虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ファミリー・ツリー」

toshi202012-06-07

原題:The Descendants
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:アレクサンダー・ペイン/ナット・ファクソン/ジム・ラッシュ
原作:カウイ・ハート・ヘミングス



 ハワイに根付いてコミュニティを形成する白人一族の中の、崩壊寸前の弁護士一家の再生劇。



 一族が管理しているハワイの土地の売却問題で忙殺される日々を送っていた弁護士・マーク・キングは、妻のモーターボート事故によって、仕事のかたわらで意識不明の妻の介護と次女の世話に明け暮れる。仕事に明け暮れ、家族を顧みなかったことを後悔し、妻の快復を祈っていたが、ついに医師から尊厳死を薦められ、それに同意。そのことを伝えるために、別の島の寄宿学校で生活する長女を家へと迎えに行く。
 長女は父親に反抗的態度を隠さず、未成年なのに飲酒・ドラッグにも手を出す娘だが、母が死に行くこと伝えると、さすがにショックを隠せない。その話の流れの中で、妻と長女のケンカについて話していた時、長女の口から、そのケンカの理由が語られる。
 妻が、自分以外の男と関係を持っていたという。
 長女とともにその男の身元をつきとめたマークは、娘と、長女の彼氏だという青年とともに、その間男が出張しているというカウアイ島へと向かう。



 妻の事故。そして、そこから発覚する彼女の不貞。
 そんなことから始まる物語が、まさか家族についての物語へとつながっていく、という予想外の流れに驚く。


 事故までは、夫婦の会話は数ヶ月なかった。しかし、事故以後、意識が戻らぬ妻を介護し、その後、娘達とともに間男を追跡する中で、少しずつ妻への愛情とそれに伴う怒りを取り戻し、ふつふつとたぎらせていくマーク。それが最高潮になるのは、妻が本気で家族を見捨てて、他の男と人生を生きようとしたことが明るみになった時だ。
 家族という、「血がつながった他人」同士がゆっくりと心が離れそうになっていた時、それをなんとかつなぎ止めていた妻が、まさにいなくなろうとしている。そして、いなくなろうと「していた」。
 マークは、やがて家族について振り返ることを余儀なくされる。


 当たり前のものだと思っていたものは、奇跡的にいま、ここにあるのだということを。


 ゆるやかにハワイに根付いていた、マーク・キングと彼につながる一族たち。その中で、「たまたま」彼らは「一族」としてコミュニティを形成している。しかし、家族という単位が連なる「系図」を見ていくと、不思議な感覚に囚われる。自分たちが直面してきたような問題を、彼の先祖たちそれぞれが抱えながら生きて、そして「たまたま」自分が「ここにいる」ということを、否応なく感じていく。
 そういう境涯へと至るのが、「間男を娘とその彼氏と追跡する旅」の中、というのがこの映画のおかしみであり、苦みである。旅の中で、親子で見た、マークがいままさに売ろうとしている土地の眺めも、それは「たまたま自分の手の中にある」という奇跡的な眺めであるということだ。


 いま、家族であること。それはなんと不可思議なことであることか。


 マーク・キングが、喪失の痛みにのたうち、裏切りの苦みにもだえ、それでも考え抜いて決断して、たどりついた風景が、この映画のラストの、ささやかな「家族の情景」である。ここから、家族は、また「続いていく」のだろう。(★★★★☆)