虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「バンク・ジョブ」

toshi202008-11-23

原題:The Bank Job
監督:ロジャー・ドナルドソン
脚本:ディック・クレメントイアン・ラ・フレネ


 1971年、イギリス。ベイカー街にある銀行の貸金庫が荒らされた。被害額は5311万ポンド=約108億円。犯人はその会話を無線で傍受されており、その内容がマスコミに流され話題となるも、政府からD通告という報道統制が敷かれ、真相は闇の中。犯人も逮捕されていない。その裏にあったものはなにか?
 ・・・というイギリスで実際に起きた、犯人不明の銀行強盗事件を叩き台にした犯罪劇。


 面白いな、と思った。理由は明白で、この映画は「歴史の空白」を埋める歴史劇の要素がある娯楽作だから。



 実在の事件、実在の人物をたくみに組み合わせてそれを一つにしてみせた、という辺りがこの映画の白眉で、俺がイギリス人だったらもっともっと楽しかったんだろうな、と思う。日本における「三億円事件」元にした映画と同じで、事件を叩き台にしながら、その歴史では決して語られない部分を補完できるのが、物語の強みだ。もっと言えば「歴史系娯楽作」と考えた方がしっくりくる。
 そういう「実録系」とはちょっと趣を異にする娯楽性の強い犯罪劇に仕上げたのはお見事というほかなく、その語り口は軽やか。犯人たちのキャラクターも個性的かつ、いい面構えの役者をそろえ、本来の作劇なら、もっと目線をジェイソン・ステイサム演じるテリー寄りの目線にしておきたいところを、あえて俯瞰させるかたちで諜報機関や黒人左翼活動家などを絡ませながら並行する群像劇にしながら、当時の有名人の逮捕劇とうまく掛け合わせて、その裏にあったものの真相に迫る、という趣向がにくい。


 サスペンス調にするとあとで、一気に説明しないと意味が通じなくなるし、一気に説明するには状況が複雑なのだから、ベターな脚本だと思う。


 クライマックスのまとめ方も非常にシンプルにして明快で、娯楽作として一気にたたみかける展開が秀逸。実際に犯人が分からない映画だと、意外と歯切れが悪く娯楽性がおざなりになるケースがままあるが、この映画は痛快さを重視し、複雑な状況をきちんと整理した後、明快なクライマックスへと突っ走る。その割り切りが清々しい。この内容で1時間50分という上映時間でまとめあげたのはさすがというほかない。(★★★★)