虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「ブラインドネス」

toshi202008-11-22

原題:Blindness
監督:フェルナンド・メイレレス
原作:ジョゼ・サラマーゴ
脚本:ドン・マッケラー


 一人の男が突然失明した。眼科で診察してもらったが、目は正常であると言われる。そのうちに、一人また一人、視力を失っていく。感染原因もわからない。対処法もない。なぞの失明で次々に視力を失っていく人々が増加する中で、政府が取った対応とは・・・


 「感染者」の強制隔離だった。
 ヒロインは目が見える状態で失明した夫ともに「潜入」し、その施設で繰り広げられる「惨状」を「目撃」することになる。



 原作は未読。


 えーと。うん。ぼかあね。小学校の林間学校が嫌いだった。あれは恐怖のイベントだった。
 だって・・・。なあ。なんで、街から隔絶された、どこともわからん場所で、同級生とはいえ、勝手しらん他人と数日過ごさねばいかんのか。なんつーか、正直苦痛ですよ。中学や高校の修学旅行とかなら、まだ自由行動があるかもわからんけど、林間学校って、ほとんど軟禁に近い。あれはつらい。あれはつらかった。今はもうきれいさっぱり忘れ去ってたはずのことを、この映画を見て思い出した。なんだよもう。



 というわけで、結構精神的に来ました。こういうタイプの映画だとは全く思ってなかったので。もう、前提となる設定で、「ざわざわっ・・・」となってる俺がいた。


 まさか強制隔離の話とは・・・。


 正直言って、小学校の林間学校とかが恐怖の対象だった自分にとって、まずこの映画が作り出した状況そのものが耐えられない。どこにも行けない場所で延々とそこにいる、なんてものが耐えられない。老若男女問わず雑魚寝で、プライベートもなし。しかも、あれですよ、ヒロインが「目が見える=いくばくか正気を保ちやすい人間」で、他の人々は全員が「目が見えない上にどこの誰ともわからん人間と、いつ終わるとも分からぬ共同生活をさせられる不安で発狂しそうな人々」で、そいつらと一緒に共同生活、って。


 お前、お前ひどいぞ。ほんと。「電波少年」だってこんなことせえへんぞ、という感じ。


 しかも、見えないのをいいことにどこでも、うんこしっこをまきちらし、ゲロも放置、ろくにトイレも使えなくなる人間たちと一緒なわけでしょう?しかも、看護婦とか、パートの掃除夫もいない、医者の一人もいない状況。統率を取る「林間学校における引率の先生」がいない状況って・・・つまり大人の欲望と体を持った小学生の群れじゃねーか。こういう状況での小学生がどういうことするのか。もう想像もしたくない。
 俺、目が見えてても見えなくても発狂するわ。大体トイレどうすんねん。この映画、アメリカだからいいけど、日本だったらひどいぞ。和式便所だった日には・・・・なんてことを考えただけで、「俺帰る、俺おうち帰る」という気持ちになってしまって、久々に「生理的に耐えられないから途中退出したい」という気持ちになった。


 まずさ、あんな状況で目が見えない、ってだけで自殺者出るだろ。数人って単位じゃねーぞ絶対。その割にはみんな正気保っているもんだから、「うわあみんなタフやなあ、俺だったら絶対精神的に破壊されてる」って思う。精神病院の隔離病棟にいるよりひどいもん。俺の近しい人で精神隔離病棟に入った人いたけど、もっとキレイやったもんなあ。なんで目が見えない、ってだけであんな扱い受けねばならんのか。


 もうさ、映画見ていると映像がやたらリアルなもんだから、もう「いろんな匂い」を想像しちゃってとまらなくなっちゃって。それを想像したら、俺絶対ひたすらベッドで寝てる。動かない。悪臭とかそういうにおいのない国に行きたい、とか絶対思う。しかも目が見えない分、嗅覚自体は上がっているわけでしょ?あああああ、耐えられん。
 そのうちにガエル・ガルシア・ベルナル演じる「ジャイアン」(仮称)が「おまえのものはおれのもの、おまえの女もおれのもの」てな具合に、管理者なき無法地帯で元気に暴れ回るわけだけど、正直、俺からするとあんなにおいの中でよくそんなこと考えられるな、てめえ鼻ないのかヨ!!!と絶叫してる。


 あと気になったんだけど、あの隔離施設に「子供もまとめて入れる」という設定にしたのはまずくないか?「ジャイアン」(仮)がのさばり始めたあとに「飯が欲しければ女を差し出せ」という展開があるんだけど、その「女」が「年齢制限」がなかったらどうすんの? 「ジャイアン」の取り巻きにロリコンやホモがいないとは限らないじゃんか。モラルの限界突破の恐ろしさは、こんなものではない、だろうと思う。
 そんな具合に、見ている間、負のスパイラル妄想が止まらない。映画の中で描かれている状況より、もっと過酷な状況になってる人もいるような気がして、より酷い方面の想像がもくもくと浮かび上がって、よりキリキリと精神が追い詰められて、本当、見ている間しんどかった。


 だから、この映画で紆余曲折あって、ヒロインやその仲間数名がなんとか脱出したあとの開放感が格別すぎて、ふへえと思ったけれど、これはほんの一例であって、もっと酷い状況もあったと思うんだな。それだけに、この映画が描いたものって、世界でもっとも酷い状況では「なかった」人々の幸運な話に過ぎないような気もした。このシチュエーションを完璧に描ききったら、もうシャレじゃ済まない映画になると思うんだよな。
 だからラストでいくばくかの「希望」が含まれているんだけど、その希望を俺は共有できないでいる。なぜなら、俺はヒロインやその仲間ほど、タフにはなれないから。多分、死んでるか、廃人になってると思った。


 映画自体は「良くできている」と思ったけど、それ以上に「見えてはいけない林間学校」という極限状況を考えたヤツを殺したい気持ちが勝っている、というのが正直なところ。とにかくシチュエーションで心が折れて、話に気持ちがついていけなかった。(★★★)