虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ガール」

toshi202012-06-10

監督:深川栄洋
原作:奥田英朗
脚本:篠崎絵里子


 ホットヨガで知り合って妙に意気投合した、俗に言う「アラサー」の4人の女性と、それを巡る人々の話。


 29歳の由紀子(香里奈)は独身の広告代理店勤務。「女はいつまでも女の子」「お姫様でいたい」がモットー。可愛い服を見たら即座に買わずにはいられないし、即座に着ちゃう。しかし、人生の曲がり角の30歳はもうすぐそこ。仲良しの同僚の女性は結婚を決めちゃうし、つるむ相手は、友達時代が長すぎてときめかないマイペースな彼氏(向井理*1と、40手前でも自分の着たい服を着ちゃうベテラン社員の光山晴美(壇れい)くらいになってきちゃう。
 しかし、重要案件をまかされるようになって、由紀子は自分の実力不足とうすうす感づいていた自らの「痛さ」に直面することになる。取引先の若手のやり手、安西博子(加藤ローサ)には服装についてイヤミを言われ、また、一緒に仕事するようになって、晴美がファッションを趣味としてだけではなく、仕事上の武器としている様を見せつけられ、自分のあり方に迷い始める。


 武田聖子(麻生久美子)は不動産会社勤務。34歳、既婚、子供なし。会社の規模が大きいため、中小企業に勤める旦那より年収がある。最近課長に昇進したのだが、年上で部下の今井哲夫(要潤)との関係がなかなかうまくいかない。やる気のある将来有望な若手女子社員を、経験のためにと今井に一緒に組んでやるように任せたのだが、彼女をアシスタント扱いした挙げ句、彼女が出した優れたデザインを握りつぶしてしまう。今井は仕事は出来るが、社内人事の犠牲で女性上司の下に付いているという経緯もあり、聖子に対する軋轢もやむなしかと思っていたら、そもそも女性社員を最初から見下していることがはっきりとしてくる。しかも、今井から「子供も産まずに仕事に明け暮れる女房ってどうなの?」とストレートに言われ、妻としてのあり方にも悩むようになる。やがて、聖子のストレスはピークになっていく。


 小坂容子(吉瀬美智子)は文具メーカー勤務で34歳。独身、彼氏なし。浮いた話もなく、その気もなく、オシャレにもおっくうになり、仕事場では栄養ドリンク、仕事終わりには風呂上がりにビール飲んでマッサージ機に揺られる、という親父化が進行しつつある。そんな時、21歳の新入社員の教育係を命じられたのだが、この和田(林遣都)が女子社員のほとんどが思わず振り返るイケメン社員。女としての幸せなんて、軽くあきらめていたのに、和田と一緒に行動するうちにウキウキする気持ちを抑えられずにいる。だが、彼を狙う女子社員が佃煮にするほどいる上、一回り離れた教育係という関係上、行動に移せずにいるうちに、容子の心は迷走を始める。


 平井孝子(板谷由夏)は自動車ディーラー勤務。36歳。6歳の息子を持つシングルマザー。母として働き手として、常に全力投球で「頑張る」ことを決め、離婚した父親の代わりまでも一手に引き受けようと頑張る。多忙な日々を送る傍らで、残業が終わればダッシュで帰宅する。何故なら午後8時までの契約でお手伝いさんを派遣してもらっていて、契約時間を過ぎると超過料金が発生するからだ。息子の小学校の連絡帳に「さかあがりができない」と書いてあれば、息子に教えるために逆上がりを特訓し、息子が余所の親子がキャッチボールしている姿をうらやましそうに見ていたら、キャッチボールを特訓する。けれど、「がんばりすぎるな」と周りから言われるたびに、彼女は正しいと信じてきた自分の人生が間違っているのか、とふと、悩んでしまう。





 「幸せへのキセキ」を見に行って間に合わなかったので急遽見たのがこの映画である。


 驚いたことにね、面白かった。
 この映画のメインストーリーは由紀子の物語になっていて、彼女とゆるい繋がりを持つ4人の物語も同時並行で語られるのだが、由紀子は基本、「痛い」女としての目線で貫かれている。他の3人はなんだかんだと地に足つけて、自分の立場に割と達観しながら、日々の悩みにぶち当たっているのだが、由紀子の場合は、「若い子のファッションするの、そろそろきっつい。」という悩みである。程度が低いと言えば、程度が低い。
 けれど、彼女のモノローグを中心にすることで、アラサー女子にだってもっとオシャレをして人生をピンク色に染め上げたい「自分」がいる、とこの映画は喝破する。つまり、この4人のなかで、一番「女の子」の衝動に正直に生きているのが「由紀子」で、彼女の目線から3人の人生を見ていく構成にすることで、3人の中にも「そういう衝動」に身を任せたい気持ちがあることが見えてくる。
 立場も、生き方も、収入も違う4人の女性が、なぜつるむのかと言えば、彼女たちは、それぞれ他の3人に、あり得たかもしれない人生を見ているのである。


 女性にも職業選択の自由は出来た。しかし、それで女は「自由」になったのかと言えばそうではない。まだまだ、「女性」には生きにくい世の中だ。「女の人生の半分はブルー。」人生に妥協して、中途半端に手を打ってまとまって、それこそ「男社会」に迎合するという手もある。けれど、それじゃつまらないじゃない。


 男社会に「女」としての楔を打ち込んで生きる。この映画はそんな女たちの、戦いの日々を描いている。
 聖子は女性を蔑視する部下との戦いに身を投じ、容子は若い後輩との距離感に苦しみもがき、孝子は「がんばりすぎるな」と周りから言われても、我を突っ張り通す。


 この映画、女性達の悩みに簡単な「答え」は用意してはいない。この映画のクライマックスは2つ。女性蔑視する「部下」の横暴に逆襲する聖子の物語と、「一般参加による百貨店のファッションショー」を開催する由紀子の物語である。聖子の戦いは「敵」がわかりやすい分盛り上がるし、コイントスで追い詰める場面は非常に痛快である一方、由紀子の戦いは、オシャレに対して愛憎半ばにして由紀子の生き方に反発していたクライアントの女性社員・安西博子(加藤ローサ)を巻き込むことで、由紀子はこれからの生き方に「ヒント」を得る。
 時にオトコに対して女として牙をむき、時に女としての「楽しみ」を同性に伝播する。それはどちらも、「女としての自分」を見失わないための戦い。


 その歴戦の先輩として存在する、アラフォーで仕事と趣味を両立するやり手、光山晴美を演じる壇れいの役どころは、まさに由紀子が目指すべきひとつの選択肢として示されているのは、面白いところである。


 女の戦いに終わりはない。この映画のクライマックスは、あくまでも戦いが「終わった」わけではなく、彼女たちにはこれからも「半分ブルー」な人生との戦いが待っている(事実、孝子の話には明快な結末は示されない)。けれどももう半分の「ピンク」な部分、女性の持っている「少女」の部分を忘れなければ、きっと大丈夫。この映画は、そう締めくくる。 
 女の人生は、時に、オトコが預かり知らぬところで、相当に「ハードボイルド」であるのかも、と思わされた映画である。大好き。(★★★★)


 あと余録。終盤で小坂容子(吉瀬美智子)が見せた、ある反応に爆笑しつつ、キュンってなった。個人的に、この映画のベストシーン。

*1:向井理は強気なイケメン役よりも、こういうちょっと冴えない系の役を演じた方が可愛くていいね。