虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「テルマエ・ロマエ」

toshi202012-05-01

監督 武内英樹
脚本 武藤将吾
原作 ヤマザキマリ


 いやー面白かったね。面白かった。


テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)


 原作漫画は、言わずと知れた大ヒット漫画であり、生粋のローマ人である風呂技師のルシウスが主人公であるにも関わらず、主演が阿部寛で、監督が「のだめカンタービレ」のドラマ版及び劇場版を演出した武内監督という事で、(注:じつはあたくし、感想書かなかったけど「のだめ」はドラマ版を見た上で劇場版完結編の2作もきっちり見てたりする)なんとなく、方向性は見えてきた。日本人役者をあえてヨーロッパ人に見立てて、日本語で外国語パートもやっつけようというアイデアである。


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 なにせ武内監督は、ドラマ版「のだめカンタービレ」で伝説的な指揮者の役に竹中直人をつけたり、のだめのヨーロッパでの学友にベッキーウエンツ瑛士をつけたり、という無茶を試みていて、それはドラマ版では「悪のり」として許容出来たのだけど、「のだめ」映画版で現地ロケして撮ったヨーロッパパートでは、本場の人間をキャスティングできる分、竹中直人や外国人役日本人キャストが余計に浮き上がってしまう、という皮肉な結果になっていた。
 「のだめ」映画版はそのキャストの「嘘くささ」を、「現地ロケ」の風景、及び「本物のオーケストラ音楽」と「映画館の音響」の力でドラマを補強していたのだけれど、本作において、「日本人キャスト」による古代ローマ人役は不安材料でしかない。
 

 しかし、映画を見て、その心配は杞憂であったと知った。


 まず、(イタリアの大予算ドラマが)チネチッタに作り上げた(ものをタイミング良く安くレンタルした)巨大セットと、現地でやとった大量のエキストラたちの中にまぎれても、阿部寛の顔面力及び存在感が、抜きんでて高かったことである。
 その「古代ローマ」パートにおいて、阿部寛自前の顔面力と存在感で「阿部寛古代ローマ人」という公式が成り立たせたところで、そこから繰り返し挟まれる、原作でもおなじみ、古代ローマの風呂技師・ルシウスが現代日本の風呂(及びトイレ)文化に次々と触れていき、そのたびにカルチャーショックを受ける、という「シチュエーションコント」を挿入することで、古代ローマからのギャップで、すんなりと笑いへと導かれるのである。しかも、この場面がクオリティがハンパなく高い。心のナレーションつきでリアクション芸を披露する阿部ちゃんの面白さは、巷にあるコント系お笑いコンテストに出たら、それだけで優勝するレベル。


 もうひとつ「上手いな」と思ったのは、映画を「現代日本」の「平たい顔族*1」の風呂技術からの影響で、「ローマ帝国」において技師として名声を得ていくルシウスの、風呂技師としてのアイデンティティを映画の物語の中核に据えるかたちで脚色した点である。
 その「古代ローマ」のドラマに「現代日本」から参戦するのが、「THE 日本人顔女優」上戸彩である。彼女の役は、漫画家志望の派遣社員だったけど、派遣社員と投稿漫画を描いての二重生活によって徹夜続きで、結果として勤務怠慢としてクビになってしまい、実家の温泉宿に戻ってきた「平たい顔族」の娘役で、古代ローマから現代日本に飛ばされてくるルシウスと不思議な縁で結ばれていて、やがて彼女は「古代ローマ人」ルシウスに惹かれていき、必死で古代ローマの勉強をした挙げ句、ラテン語まで習得してしまう。そして彼女は、ひょんなことから、ルシウスのいる古代ローマへと飛ばされてしまう。
 そこから「古代ローマ」パートのルシウスのドラマに、彼女(及び一部温泉宿の人々)が介入してくるのだが、カネと手間暇かった(レンタル)古代ローマのセットに迷い込んだ「ザ・日本人」の「上戸彩」は、まさに「異邦人」として画面に存在していて、「現代日本」の方が「異世界」である、という逆転の見立てを観客に違和感なく受け入れさせることに成功している。
 彼女は風呂技師として名声をルシウスが獲得したことで、結果、歴史に重大な「変化」が訪れ始めていることを、ルシウスに示唆する。


 そして、ルシウスは、古代ローマ帝国及び歴史を「あるべき方向」へと向かわせるための、風呂技師としての闘いを始めることになるのである。


 大ヒット原作漫画を叩き台としながらも、古代ローマセットに映画としてのリッチさも感じながら、現代日本を舞台にした「日本映画」でもあり、コメディとしても何も考えずに笑え、そして映画としてのドラマ性まで兼ね備えるという、日本映画としては久々に贅沢な娯楽映画体験ができる見事な成果を獲得していて、これは漫画原作の映画としては大成功作品と言って差し支えないと思う。大変満足して映画館を後に出来ました。大好き。(★★★★)

*1:ルシウスが命名した「日本人」の蔑称(奴隷と思っている為)。