虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「相棒 劇場版III 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」

監督 和泉聖治
脚本 輿水泰弘


 人気ドラマ「相棒」の正式ナンバリング劇場版第3作。



 小学生の頃、家に帰ると時代劇の再放送がやっていてよく見ていた。「水戸黄門」「大岡越前」「江戸を斬る」などを僕は家に帰ると食い入るように見ているような子供だった。
 「大岡越前」を毎日のように見ていた頃、そこに出ていた同心役の大阪志郎さんの訃報に接し、子供心にショックを受けていた私は、小学校で「最近亡くなった俳優さん」と先生が言った時に、思わず手を上げて「大阪志郎さん!」と答えて、「誰や?」となったことがある。(正解は石原裕次郎だった。)
 そのくらい、夕方の時間帯の再放送を制するドラマは影響力があると思うのである。


 2014年現在、それに代わる存在が「相棒」である。夕方の時間帯、東京では必ず「相棒」傑作選が流れている。


 あるバラエティ番組で小学生女子が「相棒」の脇役である、コワモテの捜査一課の刑事、「イタミン」こと伊丹憲一にハマり込んでいる、という話題をやっていたが、その子の気持ちがよくわかる。家に帰ればそこにいる。そんな存在には、より親近感を覚えるのは道理だ。
 私が「劇場版」第一作を見るまできちんとドラマ本編を見たことなかったほど、一昔前は知る人ぞ知るドラマシリーズだった「相棒」は、今は一般の大人はおろか、小学生の気持ちまで捉えるほどに、裾野が広がりつつあるわけである。


 しかし、TBS時代劇と同じであり続ける訳にはいかないのは、現代を舞台にする刑事ドラマの宿命なのかも知れない。
 「相棒」というドラマはある種マンネリという名の「定型」とそれを崩す「革新」の心意気の狭間で揺れるドラマと言える。だから、「相棒」という完成された「定型」の中に、新たな素材を乗せなければならない。常に新たな素材と向き合わなければならない、ということでもあるだろう。


 「相棒」の舞台は基本、主役である「特命係」の活動範囲が「東京都内」に限定されるため、実は映画的スケールを取るのがムズカシイ。
 第1作が東京マラソン、第2作が警視庁と警察庁のいざこざ、と回を重ねるほどにより舞台が限定的になっていっており、「映画らしさ」という点においてどうしても小さく小さくなっていくきらいはあった。


 元自衛官たちによって作られ、小笠原諸島にある島に拠点を置く民兵組織がいて、そこで起こった「死亡事故」を調査する名目で、その島で行われている兵器開発の疑惑を暴くために特命係がその島に乗り込まれる、というお話。
 警視庁の刑事として動ける範囲は「東京都内」である、という「相棒」の縛りを逆手に取ったストーリー設定はなるほどとは思うし、東京からはるか離れた離島をロケーションするという、映画としてのスケールも申し分ない舞台設定とあって、期待を抱かせるのであるが、その気負いが、やや空回りしたところも感じられるのがムズカシイところである。


 なにせこの映画の裏テーマが「国防と愛国心」という、非常に触れづらい素材を果敢に取り扱っていて、その心意気は買うのだが、それと「相棒」という「定型」と今回の「テーマ」の食い合わせは、正直かなり悪い。


 この映画を見て、「左巻き」映画だと感じる人も多数いるとは思うのだが、この映画で語られる「国防」についてのやりとりがまったくの平行線なのは杉下右京というキャラクターに負うところが大きい。そもそも、どんな理由であれ「殺人」は許されないという、職業倫理を持つ杉下右京が、「軍隊」というものに対してどういう感情を持っているか、ということに関して言えば推して知るべしである。


 とは言え、次回作があるなら警察組織のごたごたの話よりこういう話をまた作って欲しいと思う。マンネリを越えようとする攻めの姿勢をこそ、支持するものである。(★★★)

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