虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「パディントン」

toshi202016-01-18

原題:Paddington
監督:ポール・キング
原作:マイケル・ボンド
脚本:ハーミッシュ・マッコール/ポール・キング


 生きているというのは不思議なことである。なぜ自分はここにいるのか。考えを巡らせてみてもわからない。それはもう巡り合わせとしか謂いようが無い。
 そして。


 クマがいる。ロンドンのある駅の構内に。コートを着て、帽子をかぶって、鞄の上に鎮座している。なぜ「彼」がそこにいるのか。



 親代わりの叔父さん叔母さん夫婦ともに幸せに暮らしていたペルーの森に大地震が襲い、「彼」は住む場所と叔父さんをうしなった。叔母さんは高齢で老クマホームに入居。「彼」はかつて叔父さんたちに「文明の利器」と「マーマレード」を授けた「タンケンカ」の住むというロンドンを目指したのだった。
 ものすごく多くの人が足早に消えていく構内で、クマは途方に暮れている。そのクマに声を掛けたのは、一男一女の家族の母親、ブラウン夫人。「彼」はその一家に手をさしのべられ、一時のすみかを得ることが出来た。「彼」がブラウン一家と出会った、その駅の名はパディントンという。そしてその駅の名が「彼」の「クマ語でない初めての名前」になった。

 

くまのパディントン

くまのパディントン


 1958年に初めて出版された児童文学のベストセラー映画化。クマの「パディントン」はCGキャラ、人間は生身の俳優が演じるのであるが、もはや技術的にはなんの違和感もなく、「同居」できてしまう辺りに驚きを感じざるを得ない。CG技術の進歩により生み出されたモフッフモフとした容姿と、「007」の新たな「Q」ことベン・ウィショーのあたたかみのある端正な声が、ペルーからやってきたクマくんに新たな息吹を吹き込む。
 「リスク管理」が仕事の堅物で心配性の父・ミスター・ブラウン、おおらかでちょっと変わり者の「冒険小説家」でもある母・ブラウン夫人。思春期に突入してちょっと反抗期だけど根は真面目な勉強家の長女・ジュディ、「宇宙飛行士」になるのが夢で好奇心旺盛なやんちゃな長男、ジョナサン。そして、お掃除大好きで一家のご意見番的役割も果たす家政婦のバードさん。個性的な一家とともに、「パディントン」の新たな「家族」さがしが始まる。



 この話のテーマとしては、どうしても現在ヨーロッパで起こっている問題と絡めて語りたくもなるのだが、まずはそういう「政治的テーマ」を離れても存分に面白い映画である事が重要だ。つまり、今現在表面化している問題は、かつて何度も繰り返されてきた「普遍的」な問題でもあるということだ。
 で、この映画は面白いか。


 面白いです。
 CGと実写の細やかな融合、アニメーションと古典スラップスティックコメディを柔らかに融合したようなクマと現代文明のカルチャーギャップシーン、(結果として)スリを追跡するくだりで実写の中で違和感なくアニメみたいな大胆なアクションシーンを組み込むなど、趣向を凝らしながらもそれを感じさせない演出力がこの映画の鍵。堅物なだけだと思われたブラウン氏の、次第に大胆な性格が明らかになる脚本も秀逸で、「人は一面的には捉えられぬ」という人間観も見事である。
 もちろん、ロンドンには寛容も非寛容もある。なにせ主人公はクマだし。だけど、次第に互いの「変わったところ」を受け入れあうことで、ブラウン一家とクマ氏は、やがて一つの家族としての絆を結び始め、人々もパディントンを受け入れ始める。


 皆それぞれ、色々「変」でそれでいい。
 そんな当たり前を受け入れる心を称揚するこの物語は、現在起こっている現実的な問題すらも、柔らかく包み込んで、映画館をほんわかした気持ちで後にできる、優秀な娯楽映画であります。ご家族、ご友人お誘い合わせの上、ご覧になることを奨めます。面白いです。大好き。(★★★★)