虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「スーパー!」

toshi202011-08-23

監督:ジェームズ・ガン
製作:ミランダ・ベイリー、テッド・ホープ
脚本:ジェームズ・ガン

どこの誰でも あこがれてる
きっと君なら なりたいはずさ
わるもの 倒す 正義の味方
君でも いますぐ ヒーローになれる かも(come on!
(「君は人のためにレンタヒーローになれるか」より」


 いや、昔メガドライブで「レンタヒーロー*1というゲームがあったんですよ。
 企業から届いたスーパースーツをうっかり届けられてその存在を知ってしまった普通の少年である主人公が、賃貸されたスーツで使命を果たして報酬を得て、企業に賃貸料やスーツの維持費を払うという、身も蓋もない自転車操業ヒーロー稼業RPGが。初めはややおちゃらけたノリで始まるんだけれど、やがてヒーローとしての仕事が本格化すると、徐々にシリアスになっていく。
 で、主人公はの他に、普段は冴えないサラリーマンだけど、スーパースーツをレンタルしてヒーロー稼業している「ウルサラマン」というキャラクターが出てくるの。主人公のライバルヒーローとして活躍するんだけど、後半、彼にはとある試練が待っている。ヒーローになるとはどういうことなのか。一般人が大いなる力を持つとはどういうことなのか。
 ヒーローというものが、善と悪の表裏一体であることを「ウルサラマン」が突きつけてくるんですね。


 この映画見ててなんとなくそのゲームのことを思い出したのは、その「ウルサラマン」とこの映画の主人公が、なんとなくかぶって見えたからかもしれない。


 三十路の冴えない主人公・フランク(レイン・ウィルソン)は何度となく人生で酷い目に遭ってきたが、美しい女性・サラ(リブ・タイラー)と結婚してとともに生活し、今はレストランで働くことで生計を立てている。
 しかし、ある日、サラが一人の男に連れて行かれてしまった。彼に完璧な瞬間がふたつあって、ひとつが犯人が逃げた方向を警官に教えたことで、ひとつが奥さんとの結婚。でも、サラはドラッグでの逮捕歴があり、ドラッグディーラーの男・ジョック(ケビン・ベーコン)に付いていってしまった。一時は、妻を取り戻そうとするが、彼の仲間に返り討ちにされた。
 彼には特殊能力とかスーパースーツは何もない。彼にあるとするならそれは「神への信仰心」である。彼はテレビでスーパーヒーロー物の番組を見たあと、突然「神の啓示」を受けたことで、悪を懲らしめるために「選ばれた者」であると確信し、「神の代行者」として「スーパーヒーロー」になろうとする。


 赤いスーツにレンチを持った、神の代行者(ヒーロー)「クリムゾン・ボルト」が誕生する。
 とにかく犯罪者をまちぶせて、犯罪を犯そうとした瞬間にいきなりレンチで殴りつける、という即物的スタイル。犯罪は未然に防いではいても犯罪を犯す前にボコボコにするため、最初は「コスプレした暴漢」としてテレビで報道されるのだが、やがて、「被害者」に逮捕歴があることがわかると一転、クリムゾン・ボルトの世評が変わってくる。
 ヒーローになるために「リサーチ」をかけたコミックショップの店員である女性・リビー(エレン・ペイジ)が、クリムゾンボルトの正体を見破ったことで、妻を取り戻そうとして悪漢たちから重傷を受けた際、彼女を頼り、結果、彼女もまた彼の相棒になりたがる。「ヒーロー」になり、正義を行う。誰しもがあこがれることである。彼女は、ボルトの相棒「ボルティ」となって、ともに正義を行おうとするのだが。


 主人公は敬虔なキリスト教の信者であり、神の忠実なる下僕は天国へ行ける、というのがキリスト教の教えを元に生まれたヒーローであるが、彼が「暴力」によって犯罪者を裁こうとするスタイルは、次第に彼を「暴力の螺旋」へと引きずりこんでいく。いつか、妻を取り戻すために。銃を買い、武器を自作し、爆弾まで作ってしまう姿は、もはや自警団「ごっこ」のレベルをはるかに超えている。いつしか彼は、躊躇なく人を殺せる人間へと変貌していく。


 神を代行していたはずなのに。正義を行っていたはずなのに。敬虔な男は、社会的にどんどん道を踏み外していく。
 「天の国へと導かれる」ために行っていた「善行」が繰り返されるたび、彼はこの世の「煉獄」へと近づいていく。暴力で解決しようとしたものは、暴力によって報われる。彼の妻を取り戻すための戦いは、その結果、彼が行ってきた「善行」が実は単なる「暴力行為」でしかないことを、彼に突きつける。
 しかし、そのことを自覚したときには、もう遅い。彼は機械的に人を殺す「殺人マシーン」となっている。


 敬虔であることは人を幸せにするだろうか。正義を貫くために暴力はどこまで肯定されるべきか。
 この映画は「ヒーロー」の中にある、選ばれし者としての高揚と狂気を、暴力の螺旋に身を起き続けることで、どこまでも続く地獄の風景を、主人公の痛さと痛みとともに、見事に描ききってみせた。傑作である。(★★★★★)

*1:Wiiバーチャルコンソールでプレイ出来るので、お暇なら是非。