虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「続・深夜食堂」

toshi202016-11-07

監督:松岡錠司
原作:安倍夜郎
脚本:真辺克彦/小嶋健作/松岡錠司




ぜいご

ぜいご



 いつもの歌が流れ、少しずつ変わりゆく新宿が映し出される。変わりゆく街を変わらないアングルで撮り続けるオープニングがほっとさせる。いつものように豚汁を作り、開店準備をするマスター。
 ドラマ版も映画版も、始まりは変わらない。本作でも変わらない。VODサービスのNETFLIXで配信される全10話のドラマの新シリーズとともに、劇場にも「めしや」が帰ってきた。
 ドラマ「深夜食堂」の劇場版第2弾である。


 ドラマ版の設定を改めて説明すると、新宿の裏通りにある「メニュー以外でも出来るものなら何でもつくる」マスター(小林薫)が営む深夜にしか開かない「めしや」、人呼んで「深夜食堂」。そこで頼まれた「メニュー」と頼んだ「客」についてのドラマを描いた、一話完結形式の人気シリーズである。



【関連】前作の感想。
君を待ってる。「映画 深夜食堂」 - 虚馬ダイアリー


 構成もほぼ前作と同じ。1本の映画につき三幕。ドラマと語り口は変わらない。めしやで起きた人間模様を描き出すその語り口は、ドラマシリーズと変わらない。


 第1幕「焼肉定食」はストレス発散のために、休日喪服で街に出かける女性編集者(河井青葉)が出会う、死と恋を巡る物語。
 第2幕「鍋焼きうどん」は近所のそば屋を営む女主人(キムラ緑子)と「鍋焼きうどん」を頼む息子(池松壮亮)を巡る、親離れ子離れを巡る人情噺。
 第3幕「豚汁定食」は博多から詐欺に欺されて上京したおばあさん(渡辺美佐子)の、ちょっとした冒険と東京に残したある未練を描く物語である。


 しかし、この劇場版シリーズは何も変わらないにもかかわらず、テレビシリーズとは違う独特の滋味がある。それはドラマという「お約束事」から軽やかに逃れている点にあるのではないか、と思う。


 時の流れというのは一定だが人の記憶は一定ではない。起きる出来事の大小も様々だ。ドラマシリーズというのは、ひとつひとつの出来事をあくまでも「枠」を30分として一定で描いているが、印象に残る残らないというのは起きる出来事によって様々なわけである。そも一定というのは、テレビドラマの「都合」である。言ってみれば型にはまらざるを得ないのが、一話完結形式のテレビドラマの限界ではある。
 映画版でのエピソードは108分でドラマ版に即した三幕構成だが、その大きさは不揃いだ。そして語られるエピソードは「めしや」の客のエピソードという以外のつながりはあまりない。
 そしてエピソードは「春夏秋冬」で季節通りに流れていく。だから「ドラマと同じ」に見えて、映画の方がドラマよりも「自由」に見えるのだ。



 そしてタイトルだ。「続」と来た。そう、「続」なのである。


 前作の第2話で、めしやに転がり込んで2階に住まわせた唯一の女(意味深)、多部未華子演じるみちるちゃんが、第3話で見事、再登場を果たす。関わり方もほぼ準主役である。
 いやあ、嬉しい。再登場は予告編で知ってたけど、ここまでエピソードできっちり絡んでくれるとは。これで名実ともに彼女は劇場版専用ヒロインである(断言)。
 しかし、本当に松岡錠司監督は多部未華子ちゃんを美しく撮ってくれる。ファンとして嬉しくなってしまう。ホントさあ、女神かと思うくらい可愛い。多部ちゃんの撮り方を本当に心得ているんだよなあ。どう撮れば美しいかをちゃんとわかってる。眼福であります。ありがとうございます。ありがとうございます。


 ドラマという「枠」でのシリーズを成功させながら、劇場版でより「自由」にエピソードを描き出し、のびのびと「映画」にしてしまう松岡錠司監督の軽やかな手際は相変わらず健在である。
 前作でもそうだが、本作ではよりその手際は見事である。「豚汁定食」の物語などは、本来なら映画で描くほどの大仰な物語ではない。しかし、ドラマでの積み重ねを得た後に、豚汁定食をすする渡辺美佐子おばあちゃんを見ていて、ふいに涙が出てしまうのは、このシリーズの恐ろしいところだ。
 泣かせなようとするような場面ではない。だが、ドラマシリーズを見ているものならわかっている。「豚汁定食」は、「メニュー以外の料理もつくる」めしやの、「メニューに書いてある料理」なのだ。
 「メニューに書いてない」さまざまな料理を作ってきたマスターが出す、「書いてあるメニュー」の意味。それがさりげなく明らかになる。


 ドラマ版を見ていない人ももちろん楽しめるが、ドラマを見ているとより一層楽しい。ドラマでおなじみの常連客たちもにぎやかに顔をそろえる。彼らの物語は、全部で4シリーズあるドラマ版でチェックしつつ、劇場版ではよりゆったりと、「映画仕様」のドラマとヒロインであなたのお越しをお待ちしております。もちろん、大好き。(★★★★☆)