虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「クレイジーホース・パリ/夜の宝石たち」

toshi202012-07-06

原題:Crazy Horse
監督:フレデリック・ワイズマン



 この映画はあえぎ声から始まる。そして、大スクリーンでアップで露わになる、女性のちち、しり、ふともも。


 布面積の少ない衣装、股間には前貼り、何より美しい肢体のボディライン。そして、そのラインをより計算された照明が際だたせる。選りすぐりの肉体を持つ女性たちが、全裸に限りなく近い衣装で、セクシーに歌い、統制のとれたパフォーマンスを魅せる、魅惑のステージがそこにあった。
 「クレイジーホース」。パリで1951年創業の老舗ナイトクラブである。


 御年82歳のドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン監督が、「クレイジーホース」を追いかけて、10年の間カメラを回し、1年かけて編集した新作は、完成された「旧作」パフォーマンスを日常的にこなす傍ら、その合間を縫って作り上げられる新作パフォーマンス「DESIR」が完成するまでの、「クレイジーホース」の演出家、総支配人、衣装係、ダンサー達の舞台裏や、ダンサーの着替えやメイクアップの様子、幕間で談笑するダンサーたちの一コマなどを挟みつつ、彼女たちの完成されたステージを、たっぷりとフィルムに焼き付けている。そんな魅惑のドキュメンタリー映画である。


 ただの「エロティックな見世物」では終わらない。「クレイジー・ホース」のステージは芸術である、と演出家のフィリップ・ドゥクフレは力説する。そしてそれを裏打ちするように、スクリーンに映し出されるパフォーマンスはエロいけれども卑猥ではない。
 女性の力強さ、そして完成されたボディラインを見事に生かしたいくつものパフォーマンスは、まさに「美しい」の一言。50年以上の伝統と、それにあぐらをかくことのない、才能あるスタッフたちによる革新が生み出した「美」の極致がそこにある。


 無論、10年間カメラを回した中でも選りすぐりのパフォーマンスを切り取っているであろうから、演出家にとって不本意なパフォーマンスの日もあるようで、新作についてのスタッフ会議の中で演出家が総支配人にひたすらスタッフのミスがどうの照明がどうのカーテンがどうのとグチった挙げ句、「当分店休もうぜ。俺、芸術作ってるんだからさあ。休暇くれないといいもんなんて作れないよ。」とのたまう、微笑ましいシーンもある。
 無論、総支配人はひたすらその要求をはねつけつつ、演出家のやる気を如何に出すかに注意を払いつつ、会議は熱を帯びていくのである。芸術を生んでいるというプライドとプロフェッショナルとしての葛藤、そして、旧作に負けない新作を生み出す苦しみ。その中からひとつのステージが生まれてくる。


 艶めかしく、そして洗練された演出によって、画面せましと、美しくちちしりふとももがゆれる。
 その様はまさに眼福という他はない。


 そんな「クレイジーホース」のダンサー達のオーディションの様子も、この映画は押さえている。彼らが重視するのはやはり「ボディライン」。美しい肢体あってこそのステージ。ダンサーや歌手としての力量よりも、身体の美しさが選ぶポイントになる。
 大きすぎず、小さすぎない、形の美しい乳房に、きゅっと丸みを帯びたお尻が選ばれるポイント。そこに演出家やスタッフの好みも加味されてくる。オーディション候補を並ばせつつ、「彼女短足じゃね?(笑)」とか「あたし、彼女は好みじゃないわ。」とか「でも尻はいい形してるぜ。」とかいうスタッフの会話をしっかり録音していて、そのやり取りがやたら面白い。


 このような苦闘とともに営々と作られてきた、いくつもの美しいパフォーマンスを、この映画は大スクリーンで存分に堪能できる、そんな魅惑の2時間15分。ドキュメンタリーでありながら、エンターテイメント映画としても存分に楽しめる、磨き上げられた「ちちしりふともも」映画である。大好き。(★★★★☆)