虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「逆転裁判5」

toshi202013-08-02




 う、む。
 4作目まで脚本やディレクションを担当したタクシューこと巧舟が関わらず、スピンオフ「逆転検事」シリーズのスタッフが後を引き継いだ、「逆転裁判」シリーズ待望のナンバリング新作。


クリアしました。


 まずひとつ言えること。スタッフ、よく頑張った。すごいと思う。
 「逆転検事」は「同じ世界観の別の話」という意味において、非常に遊びを作りやすかった作品で、その自由さがイイ方向に転がった作品だと思う。パロディ的な遊びや、「逆転裁判」シリーズ本編では語られなかったキャラクターの二次創作的な掘り下げなど、アプローチとして「逆転裁判」本編の強固な世界観に身体を預けて、その中で世界観を「作り出す」というよりは「広げていく」形で物語を紡いでいた。
 だが、ナンバリング新作はそうはいかない。逆転裁判4作までの物語を引き継ぎながら、同時に新たなる独自の世界観を構築することを迫られる。「逆転裁判」を継ぐ、ということはそういうことだ。


 この新作でスタッフはある方向性をばっさりと捨てている。それは「逆転裁判」新作を「天才・巧舟」作品の模倣にはしない、ということである。商品としての価値を減じず、シリーズが獲得した熱狂的ファンの期待にはできうる限り答え、なおかつ巧舟の生み出す物語に匹敵するカタルシスを、つまりプレイヤーに爪痕を残さなければならない。
 このハードルの高さ、相当なものだ。「商品」としてだけでなく、「作品」としてもファンの心を掴む。その上で新機軸のシステムやキャラクターや背景の3DCG化、アニメーションパートを取り入れるなど新たな演出も意欲的に盛り込む。攻めの姿勢で巧舟の遺産の継承という難題に果敢に挑んでいるのだ。


 そも、「逆転裁判」の物語とは「過去」に囚われた人々の因習、怨嗟、記憶。それらが絡み合って起きた物語が作品ごとに包括されている。
 現在の「圧倒的逆境」を、「ふだんはぼんやりしてるけど、追い詰められるとすごい力を発揮するハッタリ新人弁護士」こと成歩堂龍一が、依頼人の無実を信じて奮闘する法廷エンターテイメントアドベンチャーである。


 成歩堂龍一という主人公のメンタリティというものは、巧舟のキャラクターによるものが大きく、その彼が、ライバル検事・御剣怜侍や、綾里姉妹(成歩堂の師匠・綾里千尋成歩堂の助手で3作目までのメインヒロイン・綾里真宵)、そして自分自身にも絡みついたある事件による過去とトラウマ、綾里家に残る因習と呪い、それを1作・1作断ち切っていくことで「結果」として見えてくる「真実」の物語こそが、「逆転裁判三部作」であり、その圧倒的カタルシスは、今も、ファンの心を捉えて離さない。


 その三部作の続編として作られた「4」では新たなる主人公、王泥喜法介が起用されたのであるが。
 僕は「4」自体は決して嫌いではないし、独特のタクシュー節は健在なので楽しい作品だとは思うのだけれど。「4」における最大の失敗はなにかというと、新作に「成歩堂龍一」を出さなければならない、というカプコン本社の要請に応えながら作っていた巧舟が、結果として「成歩堂龍一」の「対象化」に失敗したからにほかならない。
 つまり、本来ならば「王泥喜法介」単独であったならばそこに、巧舟の新たなる一面を引き出した、本来の意味での、新たなる物語が始まる可能性もあった。だが、結果としては「王泥喜法介の物語」ではなく、「新たなる成歩堂龍一」の物語になってしまった。つまり、三部作とは別物にしきれなかった、ということである。結果として、物語は非常に中途半端な形で収束してしまい、一部ファンの不興を買うことになった。


 以来、シリーズ化の話は完全に長く頓挫したままであり、巧舟は「ゴーストトリック」という新たなる傑作を作り上げたりもしているけれども、「5」を作る流れには至らなかった。


ゴースト トリック NEW Best Price! 2000

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 ひるがえって、新たなるスタッフによって再始動し生まれ変わった「5」はどうなのか。これが、悪くない。本作は巧舟の「作家性」を切り離すことによって初めて「成歩堂龍一」の対象化に成功した作品になったのではないか、と思う。
 いままで、「成歩堂龍一」は「ナルホドくん」と呼ばれてきた。それは三部作のヒロイン・綾里真宵成歩堂龍一を親しみを込めて呼んでいた呼称であり、それは長くファンの中で浸透した成歩堂龍一に対する共通認識だったと思うし、「4」でもそれは変わらなかった気がする。(一部ファンは「ダルほどくん」と呼んでいたけど)


 ところが。今回はというと。成歩堂龍一は常に「ナルホドさん」なのだ。
 「5」から登場する、新たなる女性キャラクター希月心音(きづき・ここね/以下「ココネ」)は、心理学を武器に十代にして弁護士になった、早熟天才型なのだが、過去に法廷でのトラウマを抱えていて、心理的に追い込まれると弱い、という一面を持つ、実質、「第3の主人公兼ヒロイン」である。言ってみれば「新人時代の綾里千尋」に近いポジションのキャラであり、ココネの上司で第1話でサポートに当たる成歩堂龍一は言ってみれば、「新人・千尋」が登場する「3」第1話の星影宇宙ノ介*1ポジションと言えるだろう。


在りし日の星影宇宙ノ介さん近影


 言わば「ハッタリ」と「依頼人を信じる心」、「2」で見いだした「弁護士としての矜持」を武器に、築き上げた伝説がもはや法曹界で語り継がれているという彼は「4」の最後で弁護士資格再取得を示唆し、本作で無事に完全復帰したわけである。
 だが、今回は成歩堂龍一の物語たりえない。彼の日常はもはや見えることはなく、常にぱりっとしたスーツに身を包むフォーマルな彼がそこにいる。彼はもはやナルホドくんではなく、ナルホドさんなのだ。少なくともココネやオドロキくんの前では「信頼できる上司」という公私の「公」の顔しか見せなくなる。


 そして物語は、主に第3の主人公・ココネ、そして王泥喜の目線で紡がれていくことになる。


 この選択は、結果的に言えば大正解だった。
 巧舟独特の台詞回しやテンポは早晩真似できるものではないが、新たなるキャラクターを主人公として物語を構築することで、物語の主導権を自分たちの手元に引き寄せることはできる。新人弁護士として奮闘するココネが、まったく違うアプローチで、ナルホドくんが三部作を掛けて獲得した「依頼人を信じる」こと、「弁護士はピンチの時ほどふてぶてしく笑う」強さを獲得していく過程を丁寧に描いている辺りも感心する。


 そして、新たなる「過去の呪縛」が立ち現れた時、「ナルホドさん」は再び立ち上がるのである。そして、彼のライバルだった「あの男」も。


 巧舟という大いなる才能によって築き上げられた物語に最大限の敬意を払いながら、様々なスタッフの愛と情熱の結集によって継承され、やがて迎えるそのクライマックスは、まさに主人公・3人による総力戦となっていく。「成歩堂龍一の物語」はなく。新たなる「3人の弁護士」の物語として生まれ変わった「逆転裁判」。


 細かい不満は色々あったりするのだが、それはともかく、その継承された「逆転」、まずは重畳と言わねばなるまい、と思うのである。新たなるスタッフの覚悟、ファンならば、一度見届けてあげて欲しいとおもう。


逆転裁判5 - 3DS

逆転裁判5 - 3DS


 

*1:注:成歩堂龍一の大師匠に当たる方