虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「青いソラ白い雲」

toshi202012-04-25

監督:金子修介



 人間というものは、日常の中で人を見て、人を判断している。人は日常の中でその「役割」を「演じて」いるように、その「顔」は容易に崩れない。だが、人は時としてなにかの拍子に、ふいに別の顔を見せたりもする。例えば、そう、「非日常」な事態に直面した、その時などに。
 「日常の中にある顔」、そして「それとは違う顔」は、どちらが本当の顔なのだろうか。



あの頃映画 「顔」 [DVD]

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 本作は、「東日本大震災」をモチーフにした、金子修介監督の新作である。
 しかしながら、この映画は重いテーマを大上段に構えた映画ではなく、震災によって人生を巡る状況が一変した少女と一匹の犬が、昔の自分には見えなかった「セカイ」を発見していく、という「コメディー」である。
 この映画は、2010年のクリスマスパーティから始まる。この時、主人公のリエ(森星)は人より少し裕福な家庭に育ち、そこそこ気位の高い、読者モデルなどをやるような女子高生であった。そこから見える景色は、かっこいい父親、そこそこ仲のいい友達、惚れた弱みから自分に従順なカレシ。これから先、なにも変わらない、庶民よりちょっといい暮らしが出来るだけのお嬢様の生活が見て取れる。
 だが、継父である父親と、生みの親である母親がバレンタインデーに離婚し、リエは母親が引っ越したアメリカに留学することになり、彼氏と別れてアメリカへと渡る。
 しかし、2011年3月11日、東日本大震災が起こり、リエは父親や友達の安否が気になり、急遽日本に帰国する。そこで彼女は、自分を巡る状況が、震災によって激変した現実と向き合うことになる。


 この映画は震災によって「絆」だの「つながろう」だのの「お題目」の中にある、震災時の空気を切り取りながら、そこにある欺瞞に対して「皮肉」を加えている。人は所詮、上っ面などで「つながり」を持ったとしても、そこに「絆」など生まれはしない、という視線を物語に込める。
 父親の会社の経営は悪化し、父親は逮捕され、家は差し押さえを受け、クレジットカードは止められて、アメリカへと帰るためのチケットはだまし取られた。ボランティアに目覚めた元彼氏に押しつけられた被災犬とともに、ちょっとだけ裕福な暮らしから、ホームレス同然に、被災直後の東京に放り出されたリエは、「助け合わなきゃ」などとイイながら、適当に面倒ゴトを押しつけたり、人を騙そうとしたりする人間に、酷い目に遭わされたりもする。
 そんな中、アーティスとしてレコード会社からデビューしている「ハズ」なのに、ストリートミュージシャンとして路上で歌っている友人の梓(村田唯)とと再会したリエは、彼女の住んでいる家へと転がり込む。そこでリエは、音楽プロデューサーと名乗る、梓の兄の健人(大沢樹生)と知り合い、3人は一つ屋根の下で共同生活をすることになる。


 世間知らずで不器用なリエは、一時期読者モデルとしてちょっと有名だったことから、モデルの仕事を探すようになるが、読モ時代に出来た軽いプライドが吹っ飛ぶような、スーパーのチラシのモデルやら、中古車販売会社のキャンギャルという仕事を始めるが、それすら思うようにはうまくいかない。
 そんな時、励ましてくれる健人にリエは惹かれるようになるが、健人と梓には、リエの知らない重大な秘密があった。


 さらに、元の家の持ち主を名乗る女性や、健人を見守る男の登場によって、住人たちの秘密が少しずつ明らかになっていく。


 ただの「他人」がただ、「暮らす」だけでは「絆」は生まれない。「上っ面」な関係の先にある、互いの「真実」に触れることで、人は初めて、「絆」が生まれ始める。
 映画冒頭のクリスマスパーティーは、今にして思えば、上っ面の家族、上っ面の恋人、上っ面の友達関係だったことを、リエは知る。人にはそれぞれ「人生」があり、それぞれに「真実」を抱えてる。「非日常」はその「上っ面」を引っぺがし、それぞれの「別の顔」をさらけ出す。
 それはまさに、震災以後の「日本」の状況とも、確実にリンクする。


 コメディとしての演出力がちょーーーっと安い感じはあるものの、震災直後の「今」の空気を「真空パック」する「娯楽映画」を、こんなに早く撮り上げてしまった金子監督の行動力には、無条件で頭が下がるし、しかも、「上っ面」の先にある「人生」の「真実」への、「正しい想像力」と「敬意」を喚起する人間賛歌として、見事に収束する脚本が、特に素晴らしい映画であると思いました。
 関東では新宿1館のみで27日に上映が終了、関西での上映予定すらなし、という状況らしいのですが、なんとか、上映館数を増やして欲しい、「今」を描いた娯楽映画だと思います。(★★★★)


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