虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ロビン・フッド」

toshi202011-01-02

原題:Robin Hood
監督:リドリー・スコット
原案:ブライアン・ヘルゲランド、イーサン・リーフ、サイラス・ボリス
脚本:ブライアン・ヘルゲランド


「血の約束を交わしたな。」「傷だ。ただの傷だ。」その傷がきっかけで、男は英雄になる運命への道を行く。


 ロビン・フッド。うーむ、ロビン・フッド。正直なことを言うと、イギリスの単純なヒーローもの、という印象が強い。ぶっちゃけ、話もよく知らない。「シャーウッドの森の無法者」「弓の名手」「全身緑色の衣装で下はタイツ」「ケビン・コスナー」・・・という、うすぼんやりな印象しかないまま、劇場へ行って鑑賞した。
 ところが、物語はいきなり、12世紀の十字軍の中の射手に過ぎない、一兵卒の物語から始まる。舞う土埃、飛び交う怒号、リアルな命のやりとり。これはまるで、リドリー・スコット監督がかつて撮った十字軍遠征を舞台にした史劇映画「キングダム・オブ・ヘブン」の続きのようでもある。・・・あれ?ロビン・フッドってこんな話だったっけ?・・・という疑問が一瞬頭をよぎるものの、本意気の映像のチカラによって一気にひきこまれ、その疑問は棚上げされたまま、映画を見続けることになった。


 その男「ロビン・ロングストライド(大股歩きのロビン)」(ラッセル・クロウ)は、十字軍遠征から帰還するリチャード1世率いるイングランド軍に射手として従軍していた。その途上で、イングランド軍はフランス軍との戦闘に突入する。その戦闘のさなか、リチャード1世は戦死。その訃報を伝えるために王冠をイングランドへ届ける任についた騎士・ロバート・ロクスリー卿(ダグラス・ホッジ)は、フランスの王・フィリップの側近でありながら、そのことを隠しながらイングランド重臣になっていたゴドフリー(マーク・ストロング)により、殺されてしまう。戦闘から離脱し、仲間とともにイングランドへ帰ろうとしていたロビンは、ひょんなことから王冠を運ぶ馬と遭遇し、ゴドフリー率いる一団と戦闘に突入。それを退け、ロクスリーのいまわを看取る。その中でロバート卿は、「剣を父の元に届けて欲しい」と頼み、ロビンが承諾すると事切れる。
 ロビンはゴドフリーの鎧や兜をもらいうけ、「ロバート・ロクスリー卿」として、船でイングランドへ帰還し、リチャード1世の母であるアリエノール、王弟・ジョンの前で、王の死を伝える。
 ロビンと仲間たちは、王宮を離れたあとトンズラするつもりだったが、ロビンはロバート卿から託された剣の柄に書かれた「幾度でも立て。子羊が獅子となるまで。」という一節が心にひっかかり、ロバート卿の故郷・ノッティンガムに立ち寄ることを決断する。
 その決断が、彼の運命を変えていくことになる。


 ・・・というように。
 この物語は「大股歩きのロビン」という姓もない一介の兵士ロビンさんが、「ロビン・フッド」になるまでの物語である。


 彼はロバート卿の未亡人であるマリアン(ケイト・ブランシェット)と出会う。マリアンは新婚一週間で夫が十字軍に召集されてから、十年間、老いた義父に代わり、ロクスリーの家を切り盛りしていた。
 ・・・ここから物語は一気にロマコメ風味になってくる。
 ロバートの父親・サー・ウォルターは、なぜかロビンを気に入った様子で、「わしの息子にならんか」と言ってくる。つまり「マリアンの夫になれ」ということである。ロビンはマリアンをじっと見たあと「イイっすよ!」とふたつ返事で快諾(笑)。マリアンは動揺を隠せず、ロビンとマリアンの、互いの距離の探り合いが始まる。
 ケイト・ブランシェットがロマコメ!?という感じもあるが、相手がラッセル・クロウであるせいか、芯の強いマリアンが、男臭い魅力を放つロビンに次第に惹かれていく様子を、意外とチャーミングに描き出しているのが面白い。リドスコ監督、意外とこういうロマンスも撮れるじゃん、と感心しながら見ていた。


 物語がふたたび、血なまぐさい雰囲気を帯びてくるのは、ジョン王が十字軍遠征で逼迫した国家財政再建のために、もともと国民の生活がぎりぎり締め付けていた税率をさらに引き上げたことである。ジョン王の信任を得たゴドフリーがイギリス国内で内乱を引き起こそうと、ジョン王の名のもとに無茶な取り立てをし始めたため、ジョン王と領主達の関係は一気に険悪なものとなっていく。


 この辺の「フランスの陰謀によってイギリス大混乱」という、単純な「陰謀論」の構図に落とし込んだところが、ブライアン・ヘルゲランド翻案の「ロビン・フッド」物語の欠点ではないか、と思う。
 もともと「ロビン・フッド」という物語を、史劇としてリアルになぞらえて描くのであれば、もう少し歴史に忠実に描ければもっと良かったのだが、かなり大胆にそして、テキトーに端折っているのはちょっと・・・。攻め込んできたフランスに対抗するため諸侯の手を借りたい王と、王の助力嘆願を聞く気がない諸侯の話し合いが平行線の中、サー・ウォルター卿の代理としてその場にやってきたロビンの大演説によって、大憲章をジョン王が認めるくだりは、なんか1時間のテレビ時代劇のような単純さで、「そんなノリで決めちゃったカンジなの−?」と軽くずっこけてしまった。


 ただ、この中で、十字軍という名の終わりの見えない宗教戦争に従軍し、血で血を洗う戦いのただ中に生きてきた、「ただのロビン」さんが、自分の出自や、人を愛し、愛することを知って、民の心がわからぬ暗愚な王に「民が国を愛する条件」というのを提示しつつ諭す、という展開が、英雄「ロビン・フッド」としての「魂」を手に入れる、という流れになっている。
 そして、長く戦士として生き、心が疲れた男が、王に嫉妬され、イングランドの無法者となったことで、逆に彼は大事な居場所を見つけていく。シャーウッドの森で気のおけない仲間と、愛する女性とともに、一時でもやすらぎの場所を見つけ、王の暴政から民を守るために生きていくことを決める。
 一兵士に過ぎなかった男が、自分の居場所を見つけたことで、イギリスにおける伝説の人物になっていくまでを、力強い筆致で描いた、史劇エンターテイメントとしてはなかなか面白い佳作になっていると思います。(★★★☆)