者に会いに行ったのだが目の前で殺されてしまい、難を逃れたアーロンは体調管理担当者のマルタに近づき、その過程で暗殺されそうになっていたマルタを救う。しかし、マルタは薬を所持しておらず、薬は彼女とは別の部署が薬を管理しているという(考えてみれば当たり前)。
 しかし、話の流れで「改造された肉体」と「精神」を半永久的に維持できる活性ウイルスがあることを知ったアーロンは、マルタを連れて一路、フィリピンのマニラの製薬工場へと向かうのだった。しかし、その動きはリックたちは、わずかな手がかりから調べ上げ、彼らの居場所を突き止めてしまう。そして、たまたまタイにいたリック肝いりの「人間兵器計画」こと<ラークス計画>の暗殺者がアーロンたちに迫る!ていうか、どんだけ人間改造計画量産しとんねん、CIA!
 アーロンは半永久的な最強ワクチンを手に入れて、この危険な作戦から足を洗えるのでしょうか!?


 ・・・という。まあ、ジェイソン・ボーンが現れたせいでとばっちりを受けた暗殺者さんのサバイバル話です。


 てなわけで、ですね。ジェイソン・ボーンは写真だけが登場するだけでチラリとも映りませんし、アクション映画としての質も明らかに違います。はっきり言って、大幅後退もいいとこです。
 ただひとつ違うのは、ジェイソン・ボーンが「愛を知った完璧な戦闘機械」であるのに対して、アーロン・クロスは「お薬なしでは超人的な精神や肉体を維持できない」というリスクを抱えた、未完成な暗殺者です。つまり彼は、ジェイソン・ボーンのような戦い方ができません。

 逃げるようで逃げていない。戦っているけど戦うだけではない。五感がフルに研ぎ澄まされ、肉体の全細胞が、様々な情報を送り、そして躍動する。アクションと思考が連動している彼のアクションは無駄が無く、常に情報戦、知能戦の要素を多分に含んでいる。
生まれいづるボーン「ボーン・アルティメイタム」 - 虚馬ダイアリー


 ↑こういう戦い方はアーロンはできないのです。目の前のことに手一杯です。
 これはどういうことかというと、「ポール・グリーングラスの天才的な演出力」がなくても「ボーンシリーズ」という世界観で映画を作り続けることができる、ということを意味します。
 本作は、フツーのアクション映画として見れば「及第点」以上の成果を上げていると思います。ジェレミー・レナーのアクションは思った以上にキレがあるし、物語の状況を淡々と語る序盤の地味さから一転、アーロンとマルタが接触して以後、物語は急速に動き出す、そのテンポも悪くはないし、マニラを舞台にしたチェイスシーンも香港映画ばりの楽しさです。
 そして、この映画は「ボーンシリーズの世界観での及第点以上のアクション映画」を目指して作られた映画だと、ボクは認識してまし、その課題は見事にクリアしているとは思います。


 けれど、だからこそ、「ボーン」シリーズを心から愛する人々からは賛否両論が噴出しているのではないでしょうか。「ボーン」3部作の「高み」を常に目指す「志」の継承ではなく、「ボーン」シリーズを安易に続けることを命題とした作品に対して多くの異論が出てくるのは、むべなるかなと思います。正直、「スプレマシー」「アルティメイタム」を年間ベストワンに挙げた*1過去がある私としても、複雑な気持ちを隠しきれずにいるのは確かです。
 もしも、続編、またはジェイソン・ボーンとアーロン・クロスの運命が交錯する作品が実現するとしたならば、今度こそ、満を持して「ポール・グリーングラス監督」の再登板を心から望みます。それこそが、真の「ボーン」シリーズ復活ののろしでしょう。(★★★)

*1:「アルティメイタム」を年間ベストワンにしたことがある人はたくさんいるでしょうけど、「スプレマシー」を年間ベストワンに挙げた人はごくわずかだと自負してます。http://d.hatena.ne.jp/toshi20/20051231#p1