虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「伊集院光のばらえてぃー だるまさんが動いたらみんなバラバラの巻」

toshi202012-02-28

企画・構成・出演;伊集院光


「真の目的とは?」
「君達が安全かつ真剣に苦しみもがく姿を僕が見て楽しむことだ。」
冨樫義博「レベルE」より)


 そもそも。人間関係というものは、ギリギリの均衡の上で成り立っている。昨日好き合っていた者同士が、なにかのきっかけで憎しみ合う。去年愛し合ってた者同士が、ささいなきっかけから、離ればなれになってしまう。そんな事が、今日も日本のどこかで起こってる。
 そして去年の震災は、さらにこの日本という国家において、実は危うい均衡の上で成り立っていた「神話」をまさに「押し流した」。


 さて。
 民放テレビでは穏和なインテリ芸人として一定の信頼を得、深夜ラジオでは独自のトークラジオパーソナリティとして絶大な人気を誇るタレント、伊集院光が持つもうひとつの顔が、バラエティ番組と名を借りた「人間観察番組」を作るクリエイターとしての顔である。
 ジャンケンをするまでに3時間の猶予を設けて、色々な仕掛けをほどこすことで若手芸人たちの人間関係が崩壊した「伊集院光のばんぐみ」の「真剣ジャンケン」や、草野球の連係プレーを9イニング繰り返してダブルプレー完成を目指すゲームの中に、「スパイ」の存在とその排除という要素を設けることで衝撃の結末を迎えた傑作企画「伊集院光のしんばんぐみ」の「夢にときめけ仲間を疑え 草野球芸人対抗連係プレー選手権」などを見てもらえば、伊集院光という男のもうひとつの「側面」、「疑心暗鬼によって人間関係が崩壊していく様を見てほくそ笑む悪魔の顔」が見えてくるはずである。


伊集院光のばんぐみのでぃーぶいでぃー vol.1 [DVD]

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 そして、そんな伊集院光の「地上波テレビでは流せないバラエティ番組」の新シリーズ「伊集院光のばらえてぃ」第1弾が、本作である。
 本作で伊集院光が召集したのは、伊集院と親しい若手(または中堅)お笑い芸人、穏和な若手アイドル、しっかり者のグラビアアイドルなど計9人の男女である。彼らには赤だるまが5つずつ、白ダルマがひとつ渡され、用意された個室でそのだるま5個とともに待機。ゲーム中は基本部屋の外に出てはいけないが、メンバー2人まで呼び出して情報交換ができる部屋が用意されていて、白だるまを使うことで使用可能になる。渡された赤だるまは1イニングごとに3コまで他人に「匿名(ただしメッセージカードを書くのが義務)」で押しつけることが出来る。その赤だるまは伊集院光がすべて運搬する。全8イニングの中で、その赤だるまを押し付け合い、最後にその数が多かった順に3名が、罰ゲームとして次回の番組収録には呼ばれない、というものである。
 ただし。彼らには救済の道が用意されている。渡された5個の赤だるまを彼ら全員がまったく動かさないで、「全員赤だるま5個」で全イニングを経過した場合、彼ら全員が罰ゲームを逃れることが出来る。


 全員の望みはただひとつ。「5コのだるまを動かさない」で全員勝ち上がり、である。ただし、そのみんなの「望み」を「利用」してだるまを動かす人間が、いないとも限らない、という「疑心暗鬼」のタネは残してある。ここが、この企画のミソである。


 つまり、この企画の眼目は、「9人の男女の信頼関係はどんな状況におかれても保ちうるか」ということである。
 初顔合わせのメンバーがいながらもそれなりに意気投合し、「バーベキューに行こう」などの明るい話が持ち上がるくらいに打ち解けたメンバーたちは、お互いにそれなりの信頼関係を築いている。なので、序盤は何事もなく過ぎ去っていくのだが、この後、伊集院光が用意したある「仕掛け」によって、人間関係崩壊への「一滴」が投入される。
 人間がどんな状況にあっても、すべての利害関係を越えて信頼しあえたならば。この世はどんなに平和だろうか。しかし、そうとは限らない。伊集院光はそんな人間関係の「裏」を「ゲーム」を通して暴き出そうとする。



 まさに人間の絆というものが、いや、国、または世界全体のほんのささいなイレギュラーで崩壊していくシミュレーションと化している。そして、そういう場に身を置いてこそ、それぞれの人間観や隠された人間性が一気にあぶりだされる。
 地球のひと揺れが、原発神話を終焉させ、その神話の終わりが、「放射能」という新たな疑心暗鬼の種によって踊らされる人々の狂騒をテレビやネットを通じて見るにつけ、本作が見せる「信頼関係崩壊劇」はまさに、今の日本のもうひとつのリアルなのではないか、と思う。
 そういう意味ではまさに、指にささくれができた程度に嫌な気持ちになること請け合いである。おすすめ。