虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「明日への遺言」

toshi202008-03-03

監督:小泉堯史
脚本:小泉堯史/ロジャー・パルパース



 東京裁判の話、という話と言うだけで、てっきり「東京裁判の不正を糾弾する」などとといういわゆる「インテリが好きそうな政治的問題作系」なのか、と身構えていた分、思いの外まっとうな「映画」だったのは正直嬉しい誤算。悪くなかった。
 この映画はB級戦犯として東京裁判の法廷に立つ岡田資中将という人物をドラマの中心に据え、彼が、自ら裁かれる法廷でどのような境涯で闘い、そして、彼がその法廷で為したことを見つめていく、法廷ドラマである。



 岡田資という人物を俺はよく知らないし、この映画の中のような人物だったのかはわからない。が、それはあまり大きな問題ではないのかもしれない。そういう人物がいたとして、小泉堯史という「性善説」を絵に描いたような作風の人にとって、「戦争」というこの世のカオスを描くことよりも、法廷の中で岡田中将という人となりの中にある「精神性」に寄り添う作劇に徹したのは、判断としてまったく正しい。その正しさこそが、重要なのだと思う。
 そして、個人的には一番の懸念だった藤田まことのキャスティングであるが、意外や意外、これまた悪くない。
 法廷の中で、法廷で自らが極刑で裁かれることを覚悟し、それでも若者たちに未来を託すために、あえて自らの責任の所在を明確にしながら、その行いの正当性、アメリカ軍の非道をもまた誤ることなく詳らかに主張する意志。その高潔で凛とした精神性に至るまでを、あえて飄々とした役柄を得意としながら「借金問題」等私生活での俗な話題に事欠かなかった藤田まことに演じさせることで、「決してきれいなだけの人生は送っていない」という内面を、にじませることに成功している。この辺は小泉監督の計算の外の効果かもしれないけれど。
 まあ、「ふるさと」を部下たちが歌う場面や法廷で赤ちゃんを抱く場面の胡散臭い人情カットはあれど、その法廷での彼の有り様を見て、弁護側どころか、「敵」である相手検事の心をも融かすしていく、というその有り様は、政治的な思惑を超えた、精神性を歌い上げたドラマとしては申し分なく、彼が「判決」を迎えて後言う「本望である」の言葉も、心からの言葉に見えたのは、感動的。


 難しい題材を、政治思想や国家の思惑を超えた人間ドラマにきちんと仕上げた、小泉監督の新境地となる佳作と思います。(★★★☆)