虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」

toshi202008-05-17

原題:Charlie Wilson's War
監督:マイク・ニコルズ
脚本:アーロン・ソーキン
原作:ジョージ・クライル



 いくつか批評を見ていて、チャーリー・ウィルソンが劇中のような人物だったか、とか、この映画が実話かどうか、ということにこだわっているものをいくつか散見して思ったのだが、その視点は、正直あまり意味がない。と思った。プロパガンダの危険性を恐れるのはいいが、それでは、この映画が描こうとしたものを曇らせる事になる気がする。



 この映画の目論見は非常に明快であるし、少なくとも日本で宣伝されているような「本当にあった美談」ではない、わな。
 ジョージ・クライルによるノンフィクション小説の原作を叩き台に脚色したアーロン・ソーキンが描こうとしたのは、「アメリカの因果応報」ということだろう。チャーリー・ウィルソンという人物が実在の人物でありながら、その行いは冷戦下の「極秘戦争」だったが故に真実を語れるものは多くない。それを逆手にとって、この映画は「ひとつのフィクション」として捉えている節がある。
 武器供与があった、というのは大筋では間違いがない、という確信で映画は描かれ、基本的にジャーナリスティックは感じさせない。ただ、チャーリーの視点から描くならば、観客にチャーリーに共感させる必要がある、という意味でのトム・ハンクスというキャスティングなのだろうし、共感させるために様々な「仕掛け」をほどこしてはいる。しかし、それは「物語」化する過程で通過しなければならぬものだ。ストーリーテラーとしては十分誠実だと思うし、彼が引き起こしたこととその因果がより明快になったとおもう。。
 キャラクター配置も必要最低限にとどめ、ドラマをシンプルにすることで、コメディとしての体裁をとりつつ、しかしその先にある、皮肉な結末を止めることで「人間万事塞翁が馬」のエピソードにつながっていく。


 人間は悪意のみでは動かないし、善意だけで動くわけでもない。ただ、現状を打破しようとし、転がり始めた雪玉は、次第にふくらみながら行方もわからぬままに突き進んでいく。この映画は、アメリカという国の根本的な病理を、愛と皮相をもって描いているように思えた。
 映画のラストで、「最後に失敗しちゃった。ごめんね。」という妙な軽さと、現実に引き起こされた結果の重大さの落差こそ、アメリカという国が抱える因果そのものであろうし、この物語の描こうとしたものであろうと思う。一見美談に見える、非常に腹黒いコメディなのである。そういう意味では、もっときちんと評価されてほしい映画である。(★★★★)