虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「逆転裁判」

toshi202012-02-12

監督:三池崇史
脚本:飯田武/大口幸子


逆転裁判 蘇る逆転 NEW Best Price!2000

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 「逆転裁判」。なんとシンプルで美しい響きのタイトルか。
 俺がどんだけこの映画の原作であるゲームが好きか、というと。ゲームボーイアドバンスで発売された第1作目を購入してからこっち、「2」「3」ニンテンドーDS版「蘇る逆転」「2」「3」「4」スピンオフ作品「逆転検事」「逆転検事2」さらにWiiダウンロード版、iOS版、ケータイ版など、続編に、番外編、さらに移植版が出るたびにいちいち全クリアしたりする程度です。ええ。(大ファンだなおい)
 そんな程度にファンな私であるから、当然、映画界最強の職人監督にして鬼才・三池崇史によって映画化なんてされようものなら何を差し置いても見る、わけ、です。



 結論から言えば。「逆転裁判」というゲームを「1」だけでもクリアしてから見た方が、面白い。当たり前っちゃ当たり前なんだけど物語としてやや説明不足な点は出てくるし、三池監督は原作にきちんとリスペクトを捧げていてきちんとキャラクターを再現しているんだけど、それはつまりコスプレ劇を実写でやってる、という側面もあるわけでね。
 本作は「逆転裁判」第1作目の映画化で、全4エピソード*1ある物語全体を貫く「DL6号事件」という事件にまつわる第2話「綾里千尋殺人事件」第4話「ひょうたん湖弁護士殺人事件」のエピソードを中心に物語を構成している。だので、シリーズ屈指の人気エピソードである「トノサマンによるアクダイカーン殺人事件」は思い切り端折られている。
 それは結果的にはイイ方向に出たと思う。いくら忠実に映画化してもダイジェストになるのでは意味がないから、その点ではきちんとツボを押さえた脚色になってると思う。


 さて。
 「逆転裁判」というゲームの根幹を為しているのは「序審法廷制度」というシステム。犯罪が急増化の一途を辿り、迅速に裁判を薦めるために、「最長3日」をもって判決を出す制度。この制度、弁護側に比べて、検事が圧倒的に有利に公判を進めることができる。
 この悪魔的ともいえる法廷で、新人弁護士・成歩堂龍一成宮寛貴)は依頼人のために、天才検事・御剣 怜侍(斉藤工)や40年間無敗の最強検事・狩魔豪石橋凌)相手に、3日のうちに無罪を勝ち取らなければならない。


 もともとはゲームで裁判をゲームとして取り込み、物語の構成やテンポアップの方便として出てきた「序審法廷制度」を、画面の彩度を落として、全体として陰の多い世界を生み出すものとして物語の中心に据えており、原作を知る人間からすれば、「なるほど、こうくるのか。」と思うに違いない。もともとゲームのノリはシリアスな面も多々あるが、キャラクターの掛け合いなんかはコミカルなものが多く、暗さはあまりないのだが、三池監督は序審法廷制度という理不尽な司法制度を叩き台に「逆転裁判」を「ディストピア」な世界の物語として構築しなおしている。
 無実かもしれない容疑者たちが、迅速化、効率化の名の下に検事たちの手で次々と刑務所に送られたり、時には死刑にもなる世界で、戦う弁護士たちは過酷な世界に生きている。それゆえに、時に依頼人の人生を踏みにじるような検事や弁護士がいたりもする・・・という側面を、映画はあぶりだしていく。


 例えて言うなら「ONE PIECE」の世界を「原哲夫」の作画でアニメ化したような違和感は当然出てくるし、「トノサマン事件」で一気にくだける主人公の助手にしてヒロイン、綾里真宵も終始、「姉を亡くした悲劇の少女」としてのスクリーンに存在しつづけるので、ファンとしては「真宵たんの魅力半減だよう」とも思うのだけれど、この違いを楽しめないと上映時間中苦痛かもわからない。
 ゲームファンにしてみたら「ええ?」って思う演出もある。オープニングの「綾里舞子(綾里千尋綾里真宵の母)による霊媒のシーンは、ゲームの霊媒システム『霊の肉体を自らの身体で再現』の根本を否定しているし、(普通の「霊媒」だと「逆転裁判2」「逆転裁判3」の映画化は不可能)、ゲームに登場する警察のマスコットキャラクター「タイホくん」が着ぐるみ出てくるんだけど、なぜかイトノコ刑事の舎弟みたいなことをしていて「それはどうなの?」と思ったりもする。


 それでも映画化の意義はあったな、と思ったのは、DL6号事件及び序審法廷システムの。影の被害者である、とある人物の描写に多くの時間を割いたことだ。この辺はおそらく脚色を携わる「飯田武櫻井武晴氏の別ペンネーム)」氏の判断なのだと思うけれど、一人の善良な人間が「真犯人」に利用されて、犯罪に荷担するまでを、克明に描き出す。
 「検事」には「検事」の、「弁護士」には「弁護士」の正義がある。双方の正義がきちんとぶつかり合うことで、法廷は「真実」への扉を開く。しかし、その正義を自分の人生の「踏み台」にしたり、自らの「正義」だけを重んじて相手の「正義」を軽んじたならば。法廷は多くの悲劇を生み出していく。


 「正義」は何を生み出すのか。「弁護士」や「検事」は誰のためにあるのか。やがてそれは、ゲーム「逆転裁判」シリーズを貫くテーマとして描かれるようになる。「弁護士」「検事」が自らの正義の枠から足を踏み外したとき、三池監督の作り上げた、「陰鬱な逆転裁判世界」の中であるからこそ、「正義」に踏みつぶされた悲劇の人生をより濃厚に描き出せたとも言える。
 ゲームをプレイした上で、この話を見るとこの映画はいい意味で、ゲームの世界観を肉付けしてくれていると思う。


 映画としては歪ではあるし、ゲーム未プレイの人が見たら「・・・なんだこれ?」と思う映画ではある(笑)のだけれど、とりあえずゲームをプレイしていただいて、その上で、ゲーム界の天才「巧舟」の世界観を映画界の異才「三池崇史」が一から作り出すとこうなる!という、映画とゲームの違いを楽しみながら見る分には、なかなか面白い映画だと思いました。(★★★)


 以下、ファン目線からの雑感。完全に蛇足なので読まなくていいです。







 成宮寛貴演じるナルホドくんは良かった。行き詰まって困ってる姿がちゃんとナルホドくんしてた。斉藤工演じるミツルギは悪くないけどちょっと線が細い感じがするのが残念。壇れい演じるチヒロさんは美人だと思うけど、ちょっとオバさんすg・・・げふんげふふふん。もうちょい若い子がやっても良かった気はする。桐谷美玲演じるマヨイちゃんは、可愛いけどシリアス演技が続くとちょっと目がきつくなるのがなー。もっと朗らかに笑う彼女を見たかった。大東駿介演じるイトノコ刑事はゲーム版におけるコメディリリーフ的な側面が完全に消失してるんだけど、意外と悪くなかった。石橋凌演じるカルマ検事は石橋凌そのものだったけど、まあ、これはこれでいいよねという感じ。
 キャラクターとしてうまく再現されていたなーと思ったのは、柄本明演じる裁判長と、中尾明慶演じる矢張政志柄本明は素で演じてるうえに髪型はまったく違うのに、ちゃんと裁判長に見えるのが面白かった。あとやっぱり「ボート小屋管理人」を小日向文世さんが演じたのは正解。すごい良かった。

*1:ニンテンドーDS版は番外編付きのなので5エピソード